第19話 今後の方針について話していたら

「昼間はダンジョンが閉じたままってことか?」


「そう。他の地域のダンジョンも、同じみたいよ。TVの報道でも、ダンジョンが出現したらしい報道はされてなかった。あと別の地方なんだけど、昨日戦闘に参加したプレイヤーに、うちの騎士団の人がいたんだけど……。彼女、昼前にもう一度ダンジョンの近くを見にいったの。だけど、周囲を囲んでいる警察も静かなものだって」


 ユリアスさんは女性ばかりの騎士団に所属している。その名も薔薇兎騎士団。

 彼女自身は副団長で、団長はユリアスさんの友人で、ウサギの獣人姿の騎士だ。


 ……ちなみにユリアスさんが札幌住まいということは、団長は市内の茨戸に住んでいるのかもしれない、なんて思ってしまう。

 自分の住まいの名称をもじったのかなーなんて想像してしまった。


 続けてユリアスさんは言った。


「今日は、自衛隊がダンジョンを見張って対処するって聞いたわ。その結果を見守るしかないけど……」


 言葉を濁す。その意味もわかる。


 私達プレイヤーは、魔法や魔法みたいな技が使える。だからリアルでの戦闘に戸惑いながらも、デモンバット達を難なく倒せた。

 でも自衛隊には、そんなことができない。

 誰か一人に攻撃を集中されたら、防弾チョッキや防御装甲でどれだけ耐えられるのだろう。


 何より、回復呪文も回復薬も持っていない。そこが一番怖いところだ。


「かといって、周辺は緊急隔離地域になってる。むやみに入れば、罪に問われる可能性もあるから……。僕たちがプレイヤーとして戦えることを主張しても、ダンジョン近くまで行ってアバターに変身してみせなければ、うそつき扱いされるだけだろうね」


 ライゼルさんは冷静にそう言った。


「リアルの仕事や生活にも支障が出るわ。警察ともめたせいで解雇されたり、学生なら退学を突き付けられる可能性もあるでしょうね」


 ユリアスさんのダメ押しに、四人で難しい顔をして黙り込むしかなかった。

 できるはずなのに、するわけにはいかないというモヤモヤのせいだろう。そもそもダンジョンがまた開くかも不明。


 あの青いラインが一めぐりしても、必ずダンジョンが開くとは限らないのだ。まだ誰も確認していないのだから。


 同時に、私は恐ろしさを思い出して尻込みしそうになっていた。


 一体誰が、ゲーム以外で巨大なコウモリやヘビに襲われたいと思うだろう。

 だからと言って、たとえ見知らぬ人であっても魔物に襲われて死んでほしくはない。度々理不尽な世界を呪う私でも、リアルに目の前で死なれたくはない。


 でも怖い。

 あの時はアドレナリン出過ぎて、感覚がマヒしてたんじゃないかと思う。


「今は、静観するしかないな。もう一度ダンジョンが出現して、昨日のことが何かの間違いじゃないなら……政府やゲーム会社を動かすため、ゲーム内の戦闘に参加する覚悟があるプレイヤーに呼びかけて要望書を出すとか、そういう方法もあるから。せめて回復薬や魔法の補助としてでもね」


 ごく常識的な判断だ、とライゼルさんの意見に思う。

 自分達が無理やり規制線を突破して犯罪者になることもない。


「そうね。それが最善の落としどころかもしれない」


 ユリアスさんの言葉に、ライゼルさんがうなずいた。


「でも……これ、きっとプレイヤーにも召集がかかるんじゃないでしょうか」


 私はぽつりと声に出してしまう。ユリアスさんが首をかしげた。


「一般人を巻き込むかしら?」


「懸賞金があれば、志がなくてもやる人はいるでしょう。不況なのもあって、ゴールドラッシュ的なとらえ方をする人も発生しそうだなって。リアル戦闘が大好きな人も多いはずですし」


「ああ、そういう奴もいたな。だからお葬式みたいな雰囲気じゃないんだろ。死んだ奴もいなかったから……」


 ガントが同意してくれる。


「それです。万全の体勢なら死なない方法があるわけで、声をかけやすいはずです。場合によっては、ダンジョン外で待機する治癒士を雇っておけば、怪我をしたままリアルに戻ることも回避できますし。だから、行政に支援を要請されたら、運営会社もうなずくんじゃないかと」


 そう。ダンジョンがある間に回復させてしまえばいいのだ。

 そのために治癒士を雇っておいて、他はダンジョン攻略を懸賞金で釣ってお願いしたらいいのだ。


「スリルを求めるタイプも多いでしょうし……VRで遊ぶのって、そういう人も多いじゃないですか」


 私の意見に、ライゼルさんやユリアスさんも苦笑いする。心当たりがあるんだろう。

 画面上のキャラが戦うのと違って、VRの場合は自分が体験するリアルさがある。だから意外と、怖くてVRはスポーツゲームぐらいしかしない人もけっこういるのだ。


「ネットにもつながることは確認してるし、動画配信とかしたがる奴もいるだろうな……」


「短期間でも雇用を作ることにもなるから、OK出やすいかも……」


 二人ともそんなことを言い出す。


「だとしたら……薬とか作っておくべきですかね。もしまた戦闘をすることになったら、沢山必要になるし。ゲームのものは腐らないから……」


 砂時計も沢山必要になる。大量生産で配布しておけば、戦える人が少ないダンジョンの場合は、魔物が出てくるのを防ぎ続けられる。


 たぶん私の予想通りに進んだら、買いたい人が大発生するだろう。

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