第21話 二日目のダンジョン
その晩――
《始まった》
その連絡は、洗濯物を干して、夕食までの間にもう一度、錬金物の生産をするためログインした一時間後のことだった。
突然聞こえたその声は、オープンなままにしておこうと話して、ライゼルさん、ガント、ユリアスさんと繋いでいたクローズチャットの回線からだ。
「え、ライゼルさん? ダンジョンですか?」
「ほんとに出たんだな……」
「テレビに映ってるの?」
ユリアスさんの声に、思わずテレビの映像を出してしまう。でも、ダンジョンの報道はしていない。ちょうどバラエティ番組の時間だったからかもしれない。
《いや、近くに会社の事務所の一つがあって、カメラを設置してるんだ。そこと映像を繋いでる。共有するから見てくれ》
すぐさま共有データのお知らせが表示された。
急いで共有をOKすると、目の前に画面が現れる。
そこそこの解像度のカメラのようで、風景がよく見える。
人の動きもなんとなくわかるので、自衛隊らしき人々がせわしなく動いていることも、公園の木々で隠れながらも戦闘を行っているらしいこともわかった。
なにせ自衛隊の武器といえば銃だ。
もしかすると、かなりの重火器を使っているのかもしれないが、よく見えない。
「もしかして、ダンジョンの周囲って視覚を阻害されるのかしら」
外側から見ようとしても、見えないようになっている気がする。靄がかかっているように、はっきりとしないのだ。
《そうかもしれない。だからテレビ局も、霧があったといえ、昨日の俺達の戦闘を撮影できた人間がいないんだろう。撮影していたらもっと恐ろしい騒ぎになってる》
なるほど。ライゼルさんの推測はその通りだと思う。
魔物や戦うプレイヤーの姿を映像に収めていたら、テレビでバラエティを放送している場合ではない。
《推測だけど、あの靄がかかっている場所に入ると、アバターの姿にもなるんじゃないかしら?》
《僕もそうだと思う》
ユリアスさんの言葉に、ライゼルさんが同意した。
《カメラを向けているのは、昨日のダンジョンがあった場所だ。ほぼ同じ個所に出現している。問題は、このまま自衛隊だけで押し返せるかどうかだけど……》
人の行き来は途切れない。
時折、爆発の余波みたいな煙が立ち昇る。
不安になっていたが、やがてそれらが治まってきた。
《解決できたのかしら?》
そう言いつつも、ユリアスさんの声はいぶかしげなものだったが。
「あ」
私はふと思い出したことと、この映像のことが突然頭の中でつながった。
《どうしたの? 黒ずきんちゃん》
「あの、ちょっと小声で話します」
私はすぐさま人が完全にいない場所へ移動し、さらに小声で続けた。
「たぶん札幌のプレイヤーで、自衛隊の人がいるんだと思うんです。自衛隊のプレイヤーに声がかかってるって話を耳に挟みました」
《なるほど。プレイヤーが砂時計を使って、戦闘を終わらせたのかもしれないね》
《初回だけは、魔物とぶつかって戦っていけるか見る必要があるからな。だから戦闘をした……と》
ガントも納得している様子だ。
《では、札幌のダンジョンは、このまま自衛隊に任せられるのかしら?》
「どうなんでしょう」
私はある不安を抱えていた。
ダンジョンからあふれる魔物を倒す。それはいい。
でも、ずっとそんなことを続けていけるだろうか?
砂時計だって、ずっと使えるかどうかもわからないのに。
しばらく映像を見ていたものの、動きに変化はない。
「昨日は徹夜したんだ。今日は早めに休んだ方がいい」
ライゼルさんの呼びかけに、私を含めて四人全員がログアウトした。
どんなにハラハラしても、私達にできることはないし、一般市民があそこに行っても追い返されるだけ。
でも目が冴えて眠れるかと心配だったけど、寝転がって部屋を暗くしたら、秒で眠りに落ちたようだ。
そして翌朝。
《未知の穴が発生し、そこから未確認生物が現れるという発表がありました。野党の中には「首相は錯乱しているのでは」という論調もありましたが、この後お昼の会見で、詳細や対策について発表されるとのことです。当テレビでも中継する予定となっております》
「発表しおった……」
歯を磨きながらテレビをつけた私は、つぶやきながらも理解した。
これはきっと、自衛隊だけでは対処できなかったか、長期的に続く予想が立って、公表せざるをえなくなったのだ、ということを。
私は朝食を口に詰め込んで、すぐさまログインした。
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