第14話
剣を振るい、槍を突き、矢を放つ。
フィクションの世界でしか見たことのない物を自分が持っていることに少し興奮するが、そんな興奮はすぐに疲れに上書きされて、いつかめんどくさいに塗りつぶされる。
剣道は授業でやったことあるけど、剣の形が違うし(今持っているのはロングソードと言うらしい)振り方も全然違う。面や小手などを狙う剣道と違い、相手を確実に殺す、ダメージを与える、追撃とか防御の仕方とか、全く違う。
まぁ、私は【雪之女王】という立派な魔法能力があるから、最悪武器を持つのが嫌でも、魔法専門でも大丈夫らしい。
素振り中だけど、周りを適当に見渡す。
私と最も付き合いが長いあの三人は、今日は四人別々に行動しようということで、私と違うグループにいる。
四人とも武器関係の能力じゃなかったため、誰がどんな武器を持つかなんて未だに予想出来ない。私と火南は魔法能力があるので武器を持たない選択もある。まぁ翼が魔法専門で行く可能性もあるけど。
ただ、一人だけ武器をある程度絞っている人がいる。
金剛翼、あいつは私達四人所か、学年でも最も体格がでかい。
小学生の頃から、響が前にいて、その次に私、その次に火南、最後の列に翼がいた。
そんな翼は、大剣と呼ばれる私のロングソードの二倍や三倍も大きい剣や、重すぎて持てないだろとツッコみたくなる程重いハルバードやランスと呼ばれる槍などを持つらしい。
さらに、兵士と同じ甲冑も着るらしく、もう見た目だけは完全にベテラン兵士だ。
ただまぁ、幼馴染故理解できてしまう。
翼は昔から重い物が好きなのだ。子供の頃はレンガとかお米とか、それこそ私達を遊びでおぶっていた。
それは成長した今でも変わらず、小学生高学年辺りから「なんか太鼓って重そうじゃね?」という理由で和太鼓クラブに通って、高校生になった今でも和太鼓部に入っている。
全く関係ないけど、ゲームでも重量級と呼ばれるキャラクターを使っていた。お気に入りはク〇パ。
とここまでは翼の趣味の話だが、明確な理由がもう一つ、それは翼の能力である【金剛不壊】のことだ。
朝食時に聞いたが、その能力は【身体や鎧が異常なほど固くなる】らしく、生身で兵士が斬りかかってみた所、傷一つなく全く痛くなかったらしい。
そういうのも関係して、いろんな兵士さんと相談して防御ガン振りにして鎧を身に着けることを決めたらしい。
まぁ、法被以外似合わないと思ってた翼が、ぶっかぶかの鎧が似合っているのでその道を私は応援してあげよう。
暑そうだけど。
能力で思い出したが、なんとなく響の【未来予知】が気になる。
響は昨日、私は物語の脇キャラとか言って自虐していたが、私が好きな小説の主人公は未来を見て物語を進めていたので、響が今後どういう未来を見るのか凄い気になる。
訓練が終わり、隊長さんの話を色々聞きながら思う。
昨日今日と武器を触って分かったが、私には槍と弓が絶望的に合っていない。
いや、剣も周りの人と比べると下手くそだけど、槍の「腰を入れて」とか意味わからないし、弓は引くことすら困難だし的に届かないし外れるし、なんか色々酷い。
一応、叩きつける武器などはまだ感覚が分かるけれど、岩を砕いた後に女兵士さんが「そうそう!そうっやって頭蓋骨を粉々にするの!」と、笑顔で言っているのが怖くて、できれば二度と触りたくない。
私は魔法専門で行こうかな。
昨日はわざわざ料理長さんが出向いてくれたが、流石に二日連続で来ることはなく、各々が食堂に向かう。
しかし、中には兵士さんに連れられて街に下りてご飯を食べに行く人もいる。例えば翼とか。多分翼ってこのクラスで一番兵士さんと仲がいいんじゃないかな?
