第39話
この世界に来てから、深い睡眠を取るようになったなと、起きたばかりの銀子は何気なく思った。
別に日本にいた頃眠れなかったわけじゃない。
長時間体を動かしたりすれば全身に疲れが出てすぐ寝てしまう。
あ。
そうだった、お風呂……というか、何時?
視線を先生の胸から外し、壁に掛けられた丸時計を見る。
「―――十時、ん?えっ嘘待ってじゅう……じ?」
「おはようございます銀子様」
「!?」
窓際の世呱々、ちがう、窓際に立つ世呱々さんが挨拶してきた。
すぐ傍に小さな椅子があり本が置いてあった。私が起きるのを待っていたのかな。
「あの、訓練……」
「ご心配ありません。皆様心身ともに疲労しているだろうということで、本日はお休みと聞いております」
「そ、そっか。そうですか」
そういえば、昨日人殺したし、精神的に辛い人が多いのか。
先生も大分疲れていたし……ん?
「あのー世呱々さん、ここ、先生部屋……」
「申し訳ありません銀子様。斗琴様の侍女、向井と話し合い、お二人の時間を邪魔させず活お二人の生活をサポートする、と判断しました」
「……と、言いますと?」
世呱々さんの言ってることがほとんど分からず、起きたばっかりで頭も回ってないせいで変な聞き方をしてしまった。
世呱々さんは「うーん……」と天井を見て少しだけ考えた。分かりやすく説明するの難しいの、凄い分かる。
「お言葉を選ばずに言うなら、『中途半端に隠そうとせず、私達に気にしないで愛をはぐくんでください』でしょうか?」
十秒程考えた結果がこれらしい。
なるほど分かりやすい。
……。
顔が赤くなっていくのを感じる。
口元が緩むのを感じ、顔を隠すために布団へと潜った。
「い……いつから、気付いていたでしょうか」
「初日から」
「でしょうねぇそうでしょうねぇまぁそうだよねぇ……」
「なんなら私に『同性婚』ってあるんですかって」
「そういえばそうでしたああぁぁぁ」
二日目の夜、なんとなく聞いてみたことを思い出した。
そうだよね、そうだよね……。
「……うるさい」
寝っ転がったまま、低い声で呟いた先生。
「先生!」
「騒がしくしてしまって申し訳ございません。そして、おはようございます、斗琴様」
「……理解…………ふぁ、あ……ああぁ」
そう言って先生は大きな欠伸をし、まだ眠いのかタオルケットの位置を寝っ転がりながら直す。
「もうめんどくさいから明かすけど、世呱々さん、でいいんだよな?」
「はい」
「私達は付き合ってる。これはもう分かってるな?」
「はい」
だんだんといつもの声に戻りながら、けれど眠たそうに。
長年の秘密を、雑談でもするかのテンションで話す。
「絶対他の人に明かすな。これだけは、守ってくれ」
「はい、承知致しました」
「じゃあ……後はいい。今は、お腹が空いた。サンドイッチを沢山と何か温かいスープを持ってきてもらってもいいか?」
「具材の方はどうしましょう」
「カツサンド……は無いんだったな。料理長さんの気分でいい。銀子は?」
「へっ?」
急に振られても困る。
ご飯はゆっくり考えたい。
「え、えーと……じゃあ、玉子いっぱいに挟んだサンドイッチを。あっ、スープは同じので」
「承知致しました。それでは失礼します」
世呱々さんは満面の笑みを浮かべながら部屋から出て行った。
どういう意味での笑みなんだろう。明らかに接客とかするような笑みじゃない。
「さてと……おはよう銀子」
「おぉうおはようございます、今ですか?」
「言ってなかったからな」
ようやく起き上がり腕をの大きく伸ばし伸びをする。
珍しく髪がボサボサしてて、だらしない。
でも、かっこいいんだよなぁ。顔が。
ずるい。
「どうした?」
「べつにー?先生昨日シャワーすら浴びてなかったなーと思って。朝ごはん来る前に入っちゃいましょ。一緒に」
「それはいいが……狭いだろ」
「それでもいい。先生疲れてるし、髪洗ってあげる」
「……そうか」
そうやって優しく微笑む。
「銀子、私は今から珍しくぶっちゃける」
「えー、ぶっちゃけるってそうとう珍しいですね」
「私はこの世界に来てから疲れた。今日くらい甘えさせてくれ」
「なるほどなるほど……え?えー!?」
我ながらオーバーリアクションだなと思った。
「先生が自ら甘えにくるって…………いえ、この先生の彼女であるこの速水銀子!誠心誠意尽くして先生を甘やかします」
「お前今日テンションおかしくない?」
「いっぱい寝たからですかね」
そういう日、あると思う。
パッとシャワーを浴びて、目も覚め頭も冴え。
だらだらと魔法の話してたら世呱々さんが朝ご飯持ってきてくれて。
先生が「沢山」とか言ったせいで十個くらい来たけど、料理長さんの気分が良かったのか全部の具の中身が違って驚いた。
どれも美味しく、先生は晩御飯もらべてなかったようでガツガツ食べてて、後から持ってきてくれたコンソメスープも優しい味で美味しかった。
いつの間にか十一時半を回ってて、これだと朝ご飯か昼ご飯か分からなくて。
あぁ、やっぱり。
先生が大好きだ。
かっこよくて、可愛くて。
優しくて、頼りになって、でもちゃんと厳しくしてくれて。
運動神経抜群なのも、仕事が出来るのも。
面倒くさがりなのも、それ故に優秀な所も。
「先生」
「なんだ?」
「世界で一番大好きです。前の世界と今の世界合わせても、世界で一番。」
「知ってるし、私もだ」
定型文をちょっと付け加えただけの台詞に、私達は満足した。
それでいい。
好きになって、先生しか見えなくて。
大丈夫、それで。
この世界で信じられるのは、先生の存在。
それさえ信じれれば、私はこの世界で生きていける。
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