アンデシンの心

花萌橋 遼弥

アンデシンの心

 あなたにはどうしても止まない愛はありますか。その愛はいつか叶うでしょうか。そんな言葉を抱いて、沈んでいく。陽を浴びて、怺えるように、海は深く。例えば、ボクの身体が花ならば、溺れることなく水面を舞えるのに。


 生まれついた頃からの冷たい朱い肌の、そんな石の身体でボクは、ヒトを好きになってしまった。とっても優しい人、笑顔があたたかくて、包み隠さずに心の内を伝えてくれる。幸せになれる人だ。だからボクはその全部を忘れたくて、冷え切った世界でひとり、ただ眠った。誰かを愛してしまう自分が嫌で、そんな想いを消してしまうため、ひたすらに眠り続けた。月がめぐり、時間は夢に消えていく。想いは時に擦り切れて、小さく、小さく、夢の底へ落ちていく。その暗闇の果ての、水鏡の世界で、人影のぬくもりを抱きかかえた。弱虫なボクにはもう、カタチを拒むことしかできなかったんだ。例えば、一瞬さえも叶わないから、永遠を望んでしまうように、見えないほど遠くのカタチを、ずっとそばの心の中で転がした。水の音を音階に正すみたいな、果てなく、答えを求めて。そうして、その矛盾がこの心を生んだ。

 誰がうんでくれと頼んだ、とかありきたりに憤り、その実、探しものが見つからないだけの幼子だったり、わがままに全てを手中に治めようとする暴君だったり、ただのひとなのだ。そう、息を吸うのが下手くそだとしても、所詮ヒトは人にしかなりえない。そのはずなのに、色が違うと、その種は罪だと、糾弾される結末ばかり聞く。どうして、人肌も赤いでしょう?と、誰にも届かない歌が、天を落ちていった。


 本当の暗闇に包まれたとき、人は声も出なくなってしまう。

 

 そんな言葉、信じたくないけど。泣き叫ぶことも、光がなければできなくなってしまうのだろうか。きっと、多分、どれだけ人に見放されても、ボクはそうなんだろう。光の粒が薄れていく、やさしくあれ、つよいこだろ、ひとのために、全部、全部、全部、洗い流していくように。そっと目を閉じる。そこに血の色はなかった。碧く、花のような、ミントグリーンに染まっている。冷たく淀んだその色は、孤独、諦め、無色、死?あぁ、陽でも射せば、この想いは消えてしまうだろうな。ならばボクは、今をどうしよう。星を仰げばいいのかな、それとも、この心を叩いて進むべきだろうか。それとも。


 どうしたって解けない問いかけを、ヒトは時折、意味もなく唱え続ける。ボクだってそうだ、見つからない《ぬくもり》をさがしている。きっと、正解なんてないんだろうな。それでもまた、小さく咲う花と、糸のような救いを、見つけたいと願っている。ひとりを、受け容れられる日がきっと来ると信じている。

 花よ、キミはいつまでも、この心に在るでしょう。


 ポコッと、陽気な音を立てて石ころは海へ還っていく。おかえり、は、また出会えたらね。祝福するように、初めての雪の花が、水面を色づけていく。


 暗闇は、灯りだった。

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