第6話

「全員集合!」


 三間さんの大きな声が訓練所全体に響く。

 この訓練所、馬鹿みたいに広いというのにどうして端っこにいる私達まで声がバッチリ届くのだろう。メガホンやマイクを使った体育教師の声は、届いても何言ってるか分からないというのに。

 何かタネが、魔法の力で声を大きくしてるとか使ってるのだろうか、魔法の知識は全くないから分からないが、素でこれだと思いたくない。

 槍の基本を教えてくれた兵士さんが「ほら、走るよ!一番を目指せ!」と言い、私達を走らせる。

 この人優しいし教え方めっちゃ上手かったけど、このノリは正直ウザい。しかも馬鹿みたいに早いし。

「午前の訓練はこれでおしまいだ!午後は魔法の訓練に移るのだが……その前に!」

 三間さんのすぐ後ろにいるゴツイ見た目をした人が男の人前に出る。

 訓練の途中から見えていたそれと共に来た人で、あれは誰だろうと思ってたところだ。

 近くで見ると三間さんと同じくらいガタイが良く、めっちゃムキムキで、見た目だけなら「貴方が隊長さんですか?」と聞きたくなる。

 というか超怖い、目元よく見えないし唇分厚いし天パ、エンジェルモードとか言って背中から翼が生えてきそうだ。

 あの漫画、途中まで翼から借りてたけどその後どうなったのかな。


「なんと王国の料理長さんが直々に料理を振る舞ってくれるそうだ!今日は皆で親睦を深めよう!」


 後ろの兵士さん達が「「おおおおお!!」」とでかい雄叫びを上げた。それを見てノリのいい男子達も真似して雄叫びを上げた。

「もっと、もっと腹から」

「お。おおおおおお!!」

「そうだ!おおおおおお!!」

「「おおおおおおおおおおお!!」」


 なんだこれ。


「それじゃあ、料理長さんの挨拶だ」

「料理長で~す♡今日はあ、この世界に来た可愛い可愛い子供達に、素敵な素敵な、プ・レ・ゼ・ン・ト♡を持ってきたわ~ん♡」


 ……。


「オカマ……?」

「……プっ」「ハハハハ!」


 凍り付いた空間で、誰かがポツリと呟いた。すると、兵士さん達は大爆笑。


 なんだこれ。


「もお~、さっきオカマって言った人は後でディープキスの刑よ♡」

 屈強な男がド定番のオカマ言葉を使って話す。

 兵士さんの反応を見るに、多分これが素なのだろう。

「って、いけない!早く食べないと冷めちゃうわ!こんなオカマの話なんてどうでもいいから早く食べちゃいなさい!ほら、子供からいらっしゃい」

 校長も見習ってほしいほどあっさりと話を終えると、手招きして列を作る。

 たまたま私が一番近かったので、先頭に並んでスープ皿とパンを受け取る。

「はい、ア・タ・シ・の『ミルクシチュー』よ♡」

「……わーい」

「あら、露骨に嫌な顔されちゃったわ。可愛いんだからそんな顔しないの!何か悩みとかあったらアタシに相談していいからね」

「屈強な筋肉をしたオカマ口調なことに頭が混乱してます」

「それは大変ねぇ、誰が屈強でオカマなのかしら!そんな化け物アタシが退治してあげるわ!って誰が化け物よ!」

 ノリツッコミまで出来るなんてなんてスペックの高いオカマさんなんだ。

「ふふふ、アタシはなんでも出来るのよ」

「へ?心読んだ?」

「なんでもできる、ね?」

 心も読めるなんてなんてスペックの高いオカマさんなんだぁ。


 貰った食べ物は確かにシチューのような味で、濃厚で美味しい。

 パンを千切って付ける、昨日も思ったが、このパン味はいいのだがフランスパンみたいに外が硬くて食べにくいし千切りにくい。中はふわふわだから美味しいのだが、硬いのは嫌だ。あれ、硬いパンってフランスパンだっけ。

 食パンみたいななんにでも出来る万能なパンや、メロンパンみたいな甘いパンはあるのだろうか。

 しかしこのシチュー結構味が濃い、パンと言うよりお米が欲しくなる味だ。

 この世界にお米あるのかなぁ、後でオカマさん、料理長さんに聞いてみようかな。



 響と喋りながら食べていると、先生が最後にシチューを受け取るのを見てこちらに呼ぼうとする。

「せん……」

「先生、この後午後の訓練が終わったら相談したいことがありまして」

「小山内か、別に大丈夫だぞ」

「ありがとうございます、出来れば人目に触れたくないから……えっと」

「それじゃあ私の部屋か小山内の部屋がいいな。小山内の部屋でもいいか?」

「はい、ありがとうございます」

 呼ぼうとした所、小山内さんに割り込まれた。

 話も聞こえていたため、私がこの後先生の部屋に凸っても無駄なことが分かった。くそう。

「隊長、一緒に食べてもよろしいですか?」

「もちろんだ、先生。私も一度話す機会が欲しくてね」

 しかも先生が隊長さんと食べることになっちゃった。

 うぅ……私の先生が取られた、私に寝取られ属性は無いのよ。

 でも、先生は先生だし、仕方ないと言われればそれまでだ。

 前までは放課後に先生の家に行ってイチャイチャしていたけど、今ではクラスの距離が物理的に近くになってしまったせいで二人きりになるのは以前よりもずっと難しいのかもしれない。

「銀子、急に悲しい顔してどうしたの?」

「お米が欲しいなって」

「確かに!」

 そこからは、兵士さんが話しかけに来てくれたり、クラスで話したり、兵士さんの一人が宴会芸してくれたりしてかなり盛り上がった。

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