第40話

 私が人を殺してから二日経ち、先生とイチャイチャした日から一日経った。

 一昨日は嫌になるほどの雨で、昨日は(外に出てないけど)快晴と呼ぶに相応しい雲一つない晴れ空で、今日は何とも言えない曇り空。

 夏の暑さも過ぎ去り、気持ちのいい秋風が肌を撫でるのは嫌いじゃないからいいけれど。


 一昨日と同じように、私達は集まって移動した。

 この前は訓練内容を聞いていなかったから能天気で移動していたけれど、今日の訓練の内容は事前に先生と世呱々さんから聞いていた。


『魔物討伐』


 話し声は聞こえない……それどころか、明らかに人数が減っている。

 菊嬢姉妹の妹の馬虎ちゃん、お喋りメーカーききき林香子、平目君とか大地君とか色々な人がいない。


 響も、いない。


 来てない人達の心中は、なんとなく察せられる。

 殺せた私が言うのもなんだけど、人が目の前で死んだ恐怖とか、友達が目の前で人を殺した違和感とか。


 ただ、響に関しては違う。

 一昨日の訓練で気絶してから一度も起きてない。

 いくら寝坊遅刻ぐうたら星人とは言え、一日中寝ているのは初めてだ。

 一応、響のメイドさんが傍で見ていてくれてるらしいから、最悪死ぬとかは無いと思うけど……『心配』の二文字が頭に浮かぶ。



 城下町の大きな門を潜り、広大な大地を見渡す。

 辺り一面草原が広がる何もない景色に、一本の獣道が真っ直ぐ森の方に向いていた。

 もしもこれがゲームなら、ランダムエンカウントでモンスターと遭遇しそうな。

 それくらいだだっ広い草原だったけれど、どうやら襲い掛かってくるモンスターはいないらしい。


 が、やはり目を引く生物はいた。

 四足歩行で歩くカバみたいな大きさした見た目が緑色の何か。

 その緑色の何か目掛けて低空飛行で空を駆けていった赤色の巨大鳥。

 真っ黒い犬(それか狼)が十匹以上の数で私達とは違う方向から森に向かっていて。

 濃い緑色のキリンが森の葉っぱを食べていた。


 至る所で、テレビで「これはアフリカの草原の~」と言いそうな光景が繰り広げられていて、私は内心ウキウキで楽しかった。

 ただ、他の人の反応はそうでもないらしく、思いつめた顔で動物を見つめていたり、ボーっとしていたり。

 物珍しい眼で見ているけれど、楽しんでいるのは少人数らしい。

『魔物』という未知の生物に対して恐怖を抱いている人が多いらしい。

 私は、そういうの割と大好きだからいいけど。



 森に入るかと思いきや、私達はここで止められる。

 どうやら、同行していた騎士さん達数人が森に入って魔物をおびき寄せて、それを私達が狩るらしい。

 ちなみにだけど、同行している騎士の中には三間天飛さんかんたかとさんがいる。

 初日の訓練にはいてくれたが、それ以降一切合わなかったから忙しい人だと思ったが、『魔物』という危険生物との実践訓練となると流石に同行せざるを得なかったか。


 とりあえず、私達は各々で距離を取り、武器を抜いた。

 私は遠距離から魔法で倒す役割だし、一番後ろから皆を見守ることにした。



 先頭にはガチガチに守りを固めてる翼が一番前で巨大な盾と巨大な槍を構えていた。

 翼はやはり、その能力を生かすために防御全振りでやっていくらしく、全身甲冑と大盾とそれを生かしながら攻撃できる槍を採用したらしい。

「その構え方絶対モ〇ハンのランスでしょ」とツッコもうとしたが、盾で守ってから槍で反撃をするならその構えからが最適解なのかなぁと思い口には出さなかった。

 

