第19話 変化するダンジョン



 ダンジョンの仕掛けを点検すると言った勇者様。

 アルト様の注意がそれた隙に、私は部屋を脱出しました。


「どうにかして、ここから出ないと」


 いつまでもあんなあやしい人の元にはいられません。

 私はこの勇者様のダンジョンから脱出するために、精いっぱい知恵を巡らせます。


 一度で駄目なら、二度・三度試みればよい。

 失敗は次に生かせばよいのです。


 だから、この建物の構造をできるだけ頭に入れようとして、踏み出しました。


 けれど……。


「前来た時と区画が、変わってる!?」

「どうしたのかな。クリスティーゼ姫」


 背後に勇者様。

 後もなく接近してきたアルト様は、まるで背後霊のよう。


 私は内心で焦りながらも、必死にとり繕います。


「いっ、いえ、何でもないです。ちょっとお散歩を」

「なら、お供いたしましょう」

「はっ、はい」


 歩いていくのは、まるで見覚えのない区画ばかり。


 一体どういう仕組みなのかわかりませんけど、建物の構造が変わっているようです。


 これは、良くない事です。


 頭の中につくっていた地図を修正しましたが、変わった区画が多すぎてうまくいきません。


「あっ、あのっ、アルト様」

「何かな」

「なっ、何だか建物の雰囲気が変わっているような」

「よく気が付いたね。不埒な侵入者が姫を狙って入ってこないように。自動的に構造が変わる仕掛けにしておいたんだよ。だからもう、魔王に攫われた時のような事は起こらない。あんな悲劇は二度と。不安にならなくてもいいんだよ」


 いえ、未来の事でなく、今が不安なんです。

 ここから出られるかどうか分からないのが不安なんです。

 何でこんな、魔王並みの脅威が傍にいるんでしょう


 ニッコリ笑顔の勇者様ですが、それはこちらの心臓に負担をかけるだけです。


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