第10話
「……悲しいな」
「どうしたの?先生」
ここは私の能力で作った雪の家。
雪の家なんて言ってるけど、材質の殆どが氷なので、氷の家とでも改めようかなと思ってる。
私の能力【雪之女王】なんて言うけど、ほとんど氷って考えると雪と氷は実はそんな変わらないと思う。
まぁ、雪の家の方が言いやすいから雪でいいかな。
「いや、教室を飛び出した時のことを急に思い出してな。お前を目の当たりにしたあの表情がな」
私は幼い頃からあったこの能力を隠して生きてきた。
普通じゃないこの能力、知られたら拒絶されてしまう。
それなのに、私はやらかしてこの能力を見せてしまった。
恐怖に塗られた幼馴染と友達、クラスメイトの顔。
それに逃げるように、私と先生はこんな辺鄙な所まで来てしまった。
「ごめんね先生、私のせいでこんなことになって」
「謝らないでくれ、銀子。私の意思で銀子に付いてきたんだ」
「あはは、じゃあ……ありがとう、かな?」
「……あぁ、どういたしまして。そして、これからもよろしく」
先生は大人だなぁ。
年齢的に言ってるのではなく、心が大人っぽいというか。
同じことを前にも先生に言った気がするが、私よりも長く生きてるからとか、人を育てる職業に就いたからとか、そう言っていた気がする。
かっこいいなぁ、甘えてばかりだ。
「……なんか」
先生は、私から目を反らし少し照れたようにこう言った。
「こんなこと真正面から言うの、なんか照れる……」
「~~~~~~~~~!!やっぱり!」
「ん?」
私にしか見せないその顔に嬉しくて。
声のトーンが上がる。
顔がニヤける。
「やっぱり先生は、可愛いなぁ~!」
「ちょっ!?」
そんなだらしない私を見ないでほしいから、私は彼女に抱き着いた。
思いっきり抱き着くと先生の肌が温かく感じ、それをもっと感じていたいからより強く抱きしめた。
「全く……私のどこが可愛いんだ」
「全部!」
「そう……嬉しいよ。銀子も可愛いよ」
「どこが?」
「全部」
「えへへー、やったあ!」
私は今何を考えてるんだろう。
それくらい、嬉しい。
何も考えられないくらい嬉しくて、その温かい肌をさらに抱きしめて、抱きしめて、そして―――。
―——暗い視界に光を入れようと瞼を開けると、目にしたのは窓から入ってくる綺麗な夕焼けと、それに照らされてオレンジ色に彩られたお花。
お花は私を見るように下を見ていて、お辞儀してるようにも落ち込んでるようにも見え、気になって凝視していると、その花が真っ白いことに気づいた。
お花を観察していると、寝起きでモヤモヤしていた頭がだんだんとすっきりとしていることに気づく。
疲れてお昼寝したんだっけ、そもそもいつ寝たっけ、というか今何時?
身体を起こし、時計の針を探そうとした所で気づいた。
ここ、どこだろう?
「体調はどうだ、速水」
「あっ、先生。どうしてここに」
白いソファから立ち上がり、先生がベッドまで来てくれる。
「生徒の相談事を聞き終えてすぐにお前が倒れたって聞いてな、今さっきここに来た」
「倒れた?」
「七先生から話を聞くと、火南と銀子が魔力が使い過ぎてぶっ倒れたそうだ。記憶はあるか?」
「……全く?いや、火南が魔法使い過ぎて体調が悪いのは覚えてる気がする」
あの火南の不安を感じる背中と、大きな火柱を思い出す。
そうだ、確かあの後に私が魔法をやるとかなんとか。
私の魔法がどんな感じだったか全く覚えてないけど、なんだろう、魔法を使ったって感覚がなんとなく分かる。
「……」
「どうした?まだどこか痛むか?」
出来そうな気がしたから、私は目を瞑り、小さな雪の玉を想像した。
手に魔力が溜まり、冷える。
それを捏ねるように手を回す。
多分この動作は必要ないとは思うけど、こうした方が想像しやすかった。
「これは……」
先生の声が漏れる。
出来た気がするから、目を開けて確認してみると、手の中には野球ボールサイズの雪玉が完成されてた。
「これが【雪之女王】……か」
「これが?」
「うん。初めて分かった気がするというか、理解したというか……うん、そんな感じ」
「そうか」
先生は嬉しそうに、薄く笑みを浮かべてくれる。
その表情に、ほんのちょっとだけ『悲しみ』が混じっていたような気がして、首を傾げた。
「どうしたんです?」
「ん?何がだ」
「なんか……大丈夫ですか?」
直球で『どうして悲しそうなんですか』なんて言えるわけがなく、でも心配だから、曖昧に聞いてみた。
「大丈夫も何も、私はお前が心配だ。魔法の使い過ぎで倒れたくせにまた魔法使って」
「あう……そうでした。でも出来る気がしたから……」
「まぁ、今日は見逃してやる」
そう言って、私に背を向ける。
私は「むー」と唸る。
怒られることは勿論嫌だが、先生が話を逸らしたことが不満だ。
「ねぇねぇ、この後部屋行っても」
「っ!!ばっ、お前、場所を考えろ」
一瞬、マジで怖い顔して私の顔を見る。
この顔をする時は本気で怒る時だけ。
過去に一度、疲れてると言っているのに無理やり襲おうとした時くらいだ。
だから、それ以上は何も言わないで黙り、先生が起こった理由を考える。
……場所?
