第37話

「「あ」」


 女子部屋廊下。

 お互いが部屋とは真逆の方向に歩いているのを、米粒のような彼女を見て二人共思わず声を挙げた。

 一方は思わず小走りで相手の方に。

 もう一方は踵を返して相手とは真逆に。


「なんでそっち向くんですかアタック!」

「ゴッ……お前、こっち来てから剣とか振って筋力付いたんだから、考えろ」

 小走りから猛ダッシュ、猛ダッシュから地面を凍らせて滑って加速させて、およそ五十メートル以上の距離を三秒ほどで近づきそのまま背中を強く叩いた。ら、凄い形相で睨まれた。

 それと、多分筋力付いたと言うより、勢いを付け過ぎた方が正解だと思うけど、まぁ言わなくてもいいかと思った。


「……元気そうだな。銀子」

「うん。先生を見つけたからね」


 お互い名前を呼び合い、お互いに存在確かめ合う。


「早く部屋行こ!先生」

「そうだな。周りにバレないように、早くな」



 そう言って斗琴の部屋に直行し、私はベッドにゆっくり倒れた。

「あー!安心する!先生の部屋!」

「お前の部屋とそう変わらないだろ」

「もー、そういうことじゃない!先生だからいいの!」

「はいはい」


 いつも通りいちゃいちゃする。

 昨日と同じように。一週間前と同じように。

 それがなんて幸せか。

『この日常がいつまでも続けばいいのに』って、くさ台詞みたいなのが頭の中で浮かぶくらい。


「せんせ、早く寝よ?」

「……驚いた」

「え、何が?」

「……なんでもない。言ったら怒る」

 はっはーん?

「先生、もしかして期待してた?」

 ウザい表情を作ってそう言うと、先生もウザい顔して言い返す。

「……期待というか、なんて断ろうか考えてたんだ」

「はいはい」

「もういい、寝る」

「駄目ですよー、お風呂……せめてパジャマ?に着替えてくださーい」


 茶番みたいなことしているけど、先生の疲労が過去一で酷いのは私も分かっている。

 張り詰めた糸が、私が来て緩まったのは嬉しいし、精神的にもいいかもしれないけど。

「―――おっとっと」

 子供のように半目で眠たそうにして、私の方に倒れてきた先生は、可愛い反面心配で。

 庇護欲が駆り立てられ、仕方なく脱ぎたての服を脱がせた。


「今日は……しない」

「知ってますししませんよ。脱がないで寝たらしわくちゃになりますよ」

「……あぁ」

 思考停止してる感じ。

 もう先に寝かせちゃってから脱がよっかな。

「先生、欠伸出来ますか」

「しない」

 なんでそこだけ即答。

 どうしようかなー。

 あーーーーーー、

 あっ―――。


「―――ふぁ……ああぁぁ……」


 思わず私が欠伸をし、その瞬間に私の後頭部に何かが圧し掛かる感じがして。

 あぁ……張り詰めてたのは、私の方だったのかな。


もう、いっかな。

    

  「――――。」

       「―――。」



 そこから、私達はお互いに何かを言った気がする。

 けど、私は何を言ったか覚えていなかった。

 覚えていたのは、先生の可哀そうな寝顔と、懺悔の言葉だった。

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