第15話 急速冷凍される心



「ああ、私の、私だけの姫」


 熱に浮かされているかのような様子でうっとりと名前を呼ぶ勇者様ですが、私の心は急速冷凍。


 勇者様の視線は、私ではない私を見ているようでした。


 この人、怖いです。


「あっ、あのっ。勇者様、いえっ、そのっ、アルト様」


 彼は、普通の女性たちなら見つめただけで虜にできそうな美貌の持ち主です。

 そんなアルト様に、愛しているだなんて言われたなら、喜ばないわけにはいきませんが、そんなものに紛らわされるような間抜けではありません。


 私は一度は国の……世界の命運を背負った人間なのですから。


 生きて、お城に帰り、魔王打倒の顛末について説明しなければ。


 以前の私にはなかった責任感が、重くのしかかります。


 でも負けていられない。


 ネロも、お姉様たちも、家族も、私が守らなければ。


「何の目的でこんな事を?」


 私の力に目がくらんで悪事を働こうとしているのなら、世界の敵になるというのなら、私は勇者様の元から逃げ出さなければなりません。


「何をしたいのですか?」


 けれど、不可解でした。


「何も、ただ姫と共にいたいだけですよ」


 アルト様はまるで私しか見えていないようで、他の事なんてどうもいいような態度です。


「なら、帰してください。国王様に、お父様に魔王討伐の事を報告したいのですが」

「大丈夫だ。私の姫、他の事なんて気にしなくていい。国の責務なんてここでは関係ない。放り出してしまえば良いんだよ。一緒に幸せになろう」


 どうしましょう。

 まるで話が通じません。

 たぶん同じことを二度、三度言っても、会話の内容がまったく変わらない気がします。

 とりあえず何とかしてここから脱出しなければ。


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