第23話 準備をしよう
それから、ライゼルさんとガントは治癒士のレベル上げをしに行った。
元が5LVだったのを、20には上げたらしいので、もう五つほど上げて、全体回復を強化したいらしい。
ユリアスさんは「負けてられないわね」とこちらも治療士のレベル上げに旅立つ。
「全体回復の幅が大きいリペアライフまであと少しなのよ」
40LV近くまで上げているようで、なおのこと力が入っているようだ。どこかのダンジョンに入るため、騎士団の友人達と待ち合わせしているらしい。
「私はどうしようかな」
材料を取りに行きたい気もする。
一人でもそれは可能だ。NPCをパーティーとして誘って行けばいいので。
まだ間に合うので、砂時計以外の攻撃アイテムを作ることに専念した。
そうして一時間が経った頃だろうか。
《運営からお知らせいたします》
とたん、町に居たプレイヤーの動きが止まる。
目の前に表示される運営メッセージに集中しているのだ。
《昨日、札幌、山形、東京、京都、四国、熊本にゲームに酷似したダンジョンが出現しました。すでに、多くの方からこの件について問い合わせをいただいています。が、運営側は事件に関与しておらず、返答は困難を極めておりました》
自分達も、何が何だかわからなくて、呆然としただろう。
《現実のこととは思えませんでしたが、運営側も政府より提供された映像を確認し、急遽現地での視察も行った上でそれを認めることとなりました》
「映像を、提供……」
まず運営会社側に政府からアクションがあるものの、運営会社の人間もにわかには信じないだろうし、手っ取り早く映像を見せたのだろう。でも映像は作れてしまう。
だから現地視察を行い……たぶん昨日のうちのことだ。現れたダンジョンと、魔物を目の当たりにしたのだろう。
《その後政府より要請を受けまして、プレイヤーの皆様にお知らせという形で、この事件の解決にご協力いただける方を募ることとなりました。報奨金のお支払いも行います。こちらは政府の方で急ぎ制度を作り、》
「よっしゃ!」
誰かが叫んだ。
「おう、ダンジョン行けるぜ!」
アナウンスの続きが耳に届く。
《初回は、各地域ごとに三十人。負傷者から、すでに警察が現地にいたプレイヤーの名前を聞き取りしていますので、その方が希望された場合は優先されます》
「なるほど」
一度戦闘経験がある人を優先できる。そしてあの場を切り抜けたなら、恐ろしさもよくわかっているだろう。無茶はしないと判断したのだ。
そしてあの怖さを知っていて参加するなら、何かしらの使命感があるからだと思う。
「くっそーわざわざ群馬から出て来たのに!」
「気が早いよー」
悔しがっている人が、知り合いになだめられていた。
《ただし、警察や自衛隊と一緒の戦闘が難しいと考えたこと、実際にプレイヤー側からの聞き取りや自衛隊と行動したプレイヤー側からの感想により、ダンジョンに入るのはプレイヤーだけとなります》
そして……と、アナウンスは続く。
《また改めて、死の危険があることを申し上げます。昨日もダンジョンが発生し、自衛隊員に重傷者が三人発生しています。治癒呪文、治療薬は有効ですが、MPや薬が尽きたため、十分な治療ができず、病院へ運ばれたプレイヤーもいます。
ダンジョン攻略希望者とは別に、ダンジョンの外で治癒を担当するプレイヤーも募集し、万全を期す体勢を整えます。
が、参加者には必ず遺言状を作成していたくことと、万が一怪我や死亡した場合についての誓約書、プレイヤー名とともに住所や連絡先、万が一の緊急連絡先も申請をお願いしております》
遺言と、緊急連絡先のあたりで、戸惑う人が出始める。
死を先に意識させられることへの困惑。
そして緊急連絡先になるだろう相手に、万が一連絡されてしまったら、という心配をしているのだろう。
「……まぁ、うん」
会社としてはそれぐらい要求するだろうとは思っていた。
いくら政府の要請とはいえ、プレイヤーに直接連絡しているのは運営会社だ。
軽ーい気持ちで適当な遺言状を書いてダンジョンへ行き、怪我をしたら運営のせいだと吠える人間は必ずいる。先に防御しておきたいと思うのは、おかしなことではない。
それ以上に、やはり怪我人が多い、と感じた。
ただ、自衛隊内にプレイヤーがいない部隊もいたのではないか、と思う。
既に砂時計のことは、一昨日のうちに知られている。情報収集せずに事に当たったわけがないので、使ったはず。
ただし、プレイヤーがいなければ使えない。
「やっぱりプレイヤーがいなければ……キツイんだ」
どんなに戦闘訓練を積んでも、ゲームのようなレベルで上がってしまうHPや不可思議なアイテム、魔法やスキルの力がなければ、この世のものではない魔物と戦うのが辛いのだ。
そんなことを考えていたら、ユリアスさんからコールが来る。
『黒ずきんちゃん、私、申請することにした。もし黒ずきんちゃんが申請しなくても、良かったらアイテム買わせてね』
『ユリアスさん……』
たぶんユリアスさんは、私に負担にならないようにそんな言い方をしたんだと思う。
遺言状とか、緊急連絡先の話を聞いてしまったら、怖くなるだろうと思って。私が辞めても大丈夫なんだよ、気にしないで、自分のことを守ってと言ってくれている。
正直、私はちょっとためらっていた。
このまま参加しないで、ダンジョンに近づかないように暮らしていたら、ゲームの黒ずきんが私だとはバレないのでは?
最善の策だろうと思ったその時。
――CALL:運営より重要なメールが届きました。
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