第12話
『能力は想像で発動する』
この世界に来て三日目が終わろうとする時、そんな噂がクラスメイト内で広まった。
噂、と言っても本当のことだが、未だに自分の能力を理解できていない者達は、その噂を試そうとしていた。
☆
「想像するってゆーけどさー」
「どうやって想像すんの?なにを?」
まさか、七先生から聞いた魔法能力の発動の仕方を
そしたらこれである。クラスカーストぶっちぎり一位である二人、
勝てる気がしない。勝ち負けとか存在しないけど、勝てる気がしない。
「え、えー。そんな、知らないよー」
目を泳がせながら知らんぷりした。
「は?あんたが言ったって聞いたけど?」
「き、気のせいじゃない?誰から聞いたの」
「ききき」
「ですよねーそうですよねーかんちがいですー」
ここでいう「ききき」とは、
一部の層からは「KKK」と呼ばれていたり、「KKKょうK」と弄られてたりするが、本人は割と気に入ってるらしい。
「というか、二人の能力って何?」
「えーと、なんだっけ。竜とか馬とか私達の名前が入ってた気がする」
「あと、虎じゃなかった?」
(覚えてないんかい!?)
風花は心の中で叫んだ。
☆
「……なるほどね」
想像と俺の能力はかなり相性が良さそうだ。
腰に付いた金色の尻尾を揺らす。
「
「
「あいよー」
俺は部屋全体を想像し、能力を発動させる。
一度出来てしまえば、慣れたもんだ。
「入っていいぞ」
「うーっす、って……え、えええぇええ!!」
「うっさいなぁ、もう少し静かに出来ない?」
「いや、え、ええぇ?」
もはや言葉に出ないようだ。
その姿に、心の奥底が痺れる感覚が生まれた。
達也が驚いても可笑しくはないだろう。
なにせ、俺自身も、部屋全体も、全て化かしたのだから。
頭には狐耳、お尻の上辺りには尻尾が生え、素朴な服は赤色を基調とした浴衣に。
床は全て畳に変わり、ベッドは敷布団ななり下がり、コンクリート壁は年期を感じる木材に変わっていた。
「えーと……稲の部屋は随分と違うんだな」
「アホか、化かしていたんだよ」
「へ?」
『ドロンッ』とお馴染みの音と白煙が上がると、化かしていた物は全て元の姿に戻った。
「俺の能力【
「いや、あれだけやって多分って」
「仕方ないだろ、経った今初めてやったんだから。もしかしたら他のこともできるかもしない」
こんなことを言ってるが、初めて自分の姿を化かして気付いた。
気付いたから、もう一度変化する。
『ドロンッ』
「うわっ、また」
「うん、こっちの方が好きかな。しばらくは練習も兼ねてこっちの姿で過ごすよ」
「え、えぇ?まぁ、稲がそうしたいなら別にいいんじゃね?分からんけど」
「そっか……じゃあこれとかどう?」
『ドロンッ』
「おぉ!稲がモノホンの狐になった!かわええ!!」
こうして俺は、化かす楽しみを知った。
将来の俺はこう言ったらしい。
ここから自分の人生は変わったと。
☆
『空を自由に飛んでみたい』
猫型ロボットの歌詞にもあるように、人は空を望んでいる。
けれど、二十二世紀が来るには約八十年近く待たなくちゃいけないようで、その頃には私達は九十六歳。
そんな長くまで生き残れる自信は無いけれど、おばあちゃんの身体で飛んでしまえばそのまま天国に直行しそうだ。
でも空飛びながら死ぬってある意味幸せかもしれない。
そんな時代になってしまえば若返りの薬もあるかもしれないけど、不老不死とかなんか怖いからそこだけは期待しないでおく。
「空を自由に飛んでみたい」
私は着ているものを全て脱ぐ。
渡されたパジャマや下着、それら全てをベッドに放り投げる。
