第20話

 私の名前は見玉合居けんぎょくあい

 ちょっとゲームが得意でストリーマーとかやっている以外は普通の女の子!

 そんな私が突然異世界に来ちゃってキャー大変!しかも私の能力は異能バトルでありがちな【能力無効】を習得したら、しん……なんとかさとり……いいや、心を読める女の子の会話の相手して……。


 うん、言葉浮かばないからもうやめとこ。

 今度暇があったら台本書いてみよ。絶対忘れるけど。


「あ、小山内さんだ。おーはー」

「ひゃっ……あぁ、見玉さんですか。おはようございます。おーはーです。あれですね、他の人は心読めるから話しかけられるタイミング分かるんですが、読めない見玉さんから話しかけられると分かりませんね」

「………………ウォールハックか」

「へ?」

「いや、ごめん。全人類が分からない例えした。なんでもない」

「なんなんですか、教えてくださいよ!他の人がボケてもそのネタ心見えるから分かるけど、見玉さんだけ分からないんですからね!」

「待って辛い、それは普通に辛い。ボケをわざわざ説明しなきゃいけないっていう地獄を味合わなきゃいけないの?」

「はい」

「もう一生小山内さんにボケない」

「それもやめてください!他の人はボケる前に『こういうボケしよう』って思っちゃうから嫌なんですよ」

「私はどっちかって言うとツッコミ側なんだよなぁ……」

「それボケる人みんな言いません?」

「それは、余の中の皆ボケてる方が馬鹿でツッコミしてる人が賢いって無意識に認識してるんだから、少しでも自分を賢く見せたいんでしょ」

「凄い偏見を見ました」


 それはそうと。


「こんな廊下で朝早くに何やってるの?」

「先生の所に行こうと。昨日だけで相談したいことが山程溜まりまして、昨日のうちに訓練が終わってから話しかけに行こうとしましたが、二人共今にも倒れそうなくらい眠いと言っておりましたので……色々あって早く寝たと思うのでこの時間なら起きてもおかしくないかと」

「あー、そういうことね。そういえば、先生あの後いなかったね……ん?でも、獅子山先生はいたよ?」

「え?」

「え?」

 一瞬の沈黙。

「二人って美咲賀先生と獅子山先生じゃないの?」

「…………今の、聞かなかったことにしてくれませんか」

「え、あぁはい。うん」

 可愛く睨まれてしまったらしょうがない。

 どうしよう、先生と誰なのか凄く気になる。こういうのを全部知ってるんだろうなぁと思うと羨ましいと思ってしまうのは仕方ないと思う。

「それはそうと、どうして見玉さんはこんな時間に?」

「全く同じ質問をされるとは思わなかった。いや、私って昔から長い時間睡眠を取らなくてさ。五時間とか……三時間しかとかいっぱいあってさ」

「えぇ、もっと寝てくださいよ」

「善処しまーす……って、このやり取り前の世界みたい。でもこれが普通でさ、ゲームばっかり、やって、いたんだけど、さっ!ゲーム、ないじゃん?」

「ず、ずいぶん溜めましてね……そんなに、ゲームがお好きなんですか?」

「もうめちゃくちゃ好き。あんまり褒められたことじゃないけど、本当に一日中してたから」

「そんなにですか。私で言うと、好きな本がもう読めないとかでしょうか?」

「まぁ、そんな感じ。もう……虚無感が、ね?」

 朝起きたら目を覚ますために適当なゲームを家を出る時間までやって、学校ではエゴサしたり授業中に大会の申請申し込んだりして、部活もバイトもしないからゲーセンに行って野良や大会。それが終わったら家に帰ってから個人で配信もしないでやるゲームやって、晩御飯食べたら飽きるまでの配信して、だいたい三時間から六時間くらいやったら寝る。

 馬鹿みたいな生活リズムだろ?ぶっちゃけ自分でも引いてる。

「ぶっちゃけ、私からゲームを取っても、ゲームを与えられる前から睡眠時間は少なかったからどうやっても四、五時間睡眠で起きちゃうのよ。まぁ愚痴を言ってても無駄だからとりあえず書庫に行って本読んでる。でも今日は小山内さんに付いて行こ」

「えっ、まぁ……別に大丈夫だと思いますが。先生の所に行くだけですよ?」

「だからだよ、何かあったら私がいた方がいいんじゃない?それに本読むより人と話しているの方が楽しいから出来れば付いて行きたい……あー、ごめん。相談だったっけ、じゃあ私邪魔か」

