第1話 クリスティーゼ



『クリス』


 王宮の庭園で日課の散歩をしていると、風がでてきて、青かった空にいくつもの雲がやってきた。重々しいそれらはまるでこの世界に蓋をするよう。

 

 もうじき雨が降ってくる。

 

 私と同じ事を思ったのでしょう。


 メイドのネロが、室内へ入るようにうながしてきました。

 

 アルケミシア王国の10人いる王女の末の娘。

 それが私クリスティーゼ・シュラインヴァース・アルケミシアです。


 年の離れたお姉さま達から愛されて、甘やかされて育ってきました。

 厳しくも立派なお姉様様は、みなとてもしっかりしています。


 自分の無力さをかみしめて、枕を涙で濡らす事はあったけれど。


 それでも私は、自分にできる事を、毎日探し続けていました。


 結果として、この今以降も女性だらけになったこの王族の血筋に、男の子は現れませんでした。

 けれど、男の子の誕生に恵まれなかったけれど、お姉様たちはみな才能あふれる者達ばかりでしたから。


 政治や国のかじ取り、民衆の間で起きた問題解決、王家の求心力の維持など、全てが万全で完璧でした。

 だから幸いなことに、国民達は女性が王でも良いと言ってくれています。


 国の治安はとても安定していて、誰もがみな笑顔。


 アルケミシア王国は、これまでの歴史の中で一番平和な時代を築いています。


 でもだからこそ、努力するたびに私は、自分の無力を思い知らされてしまう。


 結果が出ない事を、自分が凡人である事を。


 私は、誰かに求められる事のない自分の立場に不満を抱きながら、毎日過ごしていました。


『実は、誰からも必要とされていないのではないのでしょうか?』


 幼い頃から仲良くしてきた少女、メイドのネロは「そんなことはない」と励ましてくれるけれど。


 毎日、不安に思わない日はありませんでした。


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