一糸も纏わぬ姿とはこのことで、率直に言えば素っ裸だ。
窓の内に足を掛ける。
自殺をしようとしてるわけじゃない。
空を飛ぼうとしているのだ。
「
私のメイドが入ってきた気がするけれど、無視して窓を蹴る。
メイドさんはびっくりしただろうな。
だって。
私の背中に、翼が生えているのだから。
【
空中に全てを委ねて、翼を広げる。
下を向いて落ちる力に身を任せ、スピードを上げる。
正直、怖い。
このままだと頭から落ちて、ぐちゃぐちゃになってしまう。
そうならないように、頭を上げ、一回翼を羽ばたかせ、上昇する。
昔、鳥人間コンテストなるものを見たことがあり、それを真似た飛び方だったけど、意外と上手くいくようだ。
羽ばたいて、羽ばたいて、初めての飛行なのに、上手くいくことが楽しくて。
全身で風を受けて、肌が涼しく気持ちがいい。
心臓がドキドキする。
でも。
「楽しい……!気持ちいい!」
思わず口に出る。
目の前には大きくて明るい満月。
下を見ると、お城の屋根が見え、もうこんなに高くまで上がったのかと傍観する。
風に身を任せ、しばらく飛んでみる。
五分程した飛んだ後、全身が一瞬だけブルリと震える。
「……寒い」
興奮が少しだけ冷めてきた頃、全身に鳥肌が立っていることに気づく。
このままでは風邪を引いてしまう。
とりあえず、休憩と言うことでお城の屋根で羽を休める。
「今思ったけど、私はなんて恰好をしているんだ」
これじゃあまるで露出狂じゃないか。
ただ、外で裸と言うのもなんだか悪くない気がする自分がいて。
意識しだしたらなんだか急に胸がドキドキしている自分がいて。
下半身に手が向いた時、手遅れなことに気づいた。
☆
「【魑魅魍魎】」
目を閉じてそう唱えた。
自分が大好きな物をを想像して。
そして、確かな手ごたえ。
「ははっ、はははは、ハハハハハハ!!」
思わず笑いが零れる。
これはいい、これはいい!
「僕に従順で、かっこいい、君」
昔飼っていたムカデなんかと比にならず、自分の身長も比にはならないだろう。
「これからよろしくね」
世話になるだろう相棒に、そう言った。
☆
私も想像してみる。
聞いた話だと、能力の名前に近い物を想像するか、感情が高ぶって勢いのままに出すか、などなど。
未だにみんな能力を出してないくせによくそんな噂が広まるもんだ。
しかし、百聞は一見に如かずと言いますし。
とりあえず、私の能力名は【
つまり、烏と兎を想像してみればいいんだろうか?
烏……黒くて、賢くて、なんか怖いくて、空飛んで、ごみ漁ってて……うん。
次に兎。兎は可愛い、座って、膝の上に乗せて丸まらせて一生撫でていたい。そんな可愛さだ。
けれど、能力を発動した感じは全くしないし、周りに変化すらない。
「金烏って言うくらいだから、金色なのかな?だとしたら、玉兎ってなんだろう」
色々考えてみるけれど、全く思いつかない。
だんだんと考えているうちに眠気が来る。
仕方ない、今日は寝てしまおう。
明るい月から逃れるために、カーテンを閉めようとして、ふと思い出す。
「そういえば、月には兎がいるって言われていた気がする。月の模様が兎が餅を付いてるのに似ているからだったっけ」
私はその話を聞くたびに、月の模様を見ても何も思い浮かばなくて少し悔しい思いをしていたが、この世界の月は、なんとなくそう見える気がする。
最後のワンチャンス、これが出来なかったらさっさと寝てしまおう。
月に住んでる兎さんは、今日もせっせと餅を付く。
対なる太陽には、三つの足した烏が優雅に飛び回る。
太陽?