「い、いえ!全然大丈夫です。そうですね、まぁ他言無用ならいんじゃないかな……?うん、まぁ先生にお願いしてみますよ」

「わーい」

「まぁ、そもそも先生が起きていなかったら私は部屋に戻りますが」

「そうなっても、お昼ごろに相談すればいいよ、私は小山内に付いてく」


 まぁ、こんなくだらない話長話を廊下でしていたため、先生の部屋にたどり着くまで三十秒も辿り着かない、ここを真っ直ぐといけば先生の部屋に着く。


 ただ、タイミングというのはたまたま合ってしまうようで。


 先生の部屋からガチャリとドアが開く。一瞬先生かと思ったが、その髪色と背丈は明らかに先生ではなく、そして、よく見たことのある人物だった。

「銀ちゃん?」

「……へ?」

 先程の「二人」という言葉を思い出した。

 泥のように眠った私の朝は、先生の腕の中で起きた。

 先生はまだ眠っているようで、それをいいことに私は先生の胸に顔を近づけると、トクンットクンッと心地のいい心臓の音が聞こえ、なんだか安心する。

 心臓の音を聞いたら落ち着くって聞いたことあるけれど、あれは本当だったんだなと、これをする度に毎度思う。

 そんな幸せな時間と空間から先生を起こさないように抜け出して、時計の針をボーっと眺める。

 起きるには少し早い時間だけれども、昨日は夜が深まる前に寝たのだ。だからだいたい十時間くらい寝たのかな?

 もう少し寝たいけれど、二度寝したら訓練に間に合いそうになかったからやめておこう。

 それと、今のうちに昨日買った物を部屋とかに飾りたいし。

 まさかこんな時間に起きてる人はいないだろう。

 そう思い、ドアを開けたらこれだった。


「銀ちゃん?」

「……へ?」


 まーいずれこうなるだろうと思ったことはあるけれどこの世界に来てえーと五日目?こんな早くにバレる?ばれるよねそうだよねそもそも私は寝る時ほとんど先生の所だしそこから出る場所押さえられたらバレるのは必然的まぁそれは仕方ないし対策もしなかった私達が悪かったけれどもそんなことはどうでもいいそんなことはどうでもいいこっからどうすればいいどうしようどうしようどうしよう!!


「お…………おはよう」

「え?あぁうん、おはよう」

「おはよう、ございます」


 駄目だこれ反応的に何やっても詰んでる気がするどうしようどうしよう……あぁもうこうなったら、こんな使い方していいのか分からないけど!

 想像するのは逃げられないようにする壁と、念のため足を凍らせて動けなくする。そしてゆっくりと話し合えば多分大丈夫!


