第16話

 温泉で色々な疲れを落とした後、食堂で「この後各国の王様が挨拶に来られるから礼拝堂室に来るように」と先生に教えられた。

 業務連絡をする時の先生はかっこいい。淡々と伝える感じがロボットみたいで。以前になんで伝える時は硬いんですかと聞いてみた所、噛んだり間違ったことを教えたくないから、それ以外のことを考えていない、と言っていた。

 仕事人みたいで超かっこいい。

「この話、昨日メイドさんから聞いたけど」

「王様って一体どんな人なんだろう!イケメンかな、お姫様って美人なのかな!」

「聞いた話だと、この世で一番の美人らしいぞ!」

「でも偉い人達だぜ?敬語で話さなかったら殺されそー」

 そんな話をしながらご飯やパンを食べる。

「翼はどう思う?」

「兵士さんから聞いた話だけど、アレキ……なんとか帝国の皇女は世界で一番腕っぷしが強いって言われているらしい。なんでも、斧とかを大剣を片手に一本ずつ持つ、斧二刀流らしい」

「流石にそれは……」

「いくら私でも信じれないかなぁ」

「そうか?俺は翼の言うこと信じるよ」

「男子と女子の意見分かれたな、戦争か?」

「くだらない」

「笑顔で言っても辛らつな言葉には変わらないよ銀子ぉ!」

 そもそも斧を二本振り回すって出来るの?って思ったけど、この世界って考えると意外と普通かも知れない。

 この世界って普通じゃないこといっぱいだしなぁ。


 例えば。

「ねぇねぇ燕。背中に穴空いてるよ」

「あー、それは開けてるんだよね。能力の関係で」

「あれ、燕の能力ってどんなやつ?」

「翼が生えて空が飛べる。だけど、服とかブラとかが邪魔なんだ。先生に相談してみたけど、とりあえず、その……付けないで穴開けるって方法で落ち着いてる」

「そ、そうなんだ」

「それはそうと……それ・・、どうしたの?」

これ・・?これは、その……能力で出した良く分からないいや二匹」

「カァー」「もきゅ?」

「こいつら出しとかないと頭の中で騒いうるさくて、昨日はずっと一人の時以外無視して出してなかったんだけど、今日は試験的に。ほら、挨拶して」

「よぉ嬢ちゃん、ノーブラなんて誘ってんのかぁ?」

 こんな感じに、後ろの席でも向こうの世界ではありえないような会話をしている。

 それに比べて私達の会話はまだ武器とかの話だからゲームの話かと思う人もいるかもしれない。ゆーうぃん。私は一体誰と戦ってるんだ。


 礼拝堂室に入るのは異世界に飛ばされてきた時以来で、あの時は大きな魔法陣があるだけに感じたが、今回は教会みたいに長椅子が並んである。

 そういえば、結婚式場はこういう場所を使われるらしいが、ここで結婚式を挙げることは出来るんだろうか。お城の中だから普通の人は出来なくて、偉い人だけ出来るとかありそうだ。

 まぁもしもここで挙げれたとしても、先生との結婚はひっそりとしたいから多分しないけど。先生がしたいって言ったらするかなー、でもそんなこと言わなそうだし、式はしないかも。

 ウェディングドレス着させてあげたい。

 そんな妄想をしていると、ふと周りの違和感になんとなく気付く。

 食堂ではあんなにうるさかったのに、今更緊張しているのかクラスメイト達は一言も喋っていない。

 先生の姿を見ようと後ろを振り向くと、顔を隠して欠伸をしていた。そんな姿を見て私も欠伸する。私達一睡もしてないからね。むしろうるさいくらいが眠くならなくて丁度いい。


 すると。

 横から、音もなく横を通った人がいた。


「……え?」

 声が漏らし、顔を上げて確認する。

 通った人数は三人。

 青髪ロングで水色のドレスを着た女性、赤髪ポニーテールで赤色と黒色が混じった鎧を着た女性と、金髪でピアスや指輪などの装飾をいっぱいした男性。

 最前列の椅子を通り過ぎ、振り返り顔が見える。

 パッと見で印象に残るのは青い女性と金髪男性。

 誰かが言っていた『この世で一番美しい女性』と言われていたのはこの女性のことだろう。

 元の世界の誰よりも、この世界の誰よりも綺麗だ。

 金髪男性はこの三人の中でも衣装の派手さが段違いだ。

 ドレスや鎧もある意味印象的だが、金色に装飾された服装に指にはめられた宝石、ピアスやネイルや化粧など、しかし派手ではある物の全体のバランスをしっかりと保っていて女性二人よりも凝っている。

 最後に目を向けたのは、鎧の人。

 一つ思うのが、どうして鎧を着てるのに音一つしないのか。

 その鎧は翼が着ていた大きな鎧よりは、この人の身体にピッタリとハマる形なのか鎧を着ているのにとても細く見える。

 そしてなによりも、この真っ赤っかな鎧をベースにし、黒色で線や模様などが書かれている。こんなの見たことない。

 この人が、翼の言っていた斧を二つ持つ人だろうか?


 左に青い女性、中央に赤い女性、右に金色の男性と並び、私達の顔をよく見る。

 男性の人が、私達の方向で一回視線を止めた気がする。

「タンザナイト王国の女王、葵船囲と申します。此度は遠い別世界から我らの世界を救いに来てくださり、誠に感謝しております。魔王討伐、心から期待しておりますわ」

 青い人こと蒼船囲さんに、私達は釘付けだった。美人さんだ。超美人さんだ。惚れてないけど美人さんだ。

 後で先生に、先生の方が綺麗だよって言っておこ。


「オパール王国、国王の金冠宝だ。俺は堅苦しいのは嫌いだからそこにいる人達よりは軽く話させてもらう。まぁ適当に期待させてもらう」

 こっちの人はイケメンだけど、私はちょっと残念なイケメンの幼馴染がいるからそこまで刺さらない。

 なんか横で響が「ほわああぁ~♡」ってなってるけど、まぁ……うん。そういう人好きって言ってたもんね。

 前から思っていたけど、先生と付き合ってから途端に男性に興味が無くなった気がする。

 元からレズの気はしなかったけど……まぁいっか。先生がいれば。


「アレキサンド帝国十六代帝王、明智玉鬼。地獄に放たれた若き戦士達、共に戦えることに光栄に思うわ」

 一人だけ「共に戦う」と言った彼女の目は、先の二人よりも真っ直ぐな目をしており、真剣さが伺える。

 この中で一番言葉の重みが違うと感じた。


「さて、終わりましたかね?」

 音を一切鳴らさずに歩いてきた三人とは違い、カッカッと大胆にも音を鳴らしながら歩いてきた教皇。

「これだけか?」

「えぇ、これだけです。貴方達は、これからいつも通り午前の訓練に移っていただければ」

「そうだ教皇さんよ、こいつらの訓練見てもいいか?」

「別にいいですが、貴方達も仕事があるのでは?」

「んなもん後回しだ。じゃあお前達、さっさと訓練場に行くぞ」


 先生は教皇たちの会話を聞き終えると、足早に礼拝堂室を出て行った。

 やっぱり、教皇と何かあったんだろうか。

 今日の夜か、または明日とかにでも聞いておこうかな。

 先生の記憶を、宝さんの記憶を、見てしまった。

 見てしまって、私はどうすればいいんだろう。

 何も行動が起こせないし、慰めに行っても逆効果だし、怒りに行こうにも相手は王族だ。

 無力、無力だ。

 あと、一つ。

 明智玉鬼さん、あの人は、危険だ。

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