それはそうと、先生はどこだろう。
「お疲れ様です、銀子さん」
「ひゃういっ!?超びっくりした!ちょっとーやめてよー小山内さん」
後ろから声を掛けられ、身体が跳ねる。慌てて振り返るとちょっと困った表情をした小山内さんがいた。
ちょくちょく話す仲ではあるけれど、彼女から話しかけてくることはあまりない。急に話しかけてきてどうしたんだろう。
「どうしたの?小山内さん」
「いえ、先生なら食堂にいらっしゃいますよ。ただ、桜さんと話していたので一緒に食べるのは少し難しいかと」
「そうなんだ、ありがとうね。教えてくれて」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「そっかー、じゃあ……小山内さん一緒に食べる?先生の代わり……って言うとなんか悪いか」
「いいんですか?それじゃあお言葉に甘えて」
「おっ、銀子。これから飯なんだけど一緒に食べないか」
小山内さんと話していると、火南が会話に割って入ってくる。
「いま小山内さんと食べに行こうって話してたんですけど」
「え、えーと……先着順?早い者勝ち?」
「早い者勝ちで合ってると思うけど……俺も加わっちゃ駄目かな。なんか翼が兵士さんと食べに行くって言うから」
クッソ憐れ。
まぁ、別に二人で食べる気はなかったんだし、他に人加えて大人数で食べようかな。
「じゃあ一緒に食べませんか?銀子さんは?」
「仕方ないなぁ(非難がぼっちってなのも見てて楽しいけど)どうしてもって言うなら一緒に食べてあげるよ」
「ありがとう二人共(銀子は優しいなぁ)」
「あ、あはは」
小山内さんが変な笑みを浮かべているが、気にしないで行こう。
今日は何を食べようかな。確か昨日、誰かがチャーハンを食べていたから私もそれを食べようかな。
あれ、そういえば。
私、先生とご飯食べたいって口に出していたかな。
午後の訓練は昨日と同じ魔法の訓練だ。
七先生は「時間がないから汎用的に使える魔法を教えるけど、学校とかに行くと歴史とか原理とかの無駄な説明を聞いていたわね」と言っていた。多分七先生は私と同じ意味のないことを覚えるのが嫌な人だ。なっかーま。
昨日は魔法の発動の仕方や用語などを教えていたが、最初に言っていた通り今日は汎用的な魔法を教えてくれるらしく『ヒール』や『ウォーター』や『ライト』などを教えてくれた。
「こういう汎用的なやつはどこでも使えるから覚えておいて損はないわ。相手に斬られたときにヒールとかも当たり前だけど、普通に転んで怪我した時に使えるから。ウォーターは美味しいわ」
飲み水扱いじゃん。
「ペットボトルや水筒とかを持たずに水が飲めるのいいな」
誰が言ったか分からなかったけど順応するの早すぎない?
ちなみに七先生はまずペットボトルと水筒が分からなかった。
汎用的な物から通常魔法、基礎属性などまぁ色々聞かされて、もちろん休憩は挟むけれど一つの授業をずっとやり続けるのは飽きが来るという物。
もしかしてだけど、この世界って身体動かす訓練と魔法を覚える訓練しかないってマジ?
時間割って結構考えられてたんだなぁ。
「みんなの魔力も枯渇気味だし、今日の訓練はここで終わりにするわ。あっそうそう、金剛翼君と佐藤達也君と
最初に呼ばれた三人は、昨日今日と魔法を一度も使えなかった人達だ。
最後の二人は、昨日の私達同様に能力を発動するのかな?
