第14話 自由のない生活



『クリス』


 今の所、勇者様に危害を加えられるようなことはありません。


 魔王城から助け出されて勇者様の隠れ家ダンジョンに連れて来られた後は。

、特にひどい扱いをされているわけではありませんでした。


「姫、愛しているよ。世界一だ」


 行われるのはこんな具合に、うっとりとした顔で微笑む勇者様に、毎日愛を囁かれるぐらいです。


 言葉の表面だけを考えると、いまにもとろけてしまいそう。


 けれど、内面でも本当にそう考えているのか分からない、


 特に拘束されるわけでも、監禁されるわけでもありません。


 でも勇者様は、自由にだけはしてくれない。


 魔王を倒した後は自由に生きたいという、その口で。


 今も勇者様は、甘い声をかけ続けています。

 その気になれば、誰だって倒せるはずの強大な力の持ち主が。


 私は勇者様の言葉を遮りました。


「あっ、あのっ! 少しお話しても、良い、でしょうか?」


 愛おしそうに微笑む勇者様は、普通ならときめきの対象ですが、今はひたすら怖い。


「勇者様」

「何だい、クリスティーゼ姫」


 私の本名。長ったらしくて覚えるのが苦なのが欠点ですが、勇者様は全て記憶してくださっていたようです。


 数えるほどしか、話した事が無い相手の。


 普通だったら、きっと嬉しく思う事なのに。


 この状況では気が重くなるだけ。


「そっ、そのっ、えっと。どうしてこのような事を?」

「何かおかしいかな?」

「えっ」


 あまりにも堂々とした態度の勇者様は、この現状に何にも疑問を抱いていないようでした。


 まるで、私の自由を奪って愛を囁く事があたりまえの日常だと、そう思っているように。


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