「あっ……分かった」
頭の中で、何かがカチリとハマる音が聞こえた。
【金烏玉兎】の意味が、なんとなく理解できた。
もう一度、想像する。
今度は鮮明に、爽快に。
「おいで」
「カァー」
「もきゅ?」
ベッドの上に、可愛らしい兎さんと、三つ足の烏が表れた。
これは、私の能力で生み出した存在だ。
それはそうと。
「想像してなんだけど、なんで烏は三つ足なんだろう」
「あ?なんか文句あるのか?」
☆
能力には種類がある。
永続的に発動している『永続能力』。
例を挙げるなら【心玉覚利】や【能力無効】だ。
自分で何か想像することなく、ただそこにいるだけで能力を発動している能力のことだ。
特定の想像をした時に発動出来る『想像能力』
例を挙げるなら【抱薪救火】や【尾狐変化】だ。
二つとも能力の効果は全く別物だが、想像して発動する点や、想像した物そっくりに能力が発動したりと、似ている所は多いはずだ。
ちなみに、富士見七はよく『魔法能力』と言ってよく区切っているが、実の所『想像能力』と『魔法能力』はあまり変わらない。
『魔法能力』に属性が付いただけととらえてもらっても過言ではない。
特定の行動をした時に発動出来る『行動能力』
作中にはまだ発動をしていないが、先程
【鎧袖一触】は斬りつけた物が鎧などの硬い防具だった場合、それがまるで豆腐のように斬れてしまうとても強力な能力だ。
【田楽刺死】は槍などの武器で相手を刺す時、刺した場所が必ず貫通するとても凶悪な能力だ。
どちらも、何かをした時に発動する能力で、先に挙げた『永続能力』や『想像能力』よりも使いにくいと言われている。
他にも様々な能力があるが、今回は最後に一つだけ教えて、この話は終わろう。
☆
瞼に浮かび上がるのはまだ見たことのない光景で、それでも見ているのは現実にとても似ていて。
ここはどこだろう。
周りは薄暗く、明かりは手元にある魔法で出来た炎のみ。
それでも分かるのは、床や壁や部屋の中にある装飾物が全て氷で出来ていて、明らかにここが普通じゃないこと。
「みんな、なんでここにいるの?」
聞き慣れた声が、目の前から聞こえてきた。
この声は私の幼馴染で、姉妹のような人の声だ。
「銀子……?」
「帰ってよ」
声は聞こえても、姿が見えない。
私は銀子の声がある方へ進み、その顔を見ようとした。
「帰ってよ!!」
銀子の悲鳴にも怒号にも捉えられる声が聞こえると同時に、その顔が、その姿が見えた。
それは、銀子じゃなかった。
私の知ってる銀子じゃなかった。
「銀子、ねぇ、どうしたの?」
私は、小さい頃に泣いた銀子をあやした時の様に、出来るだけ優しく接しようとした。
銀子がどうして泣いているのか、起こっているのか、苦しんでいるのか。
例えここが分からなくても、何が起きてるか分からないけれど、友達が泣いてる姿は見たくない。
けれど、そんな思いは届かなかったようで。
「うるさかったんだよ!貴方達三人は、幼馴染ってだけで私にすり寄る!勝手に巻き込んで、勝手に好かれて、困ると思わない?思わないよねぇ!私はもう!一人でいいの!二人になれるから、それなのに、それなのに!それなのに!!」
私は甘かったんだと思う。
銀子はいつも優しくて、そんなこと言うとは思わなかったから。
悲しい、ただただ悲しい。
涙が頬を伝っていくのを感じると同時、視界は未だに見慣れない天井が切り替わり、そこでやっと、ベッドの中にいることに気づいた。
急いで目を拭って、それでもさっきの言葉が頭から離れなくて。
「今の……夢?」
片美濃響は分からなかった。
夢のはずなのに、夢以外ありえないのに、夢とは思えなかった。
片美濃響は知らなかった。
それが【未来予知】の効果だと。
☆
発動の条件が全く分からない『無作為能力』
例を挙げるなら【未来予知】
寝ている時が一番発動しやすいという特徴はあるものの、ご飯食べてる時や戦闘中でも発動するため、条件は未だに分かっていない。
一番扱いにくい能力種類と言われている。
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