第26話
「うっわ、銀子ってレズだったんだ」
前の世界で慣れ親しんだ教室。
四方八方の友達に囲まれて、そんな言葉を言われた。
「私もそんな風に見られてたと思うとマジキモいわ」
先生しか好きになったことないんだし、貴方のことをそんな目で見た事なんて一回も無い。勘違いキツイわ。
「てか先生と付き合うってのもちょっと……常識ってのが死んでる?」
そんなこと言うなら、イケメン先生を狙ってたし同じでしょ。同族嫌悪ってやつ?
「というか先生もレズってのが無いよねー!ある意味お似合いってか?色々可笑しい二人同士っていうか?」
性別を気にするほど時代遅れの考え方でよくギャルを名乗っていられるよ。
そんな、私らしくない言い合いを十秒、もしくは十分した所で、私はようやく気付いた。
ここは夢の中。実際に言われているわけじゃないし、実際に言うわけでもない。
だったら、何をしていいと思った。
「芯まで凍てつけ……『ダイヤモンドブリザード』」
最近練習中の魔法、現実では三回に一回の魔法も、夢の中だからか一発で成功出来た。
パッとしない色した教室の中は白銀へと生まれ変わり、床や机からは氷の針山が出来上がる。地獄はマグマと針山が相場だけど、氷と針山はどこが相場だろう。
そんなくだらないことを思っても意味はないけど。
周りのうるさかったやつらも氷に突き刺さり、流れる血が凍り、まぁ率直に言えば死んじゃったと思う。
教室の隅には、私のことをどう助けたらいいかわからなかった男達も死んじゃったけど、まぁ私からしたら誤差だ。
「銀子、そろそろ行くぞ」
教室のドアから先生が私を呼びかける。
教室から出れば外はすっかり雪景色に染まり、歩いた足跡を残す。
自分自身の夢にツッコむのもあれだけど、教室を出たら普通は廊下じゃない?
そんなくだらないことを思っても意味はないけど。
意味はないけど―――。
「―――どうしてここに先生が」
不思議な夢から覚めてから目に入ったのが先生の可愛い胸だ。
とりあえず頬擦りしておく。
別に先生と一緒に寝ていること自体は既に慣れしたんだ光景で、むしろ先生のいない朝はあまり落ち着かないが、いつもと違うのはここが私の部屋であること。
響と話した後、私は久しぶりに自分の部屋で眠った。
先生たちが話していた場所は先生の部屋、話しが長引くかもということもあり私は先生の部屋には行けなかった。
だから、今日だけは先生の寝顔を見れないと思ったけど、先生の方からやってくるとは思わず、その事実がめっちゃ嬉しい自分がいる。
もっと頬擦りしとこ。
昨日の夜は少しだけ新鮮だった。
単純に一人だけで寝ることもそうだが、朝一で先生と私が付き合ってることがバレて(山内さんはもっと前から知っていたらしいけど)なんだかんだ響の相談に乗ったとはいえ本当に大丈夫なのかなと余計な不安を感じながら眠った。
まぁ、朝早く起きて夜は遅くに寝たから寝付けなかったわけじゃないけど、お陰で夢は友人達を平気な顔して殺す夢。少しだけ精神的に休みたい気分だ。
先生も、ここ最近でずっと考え事してて大変そうだ。
またあの日みたいに朝まで乱れたことをしてほしいけど、欲を言うなら、この世界にあるか分からないけどホテルみたいな所で一日中していたい。
「んっ……んあー」
先生の目が薄く開き、喉の奥から少しエロい声を漏らす。
こんな下品な妄想をしている時に、艶めかしい声をしないでほしい。まあ朝から妄想している私が悪いけど、私は悪くない。
しかし、こんなボーっとした先生は久しぶりだ。それだけ夜通し話し合ったのだろうか。
「先生、おはようございます」
「……銀子、か」
寝ぼけた先生の顔を覗き込みながら話しかける。
衝動的に軽く頭を撫でみると、髪の毛のパサパサ感からお風呂に入ってないと察する。それだけ話し合ってたのか、私は大して話してないし、響を元気づけた(と言っても微妙だけど)だけなのに、先生たちは頑張ってるなぁ。
「……なぁ、銀子」
「なんです?」
「……いや、なんでもない」
一度合った目を反らして、ベッドから抜け出した。頭を掻くと「あっ、風呂……」と言葉を零す。
……ふむ?
