第22話 ゲーム内のさらなる混乱

 ゲームの中は、大興奮している人ばかりだった。


「ダンジョンのこと公表するのか!?」


「きっとまた出たんだよ!」


「俺知ってる。昨日ダンジョン見にいった奴が、追い払われたけど確かに戦闘してる様子だったって」


「じゃあどうなるんだ? プレイヤーから攻略組でも募るのか? 政府が?」


「おいダンジョンに行けるぜ、リアルで!」


 ――たぶん、募ることになるんじゃないかな。


 心の中で私は思う。

 ひっそりと声をかけるなら、まだ自衛隊である程度対処できるんだと思う。

 でも、もしゲームで広く募ったら……。


「自衛隊でもどうしようもない、ということになるんじゃないかな」


 ぽつりとつぶやいたところで、


「私もそう思うわ」


 返事をされて、顔を上げると、そこにはユリアスさんがいた。

 彼女は手を挙げて挨拶してくれる。


「はい、黒ずきんちゃん」


「おはようございますユリアスさん。自衛隊で対処できても、治療士と薬師はかならず募ると思うんです」


「問題は怪我だものね。アバターで怪我をしても、リアルの体にも傷を負うわけだし。魔法や謎の薬を使えば一瞬で治るのだもの。使わないという選択肢はないわ」


「ですよねぇ。治療士は防御魔法も持ってますし」


 使わないわけがないのだ。

 ダンジョンのことを公表するなら、ここだけは確実だと思ってる。


「あと、もしプレイヤー少数を入れた状態でも自衛隊で対処できないと判断した場合、午前中には何かアナウンスがゲームであるんじゃないかなと思うのよ」


 ユリアスさんはそう思って、朝からログインしたらしい。

 他の人達も私も、情報が欲しくてゲームに来てしまったが、そういう見方もあったようだ。


「アナウンスっていうと、参加を呼びかけるとか、ですか?」


「そうなるみたいだ」


 横からやって来たのは、ライゼルさんだ。いつも一緒の仲良しガントも連れている。この二人、傾向が違うのに仲良しさんだなと思う。


「なにか情報掴んだの? どこからとは聞かないけど」


 ユリアスさんの問いに、ライゼルさんはうなずく。


「政府がプレイヤーから攻略参加者を募るらしい、って話をね。詳細はちょっとわからない。ただ……」


 ライゼルさんが私やユリアスさんに言い聞かせるように続けた。


「どういう形の招集か、よく吟味した方がいい。ただダンジョンの時を止め続けるのならまだしも、わけもわからず突入するのか、何かしら案があってダンジョン探索を依頼するのかで、負担が変わるからね」


「そうね……」


 ユリアスさんが美しい顔をくもらせる。


「リアルの生活があるのだもの。うっかり大怪我をして、職を失ったりしたら困るわ」


「大怪我をしたら、アバターでいられる範囲にいる間に、回復薬や魔法できっちり治すしかないですよね。だから、治療士や薬師の需要があるはずです」


「いや、たぶん戦士系や魔法士も需要があるんじゃないかな。銃で倒しきれない魔物もいるだろうし、市街地で大砲や戦車を持ち出したら近隣に別な被害が出る可能性もあるし。ただ、あくまで自衛隊が前面に立つのなら、招集はかからないだろうけど」


「必要とされると思ってるのか?」


 ガントの質問に、ライゼルさんがうなずく。


「もちろん、自衛隊自体が、今からゲームプレイヤーを育成する可能性もあるけど、それじゃすぐに対処できない。プレイヤーに頼るしかないんだ。自衛隊内のプレイヤーは、その補助をしたり厳しい局面で前に出る役を買って出ることになるだろうけど」


 あと……と、ライゼルさんは付け加えた。


「プレイヤーの方があのダンジョンの攻略には、絶対なれてるからね。あの時は夜だったからはっきり確認できなかったけど、どこかに似てると思うんだ。ゲーム内のダンジョンの入り口に。今朝ようやく思い出したんだけど、あれはたぶん、奈落の神のダンジョンの入り口の一つだ」


「こないだの更新で、三十階まで公開されたやつかよ」


 ガントの言葉に続いて、ユリアスさんがパンと手を叩いた。


「あのダンジョンなら、入り口が沢山あってもおかしくないわ! 六か所だったかしら? え、結局日本のこの事件でダンジョンがあったらしい場所って何か所だった?」


「六か所だね」


「札幌、山形、東京、京都、高知、熊本……」


 出現地の場所のことも考えると、ゲームに沿った場所でもある。

 北国の都市。山脈中腹にある都市の側、王都から少し離れた森の中、古都の中央、海洋に面した場所、城塞都市の近くにある火山の側。

 それぞれのゲーム開始地点ともリンクする地域ばかりだ。


「初期のダンジョンにテコ入れしたっていうアレ?」


「そうアレだ。あのダンジョンだけが、初期設定地域がどこであっても、同じ構造のダンジョンだって設定だった」


 ユリアスさんは考え込むように、唇に指をあてる。その仕草がどこか色っぽい。


「確かにそうだけど……」


「あそこの三階に出るのが大コウモリだ。最初に出る魔物の種類が違う、そして現実世界に現れたショックで、みんなその可能性を頭の中から除外しているんだと思う」


「なるほど……」


 ライゼルさんの推論は納得できるものだった。

 その視点で見れば、たしかにあのダンジョンはゲームの初期から入れるダンジョンだとしか考えられない。


「中に入ることができればね、実証可能なんだろうけど。二度目ならいけるかな……。コウモリを倒した後、ダンジョンからはしばらく何も出て来ない。その間に侵入するか、砂時計で止めている間に侵入して、三階の魔物が上がって来る理由がわかれば」


「そりゃ、入れたらの話だろ? ライゼルよ。国が誰でもほいほい入れるかわからないんだ」


「まぁね」


 ガントに言われて、ライゼルさんは思考に沈むのを止めたようだ。

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