私はベッドから降り、先生が座っていたソファやカーテンで塞がっている隣のベッドを見る。
見ると、ソファには腕を捲って氷を押し当てている男子二人(南川君と
他にも本を読んでたり眠ってたりする兵士さんがいたりする。
……なるほど。
先生に近寄り、小声で話す。
「二人きりじゃなかったんですね」
「私が『速水』って言ってる時点で気づけ」
「……寝起きで気づけなかった」
そういうことにしてほしい。
「まぁいい、話したいこともある。だが、体調は大丈夫なのか」
「体調はむしろ好調かな。一度寝てスッキリしてる」
「そうか、じゃあ晩御飯を食べたら私の部屋にこっそりこい。それと、今日の晩御飯は食堂で食べることをお勧めする。お昼ほどはっちゃけるつもりは無いらしいが、みんなで食べた方がいいと言われた」
「分かりました。じゃあ先生、行きましょ」
私は先生の腕を掴む。
「……どこに?」
「言ったじゃないですか、食堂に行くって」
「でもこれだと動けない」
「いやー、体調がまだ優れなくてまだクラクラしちゃうなー!」
わざとらしくそう言うと、先生は小さく溜息を付いて、それでも一瞬笑みを浮かべて
「はいはい、エスコートしますよ。お姫様」
「!?」
耳元で、そう呟いた。
何か言い返そうとしたけど、その時には先生は動き出していて、私は顔を真っ赤にして先生に釣られて歩くしかなかった。
「あれ、速水さん大丈夫になったんですか?」
「う、うん!えーと、大丈夫!」
「あ?顔が赤いぞ、ほんとに大丈夫か?」
若頭君のドスの効いた低い声が胸に刺さる。
この人怖い……本当は優しい人って分かるのに、その顔と声が怖い。
「ほんの少し眩暈がするらしいが、私が近くにいるから大丈夫だろ。二人は?」
「うーん、もう少し冷やして行きます。火南君も気になりますし」
「しかし、俺が強く剣を振り回したばかりに……歩、申し訳ない」
「だ、大丈夫だよ!というかお互い様だよ!」
二人はお互いに頭を下げる。
何があったかは分からないけど、とりあえず何かあったんだろう。
「じゃあ、私達は先に食堂に行ってる」
「あ、じゃあ行ってきまーす」
「はい!お二人共いってらっしゃいです!」
南川君の元気な声に後押しされ、私達は歩いた。
「ぎんこぉ!体調は、体調はもう大丈夫なの!?」
「近い近い、大丈夫だから、ちょっと落ち着いて、ね?響」
食堂に入るとほぼ同時に、突然現れた響に抱き着かれる。
「本当に大丈夫?」
「多分」
「多分じゃ分かんないよおおおお!!」
シンプルにうるさい。
「七先生から聞いた話だと、魔力枯渇はすぐに良くなるらしい。人や環境で変わるらしいが、一時間あれば身体は動くらしい。あと、ご飯を食べさせればいいって」
「じゃんじゃん食べて!私が奢るから!」
「ここの食堂って無料じゃん」
一応、ここは食堂と言っているが本当は貴族さん達がパーティーに使うお部屋だそうで、使われている食材は殆どが高級食材、料理長さんやメイドさん達が王様などに出すご飯をほぼそのまま私達に提供してくれる。
それを、無料で。
もしも別の物が食べたい場合は街に降りて飯屋なり食材買うなりして作るしかないらしいが、こんな豪勢な物をだされて何が不満か。
昨日は超適当に頼んだせいで先生とパンとスープだったが、これからはちょっと攻めてみたい。
「いっぱい食べてってことだよ!」
「言われなくても。お腹空いたからお肉類食べたいんだけど何があるかな?」
「ハンバーグ!唐揚げ!焼肉!」
「小学生男子がここにいる」
先生のツッコミが響に刺さった。
「先生は何が食べたいですか?」
