壹、 天兎 4
「何よ。思ってたより随分と真面目な取っ掛かりね」
俺のあぐらの上で、ごろんと寝そべった兎姿のアオが言う。話を聞かせているうちにのらりくらりと近寄ってきて、最終的にこの格好で落ち着いたようだ。毛深いので暑くてたまらない。
「真面目で何が悪い」
「いやぁ、悪くなはないけど……面白くもないわねぇ」
退屈そうに間延びした声に合わせて、アオは四肢をクッと伸ばした。
「そうだよ。お前の笑い種になるようなことは何もない。人の心読んでまで知るようなことじゃないんだ。いいか、プライバシーだぞ。覚えとけ」
「ぷらばし? よくわかんないけど、ま、いいわ。今のが作り話ってわけでも、なさそうだし」
「作り話であってたまるか。あと、次からその心を読む術。使用禁止な」
「はいはい。いいわよ、別に。だって、ユエで心なんて、読めるはずもないんだしね」
「は!?」
おい、今こいつなんて言った?
驚いた俺が急に立ち上がると、寝っ転がっていたベッドを失ったアオは、地面に頭を強かに打ちつけ「んあ゛っ!」と叫んだ。
相変わらず短い両手で必死に頭を押さえながらこちらを睨む。
「ちょっと! いきなり立ち上がるんじゃないわよ! 危ないでしょ!」
「知るか! それよりお前、さっき言ったじゃないか。ユエで他者の心を読む芸当もできるとかなんとか」
「はぁ? できたりできなかったりって言ったじゃない! できるわけないでしょ!」
「なっ! じゃああれは、カマかけやがったのか!?」
「カマかけたってほど、くればーなことしてないわよ。あんたが自分から話し始めたんでしょ!」
アオは鼻先をプイっと横にやって澄ました顔をした。白兎の外見が愛嬌ある分、こうなると余計に憎らしい。しかもクレバーという単語が妙なイントネーションで、最近覚えた言葉を使ってやったという感じがさらにムカついた。おおかた家のテレビか何かで聞いたのだろう。
この暑さも含め、赤面を自覚しながら俺は叫ぶ。
「アオお前! もう今晩、飯抜きだ! あの酒もなし!」
するとお澄まし顔だったアオも途端に毛を逆立て、後ろ足でタンッと鳴らす。
「な、何よそれ!? ちょっとあんた、それはあんまりじゃない! 外道なの!?」
「外道はどっちだ! 性悪兎!」
「誰が性悪よ! あたしのユエが尽きたらどうしてくれんの!」
「知るか勝手に尽きてろ!」
俺とアオはしばらくの間、そうして叫び合っていた。兎相手に口喧嘩など、端から見たら完全に気が触れたと思われるような行為である。そういう意味では周りに誰もいなくて幸いだ。
結局、アオはひとしきり俺に文句を吐くと、鼻息荒くピョコンと柵の外に飛び降りて去った。勝手に現れたかと思いきや、騒ぐだけ騒いで勝手に帰っていくなんて、とんでもない奴だ。
しかし、まあいい。どうせ夜になれば、すっかり忘れてけろっとしているのだろう。
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