第28話

スベ輝之人之時ワ平等すべての人の時は平等デ皆平等ナで皆平等な死オ別蹴ラレル死を分けられる

 メノウ創造神話より抜粋。


 本当にそうかしら。


 齢三百にもなる妹の身体に触れながら、そう思った。


 いや、実際はそうなのかもしれない。


 私達は平等を嫌い、死を恐れたから、神から与えられた『死』を捨てて『永遠の命』を作った。


 その結果が、妹と私。


 現在教会により封印されている『禁術魔法』の一つ『ろう不死ふし永遠えいえんいのち』を作り、その魔法を己の身体に実行した妹は、魔法に不備があり永遠の眠りについた。

『永遠の眠り』というと死んだようにも聞こえるが、死んではいない。心臓の鼓動は正常で、息もしている。本当に永遠に寝ているだけだ。

 一応、どうして寝ているかはすぐに分かった。ただ、起こす方法がどうしても分からなかった。

 だから、今度は完璧な『不老不死人永遠之命』を私に使い、不老不死になった私は百年間ほど必死に妹の眠りを覚まさせる方法を探った。 


 私が不老不死になってから百年後、どうやら私達が作った魔法が教会にバレたようで、どうやら私達が作った魔法は神の意思に反するらしく、私と妹は教会に捕らえられてしまった。

 正直、逃げようと思えば逃げれた。なのに大人しく捕まったのは、当時寝たきりの妹を助けられなかったことに対する懺悔か何か。

 教会は私達を火炙りやら斬首やら考えていたらしいが、不老不死にそのような処刑は通用せず、当時はやつらの頭の悪さに思わず鼻で笑った。

 殺せないから、ということでメロウ王国のお城の牢屋、最下層に閉じ込められた私達。

 私は辛くなかった。妹がいたから。

 妹は分からないけど。


 そこから二百年の月日が経ち、私は教会と帝国との戦争において最終兵器として牢屋を出された。

 罪人の私は口応えが出来ない為、仕方なく教会の為に戦うことになった。まぁわざと手を抜いていたけどね。

 教会は戦力差的に負け秒読み。私の処遇はどうなるのかなーと思っていた所で、魔王の封印が解け、世界のピンチだからという理由で禁術魔法の一つでもある『異界之門』を使い、あの子達を無責任に呼び出した。

 そして、都合がいいから私を教師にさせる。無茶苦茶だわ。


 教会のいい加減な態度、その時点で、私がどちらに付くかなんて決まっている。


「三回目の引っ越しかな、眠無ねむ。次は絶対起こすから、もう少し待ってて」


 手を放し、午後の訓練の準備を進めた。

 この世界に来て六日目。

 クラスメイト達は能力の使い方を理解し、派手な魔法を使ったりめちゃめちゃ上手い剣技をしたり、なんか色々している。

「それに比べて俺は何をしてるんでしょうねー!!なんだよ【炎之意味】って!!知るかバーカ!!」


 この俺、振羅美剣ふらみつるはマジで何もしてなかった。


 いや、努力はしてきた。

 自分で能力の本や魔導書は何度も読んだし、分からない所があれば七さんや天飛さんに聞いて、七さんも天飛さんもそれに答えてくれる。

 火南も訓練に付き合ってくれるし、火魔法の練度は多分クラスの中で一番上手く扱える自信がある。


 ただ、能力だけが使えない。

 同じ火の能力がいて、それでいて俺より上手く使えたら、上位互換で俺の存在意義がなくなってしまう。

「『能力は想像したら使える』みたいな噂、やっぱデマじゃねーの?」

 ベッドに転がりながら口にするけど、心の中では自分が出来てないだけだと分かっている。

 想像なんて、好きな女の子とヤる妄想しかしてきてねーよ。

 そう思いながら、不貞寝した。

「ふーん、こいつうちに引き込めないかな。この美剣ってやつ」

「おや鬼危ききさん、どうしてですか?」

「【炎之意味】って私の【雷之意思】と近い物を感じるし、単純に赤メッシュで可愛い」

「前半凄く真面目なのに後半のせいで全部無駄になりましたよ。一体男に可愛さなんてショタか男の娘以外にありませんよ」

「性癖なんて十人十色だし、男子と女子で可愛いの意見が分かれるのは当たり前だろ。そういうお前は、誰か味方にしたいやつとかいるの?」

「見た目と能力しかない状態でそんなこと分かりませんよ。……【魑魅魍魎】を持った彼は、出来れば魔族側に引き入れたいものですが」

「あー、確か魔物作るんだっけ?確かにこっちだ」

「後は小山内という名の【心玉覚利】彼女を手に入れるだけで情報が得られる」

「わたしゃそういうのよく分からないからお前に任せるわー」


「あの、お二人共お話が盛り上がっている所申し訳ないんですが……どうやって引き込むんですか?」

「「誘拐」」

「いつ、どこで?」

「「適当に」」


 駄目だこの幹部達。


「誘拐とかなんだとか、どうでもいいわ」

 一室の隅。

 絵本を片手に、今にも寝てしまいそうな子供の声。


「殺せるんならどーでもいいよ」


 あまりにもありふれた狂人コメントに、一同は呆れながらタオルを被せた。


 魔人王国の幹部達は、今日もいい加減で元気だった。

 紅茶と香水が香る応接室。

 彼女と話す機会は多いけれど、いつからだろうか。何故か知らないけど僕はいつも南西側の席に座り、彼女はいつも北東側の席に座っていた。

 そんなこと、一回も話したことないのにそうなるんだから面白いもんだ。

 だから、僕は今日も南西側に座る。

 なんでだろうね。獣人族故の勘かな?


 白く明るい白樺の木目は、小さい頃からずっと一緒で顔にしか見えない。ほら、あれが目でこれが耳。口と鼻は無い。

 不気味な印象しかないけれど、もしもこれが無くなると寂しく感じるんだろうな。多分。

 そんなことを思いながら暇を潰していると、遠くの方から近づいてきた小さくて力強い足音が近くにきているよと耳が教えてくれる。


 ドアが、開く。

「あら、先にいたのね。結構早くに来たと思ったのに」

「大丈夫、僕も今来たばかりだ」

「その言葉も何回目かしら」


 そう言いながら、席に着いた。


 北東に座っているのは人間族の中で一番強いと言われている。女帝王、明智玉鬼。

 南北に座っているのは獣人族の中で一番強いと言われている。女王子、海月みつきつかさ


 種族違えど似た者同士。

 だから、君と話すのは大好きなんだ。


「早速だけど、本題を話してもいいかしら」

「これは珍しい、君はいつも紅茶を一口飲んで、感想を言ってから本題を話すのに」

「たまにはいいでしょう?」

「紅茶が冷めるのは正直嫌だけど……そうだね、それだけ君と大事な話が出来ると思うと有意義に思える」

「よかった。じゃあ……魔王が復活したわね」

「そうだね」

「獣人族は、貴方はどうするの?」


 ……これはまた、攻めた質問だ。


「貴方達は今まで民たちを自由にさせていた。獣の本能を信じて北へ南へ行く民を追わず、人間族にも魔人族付く民を止めなかった。だから、人間族からも魔人族からも、直接的な危害を喰らわずにすんだ」

「そうだね、それは先々代あたりからしてることで、おかげで君たちのように小さな戦争とか小競り合いをして民が命を落とすことはないし、何より平和だ。獣人族がした問題も、その人に向く。自己責任だ」


「「ただ、魔王は世界を支配しようとする」」


 お互い一度紅茶を飲む。


「いやー困ったね!今まではずっと無視してくれた魔人族の長さんも魔王様がうちを攻めると言えばここを落とされてしまうだろう。いやー、本当にどうしようねー!」

「えぇ、どうするのか私は見当もつかないわ」

 重い空気から一転して、二人でおかしな笑みを作る。

 ほんと、堅苦しいイメージなのにこうやってノッてくれるのは嬉しいね。


「まぁ、割と一つしか考えはないと思ってるけどね」

「あら、じゃあ私も一つ思いついたから、せーので言う?」

「いいねぇ、じゃあ私が言うからそれに合わせてくれないか?」


 二人してにっこにこな笑顔。

 作り笑いは作り笑いだけど、お互い八割くらいは本気で笑っている。

 ただ、もしもこれを言ったら、お互い本気で笑うかな。

「じゃあいくよ?せーの」


「「二人で世界を取らないか取りましょう?」」


 やっぱり、君の笑顔は綺麗だ。

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