とりあえず、キスでもしてみよう。
「……あむっ」
「んっ……!」
私はベッドの縁に立ち、そっぽを向いていた先生の顔を掴み強引にキスした。
身長は珍しく私の方が上、横になってる時の上下関係はいつも適当だけど、立ってのキスはいつも見上げる形だった。
不満はないけど、新鮮だ。これからもしたい。
チュパチュパと舌の感触も楽しんで、私達は口を離した。
「……いきなりどうした」
「え?キスしたくなったけど、言うの恥ずかしくなったのかなーって」
「そんなんじゃないけど……まぁ、元気は出たよ。ありがとう」
先生は、少しの不満とまんざらではない表情をして撫でてくれた。
大事なのは、そこじゃない。
「そんなんじゃない……って、なに?」
今度は目を伏せた。
「……すぐにわかる」
悲しい表情と呆れた表情、その両方を隠すように私の元から離れた。
今は、聞かないでおこう。
「ところで先生」
「なんだ?」
「普段は私が人目のつかない時間に部屋から出てるんですけど、もう人も起きてる時間、どうやって私の部屋から出るんですか?」
「……………………」
部屋に沈黙が続いた。
「……銀子の能力で氷の床みたいなのは作れないか?」
「氷の床?」
「あの映画で言えば階段みたいな感じ。あれを窓の外に作る感じ」
「……氷ですよ?パキッてなったらどうなるか」
「分厚い氷なら楽勝だろ。私軽いし」
「それは自慢ですか……まぁ今はこれしか思いつかないし、やってみます」
能力は想像だ。
窓の外に顔を出し、ここから先生の部屋を見る。
ここに、橋を架けるように。けれど、他の部屋の人にバレないように、窓より少し上。
薄い氷は割れちゃうから、出来るだけ分厚く。
まぁ、攻撃の仕方とか考えなくていいから、普段より楽かな。
「【雪之女王】」
出来上がった氷の床は上手く空中に出来上がる。
空中に作った、というわけではなく、壁に無理やり氷を壁に貼り付けた。
「出来ました。バレちゃうと駄目ですので、早めに部屋に戻ってください。終わったら……まぁお風呂でも入って、少しでもいいからゆっくりしてください」
「気遣いありがとう、でも……」
でも、と言った時の表情は隠し事をしている時の表情と同じで、暗い。
「……心配させているようで悪いな」
そう言われ、少しだけ驚く。
なんで、と思ったが、私が先生のことが隠し事していることが分かるように、先生も私が心配していることが分かるんだなとー……となんとなく思うと、少し嬉しくも思える。
「でも……すぐに分かるさ」
「そう、ですか」
なんだろう。
過去に見たことのない先生の表情に困惑する。
「何かあったら私に言え。みんなはともかく、お前だけはなんとかする。どんなことがあってもな」
「……え?」
先生の発言に思わず目を剥く。
みんな、みんなって。
だって、先生が私のことが好きであっても、先生は先生の儘で、私はクラスメイトで、どんなことがあっても、生徒を第一にと考えていたのに。
どうして……。
「時間もギリギリだし、そろそろ行く。ありがとうな」
「あっ……」
そう言って、先生は窓の奥に消えていった。
一人になった後も色々考えているけど、やっぱり分からない。
先生の隠し事、それだけ重いものなんだろう。
「聞けるときになって、もしもしょうもなかったら怒ってやる」
窓の外に先生がいないことを見てからそう言った。
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