第42話

 響のメイドからそう告げられ、生徒達は一斉に騒ぎ出す。

「それって今いない二人の事じゃないか!?」「急子ちゃんが!急子ちゃんが!」「あいつらは大丈夫なのか!」


「俺らは大丈夫なのか!」

「なんとかしてくれよ!」


 

 パニックになり騒いで慌てる。

 中には呆然として動けない物もいれば、泣き叫ぶものさえいた。

 この世界に来て、初めての『被害』なのだ。

 身近な人が、攫われた。

 振羅美剣と戦雷急子は大丈夫なのか。

 そもそも、自分達は大丈夫なのか。



「黙りなさい」


 そんな中、感情の無い声が草原に響いた。

 富士見七は突如としてクラスの前に現れ、その威厳を知らしめる。

 本当は、最初からいたけれど。


「三間天飛、今すぐ兵を出動させ周辺の調査及び防衛準備、それとこの子達を城に送る兵も寄こしなさい。城に付いたらすぐに会議を開きなさい。これは宣戦布告であり、開戦の合図よ……それと、本来これは貴方がやる仕事よ。目を覚ましなさい」

「…………チッ、『おいお前達―――」


 冷静に、されど怒りを少しだけ見せながら隊長にそう命令をする。

 普段優しい姿を見せる隊長も、この時ばかりは苛立って見えた。


「桜燕、貴方は今すぐ上空に飛んで周囲を見渡しなさい。そして矢白流麗と四乃々眼右美はその様子をしたから見てなさい。もしも敵らしきものを見つけたら地上まで降りて、襲われたら容赦なく射ちなさい」

「わ、わかりました!」

「「了解です!」」

「美咲賀斗琴……今は怒りを……感情を鎮めなさい。会議に参加し、この子達を導きなさい」

「……分かった。すまない」


 使える者は今すぐ使い、本来使える者も直す。

 上に立つ者として、しっかり役目を果たす。


「さてと……子供達・・・。戦争が始まるらしいけれど、どう?」


 すっかり黙ってしまったクラス。

 そう問われても、何て言えばいいかなんて、誰にも分らない。

「どう……って、んなこと言われても」

 誰だろうか、男子の誰が我慢できずにそう呟いた。

 ただ、そんな甘い言葉は七には響かなかったようだ。


「ハッキリ言うわ。そんなこと言う覚悟の無いガキは城の中に籠っていなさい。足手纏いはいらない」


 真っ直ぐな目でクラス全体を見て、そう言った。

 地面を見て目を反らす人間が、何人か。

 言葉だけ見れば酷い指導者にも見えるけれど、分かる者は分かったようだ。



「私は、さっさと魔王を倒し元の世界に帰る準備をする」


 元はただの教師、この世界に来ても教師。

 皆の印になる、そんな教師になるのが夢だった。

 それはこの世界に来ても同じだった。


「覚悟なんて、人を殺す時から既に出来ている。

 みんなは、どうだ?」


 美咲賀斗琴は七の隣に立ち、クラスを見据えた。


 前を見ている子は、ざっと数えて十数名。

 それでいい。未だにそっぽを向いてる子はいるけれど、彼らは覚悟がない子供だ。

 城に籠る、そんな酷い言葉を言わなくてもいい。


「覚悟が無かったら来なくていい。死んでほしくないからな」


 七も、本心はこうなのだ。

 子供の犠牲者なんていらないのだ。



「美剣と急子を、命に危険に晒してでも救いたい者は前に出ろ」


 真っ先に前に出てきたのは、速水銀子と一間と、戦雷急子の友である美登利佳歩みどりかほだった。

 三人共人を殺せた優等生。佳歩だけは、能力を未だに扱いきれていない部分もあるけれど。


「友達を見過ごすなんて出来ないですよ!」

「一……お前は相変わらずだな」

「私は富士見先生の弟子ですし。ここで行かなかったら泥塗りますよ」

「そうね。決断が早くて安心するわ。死なれると胸糞悪いから生き残ってね」

「なんか最近聞いたことある台詞じゃないですか」


 一はこの張り詰めた空気を無視して、らしい言葉・・・・・を先生に言う。

 銀子も真似して、それっぽいことを言った。

 佳歩だけは黙っていたけれど。


 その姿が皆の心を少し溶かしてくれたのか、今度は十人が前に出てきた。


「他に来るものはいないか」と優しく言うも、他の人たちは地面を見て唇をかみしめるだけだった。


「わ、私も行きますからねー!」

 と、空から燕の声が聞こえてきた。それに釣られてこちらに手を振る右美と流麗。


 合計十六名。

 十六人の子供たちが、戦争に覚悟があると答えてくれた。



「……駄目な教師だな、私は」

 誰にも聞こえない声で、小さく小さく呟いた。



「前に出てこない者は、今後訓練もしなくていい。王都も安全じゃないとなった時、逃げる場所も確保している……そうだよな?七」

「そうね。いままでキツイ訓練に付き合ってくれてありがとう。安心して、待っててほしいわ」


 二人は決して、覚悟の無い者を攻めなかった。

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