「そうだな、私も久しぶりに身体を動かしたし……ラーメンはあるといいが?」
「ありますよ!種類は少ないですが!」
「この世界に来て好きな食べ物が食べられなくなると思ったが、意外と大丈夫そうだな」
それは私も思っていた。
特に好きな食べ物とかは決まってないが、嫌いな食べ物は多い。
もしも嫌いなやつがいっぱいあったらどうしよう、そんなしょうもない心配が襲い掛かる。
「でも、意外と駄目っぽいですよ。まず魚類はここでは食べられないらしいです」
「「マジか」」
「あとはデザート類ですかね。フルーツは前の世界にもあるやつ、この世界にしかなかったやつとかなり面白かったですが、どうやら生クリームやスポンジなどのケーキ類は全滅です」
「この世の終わりじゃん」
ケーキが無いとか終わってる。
ショートケーキチョコレートケーキチーズケーキ、モンブランにタルトにティラミス。
この話を聞いていると、マカロンやクレープとかも死んでそう。
えっ?これ、本当に。
「この世の終わりじゃん」
「なんで二回も言った?」
「この世の終わりだから」
あいらいく甘味。
バイバイ甘味。
「あっ、でも卵とかお砂糖とかの材料はあるかもだから……」
「……作っちまいますか」
「この世に生み出しちまいますか、銀子さん」
「そうね、響。私達はこの世にケーキを生むのよ」
「お前らはなんでそんなにノリノリなんだ」
先生の視線が痛い。
乙女は恋愛とデザートには本気なのだ。
「おっ、銀ちゃん響ちゃん先生やほやほ。何の話してるの?」
「
「
「してるらしい。というかみんな、ご飯食べながら話したら?」
「確かに!じゃあ皆で食べましょう!」
そう言って、私達はスイーツトークしながらご飯を食べた。
私はハンバーグ、先生は豚骨ラーメン、響は牛肉ステーキにトッピング唐揚げ、見玉さんはパスタを頼んだ。
お米は普通にあるらしく、日本のお米と劣らない美味しいお米だ。
ちなみに先生の豚骨ラーメンはそんなに美味しくなかった。
具は多いが味も薄く、誤魔化してる感じが否めなかった。
先生は「そういうラーメンもある」と言っていたけど、あれは少し不満な顔だ。美味しくないって言っている顔だ。
「……見玉、お前のスパゲッティ一口味見させてくれ」
「え?別にいいですけど。はいどうぞ」
先生はフォークを受け取り三本程口に含んだ。
「この麺、スパゲッティと同じやつ使ってるな」
私は同情の眼差しを送った。
「あっそうだ」
会話に混じっていなかった先生が口を開いた。
いやラーメン食べてたから元から口は開いてるけど。
「見玉の能力って、確か【能力無効】だったよな?」
「あぁはい、そうですよ。どうして知っているんですか」
「隊長に教えてもらった。それでなんだが……見玉、この後時間取れるか?」
「ん?まぁ別にいいですよ。約束事でもないし」
「助かる」
(はぁ?ちょっと待って先生、私との予定は?)
一瞬叫びそうになったが、我慢する。
すると、先生が私の太ももをちょんちょんと触れた。
見ると、そこにはスマホのメモ帳が写されていて、私宛に文字が書かれている。
『大丈夫だ、ある人にこいつと合わせるだけで、私はすぐに部屋に戻る。だから、先に私の部屋に行っててくれ』
(なんだ、じゃあ今日は先生と寝れそうかな)
私は先生のスマホを取り『一秒でも先生と離れたくないから早くね!』と書き、先生に渡した。
お互いに目配せすらしてないから顔は見れないが、机の下で話し、それも他の人にバレないで話せた。
それだけなのに、お肉がちょっと美味しく感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます