第9話
「ごめんね。君達の魔法能力って魔法と別で教えた方がいいと思ったの」
授業が終わり、各々が自由に過ごしていいと告げられた後、魔法能力を持った私達は教室に残された。
「そうだなー、それじゃあ
「え?確か『魔力』ってやつを消費すればいいんですよね?」
「正解。通常魔法も魔法陣も、もちろんこれから教える魔法能力でも、魔力を消費するわ」
七先生は再び黒板に文字を書く。
「ただ、魔法能力はこいつら通常魔法達と違って変なところがあるんだ。さてさて、次は
「え?えと、『詠唱』だったか?」
「正解。まぁさっきの授業でも言ったけど、魔法陣は書くことで詠唱代わりに、詠唱を破棄する短期詠唱とか無詠唱とか、奇天烈な独自詠唱とか意味分からないものまであるけど、それはまた今度するわ」
早口で説明しながら黒板に文字を書いていき、最後に全部消す。
この人、授業中に「教師の真似事は初めてだから、分かりにくい説明だったらごめんね」とか言ってたけど、段取りや復習とか、結構ポテンシャル高くない?
「さてと、おさらいはこんな所でいいかな。そろそろ『魔法能力』の説明に入るよ」
ユーポンを一口飲み、一息つく。
この世界の人は皆ユーポンを飲むらしい。
「魔法能力は、基本的に魔法絡む能力のことを言う。例えば、
「「「…………」」」
正直、話の半分も言ってる意味が分からなかった。
「そんなポカーンと口を開けて、まぁ言っても分かんないよね。覚えておいて損はないし、もっと詳しく知りたかったらこの後私の所に来るといいわ。
さて、次は能力を発動する条件。さっきも説明したように、通常魔法には『詠唱』が必要と言ったど、魔法能力はそれが必要ないわ。さて問題、それはなんでしょう」
「「「…………」」」
そんな雑に問題を投げられても分かるはずもなく、みんな困った顔した。
とりあえず、この先生は無茶ぶりは大好きということが分かった。
「正解は『想像』。火の能力なら燃え盛る業火を、風の能力なら空高く渦巻く竜巻、そこらへんは一人一人に指導するつもりだ」
「……へー」
凄く興味のない男の声が左から聞こえた。
「全く分からなそうだけど、言葉で説明してるからねぇ。魔法の原理を説明しても理解してなかったら退屈になる。ってことで、今から訓練場に行くわ。そこで、魔法能力を試しましょうか。さっきの授業ではここで魔法を使ったけど……使い慣れてない魔法能力人の魔法能力って冗談抜きで危険だから、部屋とか……というか、許可なく勝手に魔法を使わないように」
先生はそう言って、授業が始まるぶりに床に足を付けた。
訓練所に着くと、まだ訓練をしている兵士達や自主練に励むクラスメイトがいた。
教皇の話だと、私達はこの世界の人間を守る役目らしいけど、正直実感が沸かない。
今こうやって必死に剣を振るってる人は、その実感がもう沸いているのか、私は分からない。
「じゃあまずは高飛車火南君から。【抱薪救火】はとても危険な火魔法。例え水で消火しようとも、その火を飲み込んでさらに火を強めるだろう。さぁ、目を閉じて」
「は、はい」
なんだろう、幼女体系の七先生が幼馴染の火南が並ぶと……なんだろう、いけないことをしてるようなものを見てる感覚だ。
「誰か今、失礼なことを考えなかった?」
「い、いえ」
思わず目を反らしてしまった。
七先生は溜息をしてから火南に向き合った。
「貴方は……そうね、放火魔。例えば、大好きな人が、全く思いも知らない人と付き合ってることを知るの」
「そ、そんなやつ、俺はいませんよ!」
「例え話だよ。『想像』が必要って言ったでしょ」
七先生は何を言っているのだろうか、火南の耳元まで口を持っていき、こそこそ話で話している。
後ろを向いている火南、でもなんとなく、幼馴染だからなのか知らないけど。
背筋が震える、嫌な気配を感じた。
☆
『好きな人、ずっとずっと好きだったのに、君の隣じゃなくて、どうでもいい他の誰か』
例えば、例えばだけど。
銀子に彼氏が出来たら。
目の奥に、小さな何かが灯る。
『そいつはとんでもないクソ野郎。自分勝手でその子を困らせ、裏では平気で浮気して、なんでもない顔してその子の隣に立っている』
銀子の隣に、そんなやつがいる。
『許せないだろう?』
許せない。
小さく灯った何かは、段々と大きくなっていく。
『許せないから、燃やしてしまおう。灰さえ残さず、消してしまおう』
そうだ、消せばいいんだ。
銀子を奪ったそいつを、そいつ消せば、消せば、いいんだ。
段々と大きくったそれは、炎だ。
俺はその炎と向き合う。
『もっと大きい火を』
もっと大きくないと。
『もっと強い火を』
もっと、強い火を。
薪を足そう。
火を強めよう。
薪を足そう
火を強めよう。
『目を開けてごらん』
誰かに言われた、目を開ける。
そこに、銀子の横に、誰かがいた。
少し細い?身長は大人?
