第10話 勇者アルトの境遇



『アルト』


 人の目を気にする事なく、姫と二人きりの時間を味わっている。

 俺は、最高に幸せだった。


 俺は、勇者と言われるものだ。

 名前は、アルト。

 ただのアルトだ。


 俺は長い事孤独だった。

 アルケミシア王国の末の姫。

 クリスティーゼ・シュラインヴァース・アルケミシアに会う前までは。


『お前は、勇者になる定めの人間だ。あの占い師がそう言うなら、お前は世界を救う人間となるのだろう』


 親のいない俺は協会で、他の子供達と一緒に暮らしていた。


 けれど、高名な占い師の手によって力を見いだされ、知り合い達から引き離れた。


 その後は、武術だか剣術だかの師匠にしごかれる孤独な毎日だった。


『泣くな小僧。弱みを見せるな。背中を刺されるぞ。常に強くあれ! 勇者になる者がそのような情けない面をさらすでない!』


 力がついた後は、危険な魔物と戦ったり、悪人と戦ったりで、人とまともに話した事が無い。


 俺が頑張らなければ、世界が終わってしまう。

 たくさんの人たちが死んでしまう。


 そう言い聞かされていたから、わがままなど、到底言えるものではなかった。


 誕生日も、祝い日も、俺にとっては毎日同じ。


 たまに人里にやってきて、幸せそうな者達を見るのが辛かった。


 そんな風に毎日すごしていたものだから、勇者になった後も変わらず、変えられず。


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