「っ!危ない見玉さん!」

「え?」

「【雪之女王】」


 魔法を発動する前に、小山内さんが叫んだがもう遅い。

 二人の後ろには氷で出来た壁が出来上がり、退路を断つ。

 その後に、二人の足元に氷塊が出来て床と足が離れなくなる。


 その予定だった。


 まず、壁は安易に作れた。ただの氷壁を作るぐらいなら威力も距離も想像なんてしなくてもいい。

 問題は、二人の足元。

 まずは合居ちゃん、おかしなことに、合居ちゃんには魔法が届かなかった。いや、足に辺りはしたけれど、凍らなかったというか、不発と言うか、そんな感じだ。

 そして小山内さん。何故か小山内さんは当たる直前にジャンプをして避けようとしたが、足を追尾するように氷が足まで伸び、空中で足が凍ってる。

 捕まえることは出来たけれど、予定とは少し違う結果となった。

「あっ、そっか。私って能力効かないんだった」

「えっ……なにその〇宰みたいな能力」

「でたな迷える犬。ちなみに私は幻〇殺しの方が好きだ」

「あの……下ろしてください……」

「球〇川君だっけ、あれも好き」

「あれはちょっと違うんじゃないかな、詳しくは大〇科とかウ〇キに書いてあると思うよ」

「助けて……助けて……」

「あっごめん、ちょっと待ってて」

 そう言って、合居ちゃんは地面と足に繋がれた氷を右手で触ってみる。

 しかし、何度触ろうと魔法が切れる様子は無く、試しに左手と両手でも試してみたが、魔法が消える様子は無い。

「なるほど……銀ちゃん、降参」

「え?」

 いきなりそんなことを言った合居ちゃんに素っ頓狂な声を返す。

「銀ちゃんの言う通りにするからさ、小山内さんを解いてくれると嬉しい。それに、別に拘束しなくても壁で逃げられないんだから」

「……そうだね、ごめんね小山内さん。いまから解くね」

 能力の解除はしたことが無いけれど『解除』を意識したら小山内さんに付いていた氷は一瞬にして消えた。

 その代わり、突然解いてしまったので上手く着地出来ず尻餅を付いてしまったようだ。

「あてて……」

「あぁごめん、大丈夫?」

「いえ……尻餅付いただけですので、大丈夫ですよ」


「……お前ら朝早くから何してる」


 部屋の中、私達を見下ろしながら明らかに怒気を孕んだ声を出したのは、私の愛しの人、先生。

 そういえば、ドア開けっぱなしだったことを忘れていた。

「銀子、いますぐその壁を壊せ。三人とも中に入れ。」

 先生は、先生の状態で怒るとめちゃくちゃ怖いんだよなぁ。

 ことの経緯を見玉さんが話すと、黙って聞いていた先生が口を開く。

 どんなことを話すか分かっている私は、内心ほっとしている。


「速水」

「はい……」

「どうしていきなり能力を発動した?」

「……ああするしかないかと思い」

「は?」

「……ついにバレたと思い、その、アウティングされたら怖いなと思い、実力行使に出るしかないと思いまして……その、はい。逃げられないようにしてお話しようかと」

 アウティング、速水さんの頭の中では(あれ?アウティングであってたっけ、見玉さんが響とか椿とかに私達がレズってことを伝えることであってるっけ)とご丁寧に説明してくれる。

 それにしても、逃げられないように退路を断って体の自由を奪って無理やり話し合うとか発想が物騒過ぎる。

「例えバレたとしても、やり方があるだろ。確かにアウティングは怖い、いつされるか分からないから一度でも『絶対に言わないよ』っていう言質は取っておきたい」

 先生も先生で何真顔で『現地取る』なんてちょっと怖いこと言ってるんだろう。

 でも、二人の心を見るに本当に人に晒すのが嫌だったんだろう。

『離れられたら』『嫌われたら』そんな心がチラチラと見える。

「だけどお前のやったことは、に閉じ込めて氷で動けなくして話し合おうって言うもんだぞ。普通に犯罪だ」

「はい、すみません……」

「もしも同じようなことがあっても、もうしないか」

「はい、もうしません……お二人共すみませんでした……」

 睨む先生、速水さんが既に反省しているだろうと見て、大きなため息を吐いてから「じゃあ、私はもう何も言わない」と言葉を吐いた。

 他の生徒と比べて少しだけ対応が甘い。それは先生自身も思ってることで、どうしたもんかと頭を掻いてる。

(自分のことで能力を使ってくれたの思うと、怒るに怒れない。教師として絶対にしてはいけないんだがな……)

 そんな教師としての苦悩。なるほど、生徒と教師の恋愛が禁止な理由が分かった気がする。

 ちなみに速水さんは既に反省は済ませて、もしも次があった時をことを考えている。

 切り替えが早いなぁ。


「で、問題は見玉だ」

「え?」

「え?じゃない。お前が私達の関係を他の人に言わないでほしい。約束してくれるか?」

「えーと、確認なんですけど……」

「なんだ?」

「お二人は……先生と銀ちゃんが、付き合ってるってことでいいの?」

「……ま、まぁそうなるな」

「なんか、改めてそう言われると照れちゃうね」

 自分達の関係を明かすことは初めてで、二人が恥ずかしそうに顔を反らしている。

 内心恥ずかしそうにされると私も恥ずかしい。

 もじもじと髪を弄ったり、姿勢を何度も正したりして落ちつかない様子の二人を、口元を両手で隠して目をこれでもかと開いている。今だけは見玉さんの心を読んでみたい。


「てぇてぇ……」


 そんな、隣にいる私にしか聞こえない言葉が聞こえた。

『てぇてぇ』ってなんだろう。

 先生と速水さんも知らないから、所謂オタク用語的な奴なのかな?