もう、誰でもいい。
そこは、俺の場所。
「放つがいい、君の……」
俺の炎を!!
☆
強烈な熱風に、私達は反射的に顔を腕で覆い隠した。
薄目で見たその光景は深紅一色に染まり、肌に当たる熱風は火傷してしまいそうだ。
ただ、そんな怖さよりも興味が勝る。
恐る恐る腕を下ろし前を見ると、そこには一瞬前とは違う光景が広がっていた。
砂のグラウンドは一面真っ赤な炎に染め上がり、火南の目の前に鉄塔ぐらいの大きさをした火柱が立っていた。
これが、能力。
あの中心にいたら、私達は死んでいただろう。
私達は、火南の出した魔法にただ圧倒されていた。
「『耐火の壁』を貼ってこれ……か」
「耐火の壁?」
「名前の通り、火に対して強い壁を作る魔法よ。あっ、そっか。初めてだから止め方も分からないか」
よく見ると、火南の周りと私達の近くにとても薄い透明な壁のようなものがあった。
七先生は急いでその壁の中に入り、火南の肩を叩く。
「―――ん?あれ、俺、どうして……って!これなんですか!」
「君の【抱薪救火】でやった魔法だよ」
「これを……俺が!?」
後ろ姿で分からなかったが。火南は自分で魔法を撃ったことに気づいてなかったらしい。
無意識で
「そのまま心の中で火を止めようか」
「心の、中?」
「大丈夫、一度発動出来たら止めることも出来るはずよ。一度深呼吸してー、吐いてー」
でも、残念イケメンの横で耳打ちしてる七先生、その絵面はやっぱり危険だと思った。
しばらくすると、火柱はどんどんと弱まり、周りの炎のカーペットも消えていき、あんなに大きかった火柱も、今では可愛いサイズ。
全てが消えるまで若干時間はかかったが、向こうの世界の火事とかの消火活動とかを思い出すと、格段に速い。
魔法は特別なんだ。今の一連の行動を見ると、そう思う。
「どうだったかしら?初めての魔法能力は?」
「……まだ実感が沸きません。あと、凄い疲れました」
「魔力の調整がまだまだだからね。しばらくは基礎練習を積んで、魔力の調整から始めようか」
「はい」
火南は顔を青ざめながら帰ってくる。
「火南、大丈夫?」
心配で声を掛けた。
「うん……大丈夫」
「いや、魔力の使い過ぎで、頭痛吐き気気怠いが一気に襲ってきてると思う」
「駄目じゃん!」
そりゃあそんな顔になるよ。
ほぼ死んだ顔になっている火南は、申し訳ないけど、正直こうはなりたくない。
「とりあえず、そこに寝かしておきましょうか。私はちょっと楽しくなってきたから、あともう一人やろうかしら。
じゃあ速水銀子、行こっか」
「えっ、なんで」
「これがさっき変なことを考えた罰だよ」
「なんでバレてるんですか」
この世界の人間は心でも読めるのかな?魔法だったらありえるかもしれない。
「速水銀子は……【雪之女王】か。『氷魔法』とは珍しい能力持ったわね」
「珍しい?」
「授業でも言った通り、基本的に魔法は『火・水・雷・風・土・木・光・闇』の八種類。基本はね」
「基本は?」
「つまり氷魔法はちょっと特別なの。水魔法をちょっと改造した魔法なんだけど、それを能力として扱うのは、私は初めて見たわ」