とにかく、私には関係ない話っぽいからさっさと温泉に入ってしまおうかな。
どうでもいいけど、午前の訓練が終わったらすぐにシャワーを浴びたい。まだまだ九月の半ば、向こうの世界よりは涼しい気がするけど、それでも暑い中運動したら汗が酷い物だ。
身体動かして急いでシャワー浴びてお昼ご飯食べて魔法を覚えて……あっ、これお昼寝直行だ。
「ねぇーねぇー銀子」
「どうしたの?馬子と竜子二人揃って」
「いやー、話せばめっちゃ長くなるんだけどね?向こうの世界にメイク置いてきちゃってさー。ほんのちょっとだけ制服の中に入れていたやつはまだあるんだけど、せっかくだから街に下りて一緒にいかね?」
「いいねそれ私も行きたい!ついでにお部屋に飾れるやつなんか探そうよ!」
「おっ、行っちゃいますか?」
「行っちゃいますか!」
菊嬢姉妹達と話すときは、こうやってテンションを上げて話す。
私は人に合わせて口調を変えたりテンション変えたりするけど、この二人は別格で変える。
最初は疲れたけど、慣れは怖いもので今ではよく二人と遊びに行ったりしている。
結構楽しいんだよねこれ、先生とか
「他に誰か呼んじゃう?ききちゃんとか?」
「なんか知らんけど断られた。なんか小山内の所行くってー」
「ききいなくなったら三人で行くことなるんかな。今まで別のクラスやガッコの人呼んでたけど、今いないし」
「ねー、ほんと最悪ー。まぁ切り替えて、行っちゃいますか?」
「行っちゃいますか!」
ギャルテンション、マジ楽しい。
☆
三人で盛り上がっているのを横目に、私は自室に戻ろうと階段を上がる。
温泉は別として、汗を適当に流そうとシャワーだけは浴びたかった。全身が汗臭く、髪の毛もベタ付いている。
生徒達……主に女子も、これからは午前の訓練が終わったら汗を流そうという声が聞こえてきた。
七先生に訓練の時間をずらせるか聞いておこうか。
それはそうと、銀子は一緒温泉に入ることは忘れてないだろうか。
別に、菊嬢達と遊びに行っていることに嫉妬しているわけじゃない。友達との付き合いは私との付き合いよりも大事にして欲しいと思うし、束縛なんてもっての外だ。
ただ、なんだろう。
胸がモヤモヤする。
いや、もういい、忘れてしまおう。汗と一緒にこんな気持ち悪さを流してしまおう。
そんなことを考えながら乱暴にドアを開け中に入る。
部屋の中にはメイドの向井さんがいて……それだけなら何ら問題ないが、何故か、何故かそこに私達をここに来させた教皇がいた。
部屋の窓から見える黄金の太陽に背を向けて私の方に顔を見せるそいつは、出来れば二度と会いたくなかったと内心思う。
「どうして貴方がここに?」
目を細めて、警戒する。
「貴方を呼びに来たんですよ」
「わざわざ貴方がここに来ないで、メイド……侍女に呼ばせれば良かったのでは?」
「おや、そんなに私と会うのが嫌なんでしょうか?」
「はい」
堂々と答えた。私はこいつに下手に出るつもりはない。
舐められた態度を取られてしまうと私達に何をするか分からない。
向井さんは私を信じられないという目でこちらを見ている。
一応こいつは日本でいう総理大臣とかそれくらい偉い人なんだろう。そんな偉い人にこんな態度を取るなんて、とか思っているんだろうか。
「おやおや、嫌われてしまいました。まぁいいでしょう、雑談はここまでです。付いてきてください」
「どこに行く?」
「それは歩きながら話すとしましょう。貴方はそこで待っていてください」
「承知しました」
教皇は私を追い越してドアに向かう。
淡々とした声に感情を浮かべない顔。
私はそれに黙って付いて行った。
廊下の窓には部屋とは正反対の為、紫色の焼け空が広がっている。
そんな景色を横目に、階段を降り、お城のメインエントランスに行き、正面にある階段を上りこのお城で最も大きな扉を開く。
初日に貰った地図を思い出して、ここの場所を思い出す。
確か……礼拝堂?
「会ってほしいのは、各国の国王や皇帝な方々です」
「国王?」
「はい。海に囲まれて、海産物などを扱うこの世界で一番美しい国『タンザナイト』の女王、宝石や鉱石などが世界一の採掘量を誇る国『オパール』の国王、実力主義で最も武力を持つと言われている帝国『アレキサンド』の女帝のお三方が来られました。明日にこの世界に来た者全員に挨拶をさせるつもりでしたが、まずは代表の貴方が今日にでも済ませておこうかと」
「そういうのは事前に教えてほしい」
「今度からそうさせてもらいますよ」
教皇は悪びることなく返事し、礼拝堂を歩いていく。
先程言っていた三人はまだ来ていないのか、礼拝堂には人っ子一人存在しない。
「それでは美咲賀先生、そこの魔法陣に乗っていただけますか?」
「……これか?」
「はいそうです。そのまま動かないでくださいね?」
三日前に連れてこられた魔法陣の幾分か小さい魔法陣に乗ると、教皇もその上に乗り、少しだけ口元を開けた。
すると、まるでエレベーターのようにその魔法陣がゆっくりと降下した。
一瞬何が起きたか分からなかったが、この世界ではよくあることなのですぐに落ち着いた。
十数秒も降りるのを待てば、このエレベーターのような魔法陣は終着点に付く。
そこは白い石材と金色などの装飾を散りばめたお城と違い、灰色の石材に狭い通路、装飾はほとんどなく、光は薄く光る石のような何かが輝くだけだ。
まるでここは本当にお城の地下なのかと疑っていると、教皇が黙って狭い通路を歩いてく。
仕方が無いので私も歩いた。
分かれ道があった。教皇は右に行ったため、私も右に行く。
すぐに行き止まりに当たった、と思ったらまた先程のような魔法陣があった。教皇はそれに乗ったので私も乗った。
また教皇の口が開いた。魔法陣を発動させるために詠唱でもしてるんだろうか。
そう思った瞬間、強い光が魔法陣から溢れ、浮遊感が襲う。
これは、あの時、教室で感じた時と同じ……?
目の前が光に覆われ、何も見えなくなった。
ただ、あの時は数分ほど何も見えない時間が続いていたが、一秒も経たずに浮遊感が戻り、だんだんと視力も回復する。
「あっ!やっと来たよ」
「やっと、というほど待っていないでしょう?」
「まぁまぁ、これでお話が出来ますよ」
男女声が聞こえ、ボーっとしていた意識を元に戻す。
木材で出来た部屋の中央で、椅子に座る三人と、ちょうど椅子が残っているにも関わらず立っている二人の男性。
「あんたが召喚された奴らのリーダーだって?俺の名前は『
黄金と言う文字が似合う金色の髪をした髪の毛、ツーブロックで指輪やピアスなどを沢山付けている男性。
服は白を基調して肩や襟元や腕などに金色の装飾がいくつも付けられており、胸元には宝石のような紋章が書かれていた。
気品の感じる服なのに、顔はチャラそうだ。
「私の名前は『
深海のような真っ青な色をした髪の毛と眼、その髪の毛は座ってる彼女が地面に付きそうなほど伸びている。
服装も水色のウエディングドレスのような恰好をしていて、女王と言われて納得した。
普段は人を見てこんなことを思わないが、素直に美人だと思った。
後ろに立っている眼鏡の男性は名乗らない。ただずっと腰に掛けている剣をいつでも抜けるようにと手を添えているのが怖い。
「最後は私ね。アレキサンド帝国の帝王、名は『
炎よりも赤い髪の毛と眼、髪型はポニーテールに結ばれてすっきりしているが、他の二人と比べて顔に変化が無く、とっつきにくそうに見える。
服は真紅をそのまま服に纏った感じで、余計な装飾品などは付けていない。
ただ、左胸にある剣のような紋章だけは誇るように輝いている。
後ろにいる男性は、全身黒いローブを身に纏い顔も良く見えない。この中で一番異質な存在だ。
「すまないね宝君。君達がそんなに早く来るとは思わなかったから」
「あら、私達って信用されてないのね。教皇ったらそんな風に思っていたのね。残念だわ」
「まぁまぁお二人共、教皇様はわざと遅れたわけじゃないでしょう?多分。ですからそこまで怒らなくてもいいんじゃないでしょうか」
「多分って付けてる時点で私のこと信用してないじゃないですか」
なんだろう、仲が悪いのかしらないけど凄くピリピリしている。
国の一番偉い人達がこんな仲で大丈夫なのかと心配になった。
「さぁ、ここに掛けてくれ」
言われた通りに腰を掛けようと椅子を引くと同時に思った。
ずっと流してきたが、現実を見ないようにしてきたが、私はいま、誰の前にいるのか。
『教皇』『女王』『帝王』『国王』
心の中で叫ぶ。
私が立つのは生徒の前であって、国のお偉いさんの前に立つ気はない。
そうツッコみながら、緊張し始めた息を整えて、一つだけ空いている席に座った。
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