第23話

 オレンジ色の夕日が消え入りそうな時間。

 先生に呼ばれた獅子山先生と富士見先生、そして私、小山内玉萌が先生の部屋にいる。

 話の内容は、朝一に言った響さんの【未来予知】で見た魔物の大群。そして、皇帝陛下のこと。


「―――って事があった」

「経った一日で何があったのよ」

「私が知りたい」

「美咲賀先生、心なしか物凄い疲れていませんか」

「そうか?全然大丈夫だ」

「『一日中考えているから仕方ないだろ』先生、少し休んだらどうでしょうか」

「……大丈夫だ」

(頭痛が酷いことは誰にも言うなよ)

 心の中で釘を刺されたので、私は何も言わなかった。

「まぁ貴方の体調は後回しでいいとして……一つ聞きたいのだけど、帝国に付くかって話、私に言っていいの?私が教皇に話したら貴方達、反逆罪で捕らえられるわよ」

「……それに付いては、小山内が」

 富士見先生が突き刺さる目線を美咲賀先生に向け、その視線から逃げるように目を伏せ、逃げるように私に指差した。

「あぁ……【心玉覚利】か」

(……貴方には申し訳ないけど、やりずらいわね)

「……私は、お茶会が終わった後に皇帝陛下様に会いました。友達と一緒にいたんですけど―――」

「あっ!皇帝陛下の……えーと」

「あら、貴方達はこの世界に来た子達ね。改めまして、明智玉鬼と言うわ。林香子さん、戦雷急子せんらいきゅうこさん、小山内玉藻さん」


(こんにちは【心玉覚利】の小山内玉萌さん)

「!?」


「え!?なんで私達の名前を知っているんですか!」

「貴方達全員分の顔と名前の資料を貰ってね、記憶力に自身はある方なのよ……って言うけど、今回はたまたま覚えていただけで、正直まだ半分も覚えてないわ」


これ・・を見なさい)

「!?これ……」


「えー凄い!私なんて半年くらい一緒にいるけど、名前覚えてない奴なんて結構いますよ!ねっ、香子!」

「え?普通に覚えているよ」

「ゔぇぇええ!なんで!?四十人もいたら普通覚えきれない!?そう思わない?……玉萌ちゃん?」

「…………え?ごめんね、えー、うん……うん?そんなことないと思うな、うん」

「……?どうしたの玉萌ちゃん」

「うふふ、私に見惚れていたのかしら」


(大丈夫、貴方なら出来るわ。期待しているわ)


「……はい」

「あら、嬉しいわ」

「確かに、玉鬼さん……えーと、玉鬼様めちゃくちゃ綺麗だもんね!」

「嬉しいわ……そろそろ時間だからお暇させてもらうわ」

「はい!さようなら!」


(それじゃあ、よろしくね)

「―――ということがありまして」

「……上手く利用されたわね。で?皇帝陛下は私に何を伝えたいのかしら」


 一瞬だけ言うことを戸惑ったが、皇帝陛下の顔がチラつく。完璧に演じ切り、狂気の顔が。


「『貴方は神に縛られる人じゃない』」


「……なるほどね、皇帝陛下は何を知っていた?」

 皇帝陛下の記憶と、富士見先生の記憶を照らし合わせる。

「―――全部ですね」

「……マジでイカれてるわね。流石は反逆の帝王だわ。考える事が意味不明だわ」

(いや、考える事自体は出来る。それを平然とやるのが意味分からない)


「なんの話をしているのか全く分からないのだが……」

 この中で唯一何も知らない獅子山先生。先生だけど、もしかしたらこの場で一番いらないかもしれない。

 一応フォローするが、獅子山先生は色んな子の悩みに乗っている。

 それは、剣の振り方だとか魔法のコツだとかの新しい日常のことから、前の世界に帰りたい、戦争の恐怖などの答えのない悩みなども、美咲賀先生や他の生徒の知らない所で悩みを沢山悩みを聞いている。

 こういう所が、先生って感じがする。

「じゃあ何も分からない貴方に聞くわ。今の話を聞いて、貴方は帝国の傘下に下った方がいいと思う?」

「……いきなり投げられても困るな。少なくとも、美咲賀先生が聞いたことを全て信じるとするならば、我々にメリットしかないように聞こえる。今はデメリットを探して、傘下に下るかを考えるって所だが……」

「そう、そこだ。私達はこの国に留まるメリットも知らなければ、デメリットも知らない。私達はこの国、この世界のことが全く分からない。帝国は戦争が強いことしか知らないし、この国、メノウ王国は信仰に強いくらいしか知らない。こんな情弱な状態で何が決めろだ。あのクソ皇帝め」