「特別……」
そう言われると、ちょっと照れるというか、なんというか。
少なくとも、嫌な気持ちにはならない。
「はいはい、ニヤケてないで始めちゃいましょ」
「えっ、まだ心の準備が」
「はいはい、目を瞑ってー」
まさかの無視。
この人バンジージャンプの係員だったら、早く跳ぶように催促する人だ。
愚痴を言っても仕方ないのでおとなしく目を瞑る。
さっき火南が何をされたのか分からないから無駄に身体に力が入ってしまう。
「貴方は、暑い日と寒い日、どっちが好き?」
「どっち……寒い方が好きかな、です」
「今はタメ語でいいわ。寒い日、どうしてそっちが好きなの?」
「暑い日は、例え全裸でも暑いけど、冬とかは厚着を着ればなんとかなる。それと、虫が少ないし、雪は綺麗だし、お年玉貰えるし……それとっ!」
口に出しかけて、ふと止まる。
「それと?」
でも、少しだけでも言いたくて、抽象的だけど、こう言った。
「嬉しいことが、あったから」
嬉しいこと、七先生はそれだけでは何があったか分からないだろう。
でも、それでいい。
絶対分からないけど、ちょっとだけヒントを出すのが、ちょっと楽しい。
「そう、貴方の緊張が解けて良かったわ」
言われて気付く。
ガチガチに固まっていた私の身体は、今では右足と左足を組んで、不真面目に立っている。
「じゃあそろそろ行くわね」
「はい」
☆
ゆっくりと、沈んでいく。
……どこに?
段々と、沈んでいく。
……何に?
分からない。
けど、怖くはない。
むしろ、安心する。
『……貴方は』
誰かの声が聞こえた。
『貴方は、どちらを選ぶ?』
真っ暗な空間に、二つの文字が表れた。
『全て』
『一つ』
どういう意味だろう。
でも、身体はゆっくりと文字に近づく。
「一つ」
それに触れると、文字は消えていった。
ただ、これだけじゃ足りないらしく、また文字が表れた。
『賑やか』
『静か』
どっちも好きだ。
でも、どっかと聞かれると。
「静か」
文字が消え、また文字が表れる。
『自分』
『他人』
「自分」
文字が消え、また文字が表れる。
『努力』
『才能』
「才能」
『猫』
『犬』
「猫」
『ある』
『ない』
「ない」
意味も分からず二択を解き続ける。
『銀』
『金』
多分、これが最後の問題だ。
さっきまでの私は、そこまで悩まずに答えていたけれど、この問題だけ、長く考えていた。
「こうじゃ、駄目?」
いずれこうなると、もうなっていると、私は強欲だから。
「両方」
銀を右手で、金を左手で触れると、真っ暗な世界は突如消え、今度は真逆の世界。
足は雪に埋もれ、空からは今も尚雪が降り続けている。
「大丈夫か?」
右から、いつもの先生の声が聞こえた。
「大丈夫です」
だから私は、何も疑わずに、いつも道りに答えた。
急な突風。
どれだけ厚着を着こんでも、寒い物は寒い。
先生は私の手を握ってくれた。
暖かい。
たったそれだけで、もうちょっと頑張れる気がした。
でも、いつまでもこんな寒い所にいたら凍えてしまう。
『仕方ないから、雪や風を家を作ろう』
どこからともなく、声が聞こえた。
どうやって?