 そして、翼の横には剣を構えた先生がいる。

 隣の甲冑男とは違い、胸当てや籠手といった最低限の防具を着け、ロングソードを下に構えて森をじっと見つめている。

 普段『先生』として振る舞う先生も、ここでは生徒と一緒。

 真剣な表情で、経験を積もうとしていた。

 先生は今、どんな顔をしてるのかな。やる気に満ち溢れた顔か、それとも一昨日人を切った時のように無表情かな。

 出来れば前者がいいな。


 真ん中の外れの方に角寺君を見つけた。

 一昨日は凄い物を見せられたけど、彼の周りにはまだ虫は出てきていない。

 それどころか人もいない。

 まぁ、あれ見て近寄りたいとは思えないから仕方ないけど。


 上空・・には、空を飛んでる燕さんの姿を見つけた。

 何度か飛んでる所は見たことあるけれど、それは移動していた。

 今はその場で留まっており、体はただそこに立っているようなのに、翼だけ動いて飛んでいるのが……凡そ人間とは思えなかった。

 ただ、それだけ見てれば凄いかっこいいのに、隣にいる矢白君がボソッと「メガリザ〇ドンYみたい」とか言ったせいで、頭の中でリザ〇ドンがチラついて仕方ない。


 私達後方支援組は割とダラダラしている。

 私はこんなんだし、矢白君と右美ちゃんは弓を下に下ろしながら話してるし。

 真ん中の方を見れば他の魔法系能力の人もいるけど、私はそこに混ざる気はなかったし、やることが無かったらもうちょっと真ん中に移動するつもりだった。


 ただ、一人だけ。私よりもさらに後ろにいるヤツがいる。


「ねぇ銀子」

「なに?」

「火南君どうしたの?なんか……覇気が無いって言うか、元気が無いって言うか」


 火南は、私よりも後ろでボーっとしていた。


「さぁ?あんな火南見たこと無いから分かんない」

 小声で、彼に聞こえない声で右美ちゃんに告げた。

「一応サッカーで疲れた時とかはボーっとする時は昔あったけど、それじゃないと思うんだよね」

「『クラスのモテる奴、高飛車火南』のイメージが崩れるな。普段ならざまぁとか思うが、あれはなんか……友として見ていられないぞ」

「ねー、後輩ちゃん達に見せてあげたい」


 三人でひそひそと話す。

 正直、ああなった理由が本当に分からない。お腹でも痛いのかなって普通に心配している。

 いやまぁ声掛けるほどかって言われたらそうじゃないんだけど。




「「きゃああああああああああああああああああ!!!!」」


 ホラー映画で聞くような甲高い叫び声が上がり目線は自然と森の方を向いた。

 なんとそこには―――。



 ―――人間の足が生えた巨大茸が、何体も何体も森から出てきていた。



「「「きっしょ!!」」」


 偶然にも三人の声が被り……とか言ってられない。

 何体も、と言ったが、遠目から適当に数えて十以上はいて、それがのっそのっそとまだまだ森の中から出てきている。

 とりあえず、魔法を発動しようと構えたが、前に人がいたり混乱してこっちに逃げてきりしていてとても危ない。


「チッ、ここからじゃ狙えないか」

「もう少し前に出ましょ」

「うん……ん?」


 シュンッと、風を切る音。

 さっきまで後ろでボーっとしていた火南がダッシュで前線に向かっていた。

 両手に炎の玉を保持しながら、全速力で。



 あれ、絶対楽しそうなことするでしょ。

 面白そ。真似しよ。



「じゃあ、私も前線行ってみるー」

「はあ!?」

「ちょっ銀子!気をつけてよね!」


 後ろから心配の声をバネにして大地を蹴る。

 イメージするのは、あの巨大茸の生き標本か、それとも氷柱に刺さる茸か。

 どちらもしてみて、通用するか確かる!!


「落ち着けお前ら!訓練でやった通り―――」


 騎士団長様の荒い声の定型文。 

 そんな物は、左耳から右耳に通って行った。



「『インフェルノ』」



 前方の火南の声が魔法を発動すると、二体の巨大茸は円形の魔法陣のようなものに囲まれたと思えば、すぐに蒼い炎で燃やし尽くされた。

 明らかなオーバーキル、どれくらいの力加減で相手していいか分からない様子。


「まっ!それは多分私もだけど!『アイシクルランス』『氷柱落とし』」


 前者はの魔法は前に飛ばす氷柱、後者は上から落とす氷柱。ちなみに後者はオリジナル魔法だ。

『氷柱落とし』は私の狙い通り、脳天から足まで貫き地面に固定された。未だピクピク動いているのが気持ち悪い。

『アイシクルランス』は、上から落ちる『氷柱落とし』と違い、私の目の前で発射するタイプの魔法だ。その茸の白い部分(よく見たらエリンギみたいな見た目)に突き刺さり、そのまま勢いは衰えず後ろにいた茸まで巻き込む。


 うん、通用する。

 私の魔法は化け物相手に通用する。

 その事実が、たまらなくうれしかった。

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