「そ、そんなことはいい。誰にも言わないか?」

「もちろん話しませんよ、リアル百合は見たことないですが、見る専ですが、好きですのでそういうの、はい」

「本当か?信じていいか?」

「私、そういう秘密事漏らしたことないんですよ。友達や……いや、先生と銀ちゃんは知ってるか。配信者同士の秘密事持つことは多いですけど、人の秘密も自分の秘密も言ったこともないですね。なので、安心していいですよ」


(人の嘘付く顔って色々あるから、まだ分かんないかなー。信じられるかな)

(……小山内の能力で見玉の心が見えないのが痛いな)

((もしもバラされたらどうしようか))

 二人共ちょっと心が怖い。

 先生の時も一瞬だけ見えた心だけども、見玉さんは割と信頼されていない。

「まぁ、信じることしか出来ないから、特に何も言わない」

「先生に同じく。まぁ人前で堂々とイチャイチャ出来るって思えばいいかな」

 速水さんは正座状態から立ち上がり、ずっと立っていた先生の腰元に勢いよく抱き着き———

「えへへー、どうだ」

(やっばい、人前で抱き着くのちょっといい!なんか、やばい!)

—――と、ニヤリとした笑みを私達に向けた。

「人前で抱き着くな」

「えー、いいじゃん。満更でも無いくせに」


 甘酸っぱい心を見るのが辛くなったのか、自然と目を反らそう。

「尊い……」

 横から消えそうな声だけは聞こえた。


「そういえば、小山内さんには聞いてなかったね。言わない?」

「あぁそうだった、実はもう小山内にはバレてるぞ。初日に」

「え?……うぇ!?」

(聞いてない、聞いてないんですけど!)

「あ、あはは……まぁ、そういうことです。ごめんなさい、そしてお幸せに」

 銀子さんの焦った心が見える。

 目で先生に訴えて、心では(私には報告してよ!)と言っているが、先生はツーンとした顔で(だって小山内に何かするかと思ったし。実際したし)と心で言った。

 なんでちょっと心で会話が出来てるんだろう。

「でも、どうしてバレたの?」

「えーと……」

 私は困ったように先生に目線を向けると、意図を組み取ってくれたのか(任せろ)と心の中で言ってくれた。

 私が心の中で話せるのは納得できるんですけどね。

「銀子、ここは聞かない方向で行こう」

「え?どうして?……てか先生だけ知ってるでしょ、ずるいよ」

「色々あるんだ、察しろ」(まぁ銀子ならこう言っとけば納得するだろ)

 説明の仕方が凄い雑な気がする。

「ふーん……じゃあ頑張って察する」

(先生がめんどくさそうな顔してる。朝っぱらから迷惑かけたし、今日は追うのやめとくかー。もうちょっとべたべたしたいからもうちょっとべとべとしよ。でも、初日って聞くと付き合い始めてからなのかこの世界に来てからなのか分からないなー。でも、なんとく『能力』だと思うんだよねー。【誰が誰を恋してるとか分かる能力】とか?でもそんなしょうもない能力普通持つかな?)

 素直に聞くの止めて、先生の背中の上に乗って私の能力を考察している。

 『能力』って所にもう辿り着いているのが凄い。ちょっとだけヒントを出してあげたくなる。

 ちなみに先生は心の中で(重い)と文句を言っている。実際に言わないのは優しさでもあるし、ほんのちょっとだけ私達に見せつけたい欲望も見える。

 先生のそういう所、意外ではあるけれど本当に速水さんのことが好きなんだなと思い微笑ましい気持ちになる。

 一昨日のことで、心に穴を埋めれる速水さんの存在はとてもでかかった。

 もしも速水さんがいなかったら、私達はオパール王国の傀儡になっていた可能性が高い。


「先生」

「なんだ、小山内」

「お楽しみの所悪いですが、大事な話をしてもいいですか?」


 だから、この二人に託してみよう。 


「銀子、下りろ」

「えー……はーいっと、これ私いても大丈夫なやつ?」

「あ、私も。もしも私がウザイとかだったら席外すよ」

「見玉さんはそんなこと思ってないですし、銀子さんはむしろいてくれると嬉しいです。多分、先生だけじゃ背負いきれない」


 私がそう言うと、先生の顔が引き締まる。

 二人は未だに理解してないが、次の私の言葉を聞くと、先生と同じ顔になった。

「ここは……いや、これ・・は」


 これは、私の能力。


 前方から、大量の魔物と魔人。

 人や虫、蛇とかライオン。

 元の世界とは似て非なるそいつらが、私達を襲った。


「これは……【未来予知】」


 悲しい現実で、変えられない現実。


 おかしいな、この景色が。


 九月三十一日の出来事だって、どうして分かるんだろう。

「これが、響さんが見た【未来予知】です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る