『どうやってって、いつもやってるじゃない。貴方は雪の女王様。さぁ、その腕を振るいなさい』
そうだった。
私は雪の女王だった。
残った左手を前に振って、イメージする。
どんな家にしようかしら。
でも、いいや。とりあえず雪や風を寄せ付けない、大きな家を。
身体の中から何かが抜ける。
それと同時に、目の前に真っ白の家が出来た。
「銀子、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
あぁ、幸せだ。
この幸せ、絶対に失いたくない。
「『目を覚ましなさい』」
邪魔が入らないように、家の前に強い人を置こう。
この雪ももっと強くなれば、人はここには来れない。
雪だるまは頭に立派な木を生やし、中華鍋とコップは鍋を置いてバーベキュー。
白雪姫はシンデレラを連れ去って、魔法もキスも置いてけぼり。
私は笑った。先生も笑った。
それでいい、それでいい。
吹雪は私達を隠し、雪ダルマ達はオドり合い、シラユキヒメとシンデレラはキスをシタ。
『速水銀子、早く目を覚ましなさい!』
吹雪はワタシタチを隠し、ユキダルマ達はオドリ合い、チュウカ鍋とコップはけンかして、シラユキヒメとシンデレラはキスをシタ。
それでいい、それで―――
「『―――起きろ!』」
世界が、戻った。
……戻った?
「あれ、わたし……今まで何を?」
「前を見なさい」
七先生に言われ、前を見る。
すると、信じられない光景が広がっていた。
一面綺麗な雪景色、空から雪が物凄い勢いで降っていた。
真ん中には雪で出来た大きな家が建っており、家の前では真っ白い木が生えた顔が無い雪だるまが三体ほどなんだかよく分からないダンスを踊っている。
「なにこれ?」
「全部、貴方の能力よ」
「いや……うん。この雪だるまどうなってるの?」
「そこまでは知らないわ」
さっきの火南の魔法は、かっこいいとか怖いとか、そういう感情があったけど、私のやつは見てて意味が分からない。
家の中はどうなっているのかな。
そう思い、一歩前に進み雪を踏む。
「……あれ?」
突然、視界が真っ逆さまになり、見える景色がゆっくりとした感覚になる。
雪で転んだ?
そんな気はしない、前に進めなかった?
頭に地面を打ち、私は意識を離した。
☆
「速水さん!?大丈夫!?」
「待って!そこから動かないで!」
私は飛び出しそうになった子供を止め、低空飛行で飛んで転んだ速水銀子の傍に寄る。
低空飛行している理由は私も転んだらシャレにならないのと、単純に濡れたくないから。
家建てたり奇天烈な雪だるま出したりして、意識が戻った後も無意識に吹雪を降らして、そのまま魔力使いきってぶっ倒れた感じかな。
もしくは、普通に雪で滑って頭打って意識飛んじゃったかもだけど、それはあまりにもダサいから魔力枯渇ってことにしておいてあげよう。
降り注いでいた吹雪が止み、踊っていた雪だるまは動きを止めた。
けれど、立派に建てられた雪の家、頭に木が生えた雪だるま、地面に積もってる雪と足跡は未だ残ってる。
このままでは訓練の邪魔になって、小言を言われてしまうかもしれない。
後で処理しなきゃか、先生ってのはめんどくさいなぁ。
とりあえず、いつまでもここにいるわけにはいかないから、この子を頑張って背負う。
……意外と重いな、この子。
あと、この子割と
着やせするタイプか。
「あの、速水さんは大丈夫ですか」
「小車風花、速水銀子は大丈夫だよ。ただまぁこの通り、調子に乗って魔力を使い過ぎてしまうとそこにいるイケメン君&美人ちゃんみたいに倒れちゃうから、気をつけるように」
「先生、イケメン君とやらも寝てるんですがどうすればいいですか」
「流石にそれは持ちたくな……持てないな。頑張りたくもないし、そこらへんにいる兵士でも適当に呼んで、救護室に持っていきましょ」
そう言うと、雨海平目君と角頭大地君が走って兵士さんを呼んできてくれた。
午前から身体を動かしたというのにあんなに動き回るとは、あの子達の体力は無尽蔵かしら。
……いや、これくらいないと困るか。
訓練はまだ一日目、今はまだ甘いけれど、訓練は段々と過酷を極まるだろう。
じゃないと、この子達は……。
「勝手に呼んだのは、こっちだってのにね」
少し申し訳なると同時に、何か一つ、心の中で芽生えた気がした。
暖かい、何かが。
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