『ネロ』

　まさか姫様と入れ違いになるとは思わなかった。

　ダンジョンの最奥にたどり着いた時、そこはもぬけの殻だった。

　慌てて周辺をさがしてみたが、影も形もない。

　おまけに勇者も取り逃がす始末。

　これでは、示しがつかない。

　戦闘力のない私を、兵士達と共に特別に送り出してくれた王様になんといえばいいのだ。

　だから、姫様を見つけるまで私は帰らないと決めた。

　きっと、あのお方は今も怖い思いをしてるに違いないのだから。

　兵士の大部分は帰還させたが、一部の者はつきあってくれている。

　その一部の者が新しい情報を掴んだ。

　最近、魔王の城の近くで勇者の目撃情報があったとか。

　まさか。

　脳裏に浮かんだその可能性を、否定したかった。

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