「み、美咲賀先生、本音は漏れてますよ」

「……一旦、魔物の大群の方移そう。そっちの方が富士見先生も話せるだろ」

「……そうね、今はまだ貴方達の味方だわ」

(あいつの思い通りになるのが嫌なだけで、帝国に付くのは別に悪い相談じゃないのよね。教会と帝国の魔法技術はそこまで変わらないし、多分だけど研究も自由にさせてくれるはず)

「あっ、富士見先生。研究なども自由だそうです。……えーと、人を持ち出すのも手伝えることがあるなら手伝うそうです」

「本当に全部知られてるわね。見返りは?」

「えーと……別世界の転移と魔法兵器の研究を少しだけ手伝ってくれれば、他は全て自由……」

「かなりブラックじゃない。この様子なら、後から追加であれ手伝えこれ手伝えって言われそうね。報酬はそれ以外にもあるのかしら?」

「なんか、可能な願いなら叶えさせる。だそうです」

「うざいわねー上から目線が。時間があったら少し話し合わない?」

(出来れば、五時間くらい)

「それは……疲れちゃいそうですね」

「そう、話しは落ち着いたわ。魔物の大群について話しましょ」

(じゃあ、今度私が暇な時に話に伺うわね)

 どうやら、私の意見など関係なしに話し合うことは決まったようだ。


「で……実際に見た片美濃響はここにいないの?」

「いきなり本人に聞いても狼狽えるだけかと思ってな。それに、一人だけ頼りになるやつがいる」

「頼りになる?一体誰だ」

(銀子のことだ。きっと響に話しかけに行ってくれるだろう)

 先生の心の中で、幼馴染四人で行動している銀子さんの姿が映る。

 そして、三人のことを先生に嬉々として話す銀子さん。

「……なるほど、それは頼りになりますね」

「だろ?」

「「?」」

 獅子山先生と富士見先生は何を言っているのかわからない様子。

 仕方がない、内緒なんだもの。


「今から考えるのは、今ある情報で対策を打つことだ」

「ふーん……正直、貴方達が魔物を全員殺すしかないわよ?または、全員で帝国に逃げる」

「確か、響の予知夢には『どこ』とは言わなかったんだよな?」

「はい。見えたのは魔物の大群、鬼人やラミアやゾンビ、バレットアントやミリオンポイズン、スパイダースネークにレオグロス。能力とはいえ夢だからなのか、ボケて確認できた魔物はこれだけですが、他にも沢山の魔物が多そうです」

「待て待て、怒涛のカタカナで俺が付いていけてない」

「辛うじて分かったのが鬼人とゾンビしかいない。どこで覚えた」

 先生二人にツッコまれて、自分が何を言っているか今理解した。

「あー……兵士さんとか隊長さんの心を見ていっぱい知識が付いちゃって」

「というか、今思い出したけど貴方達ってまだ戦闘経験なかったわね……少し考えないと」

(明日にでも実戦練習の準備でもしようかしら……まぁ、今はこの話に集中しないと)

 富士見先生から少しだけ血の付いた心が見えたが、この世界に来てからそういうのも沢山見たのでグロテスク耐性が付き、今回もスルーした。

「だけど、場所が分からなかったらこの国なのか他の国なのか、それとも魔人が住み着いている場所なのかすら分からないじゃないか」

「そこなんですよね。あくまで夢を見たのは私じゃなくて響さんなので、響さんが『魔物の大群』を強調していると、そこしか見れない、というか覚えてないというかなんというか……あっ、後は『九月三十一日』だということですね」

 ここが【心玉覚利】の弱点と言うべきか、もしも見ていた相手の心が間違っていたら、私に間違って伝わってしまう。

 テストで例えるなら分かりやすい。カンニングしていたけど、見た人が間違って答えたせいで私も間違えた、とか?。

「時期が分かるのは嬉しいわね」

「ちなみに、この国にいたら私達は無事か?」

「さぁ?敵の数で変わるけど、多くても千くらいかしら。能力使いが貴方達だけで三十六人、そこから非戦闘員を抜いて、この国にいる能力者を合わせれば、多分四十人くらいでしょ?相手の桁が一つ足りないわね」

「つまり、無事というわけか?」

「一応ね。ちなみに、襲われた時に一番安全なのはタンザナイト王国とオパール王国だわ。襲撃を受けてもほぼ無傷なのはあの二つだけよ、逃げるならそこだし、襲われても援軍にいかなくてもいい。あの二つは、本当に。本気で落とすなら帝国と魔王が手を組まない限り破れないわ」

「つまり、最悪はそこに頼ると?」

「別にいいけど……まぁそこは自分達で考えたら?」


(帝国……あっ)

「「あっ」」


 獅子山先生の心に反応して、私も声を上げる。

 先程の『いらないかも』と思ったのは全力で撤回しよう。


「これ、九月末に入る前に魔王倒せば魔物来ないですよね?」

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