第24話 これ絶対参加しないとダメなやーつ!

「え? 運営から?」


 なんか嫌な予感がする。

 VRゲームの場合、目の前にウインドゥ画面を表示できる。そこに表示されて、プルプルと震える手紙のマークを押してみた。

 中身を見た私は……目をかっぴらいた。


 ――ダンジョン出現時、ログインしながらオンラインにいなかった方を、当社で把握しておりました。そう言った方々は皆様が現実世界に現れたダンジョンで、戦闘をしていたことを確認しております。


 つきましては、戦闘の上、無傷で生還なさった経験をふまえ、ダンジョン攻略にご参加いただけるよう、お願いを申し上げております。


 今後発生地の近くにある会社には、始業時間の繰り下げ、終業時間の繰り上げの依頼が出されますので、安心して攻略にご参加いただき、貴重な経験を生かして、他の参加者の方々のバックアップもしていただけると幸いでございます。


 また、参加要請を行ったプレイヤー名を、ゲーム内で掲示しております。



「けいじっ!?」


 私は慌てて町中の掲示板へ走った。

 そこは町の広場になっている場所で、運営が掲示をすると、紙に文字が書かれた物が出現するのだ。

 既にそこには人が集まっていた。


「へー参加要請されるなんてすごいな」


「こいつらみんな、リアル戦闘して無傷で帰って来たんだろ?」


 沢山の人が見ている掲示板の中には、たしかに私の名前があった。もちろんライゼルさんやユリアスさん達の分まで。


「ひぃ……」


 悲鳴も上げられずにいると、掲示板を見終わった人達が私に気づいてしまった。


「あ、黒ずきんじゃない?」


「リアルダンジョンがんばって!」


「どこのダンジョンにいるの? って聞いても現地で会えるかわかんないもんね、入る時間が合わないと」


「でも夜だけ出現するんでしょ?」


「会社員は副業持ちってこと?」


 笑い合う可愛らしい少女魔法使いの三人組。

 その言葉に、私はもう逃れられないと気づいた。


 だってみんな、私が参加するのは当然だと思ってる。そんな中でダンジョンに行かなかったら、「えーなにあいつー」「怖気づいたのー? みんながんばってんのに」とか言われて、唯一の楽しみになってるゲームでまで針の筵に!


(これ、強制参加要請みたいなもんでは……!? ソロプレイなのに、町中で肩身が狭いとか嫌なんですけど!?)


 かといってもう後の祭りだ。


「参加、するしかない……」


 そして早く攻略するのだ。

 元の生活を取り戻すためには、それしかないと私は決意し、ユリアスさんに連絡した。


「私、参加することにしましたー」


 あははは。すごい後ろ向きな理由だけど、口に出さなきゃバレないので黙っておこう。


「大丈夫? 戦闘系の職種じゃないのに」


「一応召喚士は持ってますし、ほら、錬金士だって爆弾とかありますから。あははは。何より速攻でダンジョンを攻略してしまいましょう。近くを通りがかっただけでアバターに変化しても嫌ですし」


 そうそう、そうだよねと心の中で自分にも言い聞かせた。

 万が一にもダンジョンの範囲が広がって、帰り道でいきなりアバターに変化!


「あら伊織さん、あなたプレイヤーだったの!? しかもその年で美少女キャラとか!」なんて言われたらぶっ倒れそう。


 そう何が何でも、正体バレだけは阻止する! そして穏やかなゲームライフも死守する!


『え、正体バレが嫌だったの!?』


 ユリアスさんは意外だったようだ。


『え、ユリアスさんは嫌じゃないんですか?』


 きっと自信がおありなのでしょう。さすがユリアスさん。本来なら実物を拝見したくなるところだけど、自分が隠しているのに「見たい!」というのはいくらなんでも卑怯だろう。


『私はそれほどでも……。黒ずきんちゃんはどこが嫌なの?』


『だって私、自分がこんなかわいい姿のアバターを選んで可愛い名前で錬金術師していましたーなんて、会社の人にバレたら……失踪します』


 とてもじゃないけど、他の人に顔を合わせられない。


『あーでもわかるわそれ。死活問題よね。取引先の人にこの姿見られるのは嫌かもしれない』


『ですよ! ダンジョンは一時的なものかもしれませんが、これからも生活のために仕事していかなくちゃいけないのに、こんなの困りますもの』


『黒ずきんちゃんて理性的よね』


 ユリアスさんがふふっと笑う。


『じゃ、がんばりましょう』



 私達はそこでコールを終了し、必要な手続きを始める。

 書き終えて送信を選択したところで、またコールが入った。


「ライゼルさんだ」


 何か用事があったかなと思いつつ、コールを受ける。


『はい』


『その……運営からの個人へのダンジョン攻略要請なんだけど』


『ついさっき、申請完了しました』


 送信ボタンを押した後である。

 正直なところ、早々に申請を出してしまわないと、今日のダンジョン出現まで延々と迷うのが目に見えていた。


『うあぁぁぁ。誰かとコールしていたみたいだから、少し時間をおいてと思ったけど、置き過ぎた……』


 悔恨が滲む声に、私はとまどう。


『どうしたんですか? 何か問題でも起きましたか?』


『いや、戦闘に対して色々と危険だからと思って、もし迷っているなら辞めても大丈夫だと言おうかと。いくらゲームの力を使えても、命を危険にさらす戦いは嫌だろう?』


 どうもこの人は、優しすぎるようだ。


『大丈夫ですよライゼルさん。私も目的があって申請していますから』


『そうか……君は強い人だな』


 え? と私は思う。

 強いなんて言われたことがない。何か別の人と勘違いしてない?


『黒ずきんさんの理由もわかるよ。きっと他の人も、その危機には気づき始めていると思うんだ。テレビを見ただろうし』


『テレビ?』


『近くの店かビルの、防犯カメラに映っていた映像が流出したみたいなんだ』


『え』


 私は超特急でテレビの映像を呼び出した。

 そして絶句する。

 目の前に映る、映像。

 その中で戦っているあれは、まさか。


「うわああああ! 絶対潰す! ダンジョンなんて潰してやる! いやあああああ!」


 私は叫んだ。

 そこには自分じゃないけれど、アバター姿でコウモリを倒している複数人のプレイヤーが映っていた。


 遠くからだけど、衣装が特徴的だったら誰なのか判別できるレベルだ。

 中島公園もこの間、防犯用にカメラ増設したとか言ってなかった!? 絶対映ってる、映ってるぅぅぅ!


『まず運営に、映像流出しないように、出来る限り手を回してくれと頼みましょう。要請に応じてるんですから、それぐらいは配慮を求めてもいいはず』


 要請に応じていなかったら、こんな要望できないかもと引き下がっていたかもしれない。

 しかし私は要望に応えるのだ。


 堂々と要望しよう。

 何度もダンジョンに挑むことになるだろうし、そのたびに防犯カメラに映るのは嫌だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オフラインゲート ―社会的デスゲームを回避したいので、ダンジョン攻略します― 佐槻奏多 @kanata_satuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