第15話 ダンジョンの変化

 目覚ましのおかげで、なんとか3時間半後には目を覚ますことができた。


「もう朝六時半……」


 また眠いけれど、様子だけは何としても見ておかなくては。

 起き上がり、テントをしまった所で私は明るくなった周囲を見回した。

 やっぱり知っている公園の様子よりもはるかに木が多い。広さも、なんだか違う気がした。


「おはよう黒ずきんさん」


「おはようございます」


「お、おはようございますライゼルさん」


 近くにライゼルさんやユリアスさん、山姥さんがいて、挨拶してくれる。

 ほとんどの人が起きて、ダンジョン前に待機している。一番遅かったのが私だったみたいだ。


「やっぱ明るいと眠れねえや」


「テントじゃ朝日を遮りきれないからな」


 他の人たちのそんな会話を聞いて、目覚ましが鳴らなかったらずっと眠ってただろう自分が恥ずかしくなる。

 せかせかと髪だけ直して、私は周囲の様子を見回した。


 ダンジョンはまだそこにある。

 朝日が昇ったせいで、様子がよく見えた。

 ゴツゴツとした岩のダンジョンは、どこか見覚えがある。


「どこだったかな……」


 首をかしげつつも、もう一つ疑問があった。


「もう、砂時計の時間切れが来る頃でした?」


 私はライゼルさんに尋ねた。

 まだ一時間はあるはずだけど、なぜみんな緊迫した表情なのか。


「いや、君が見つけたあの青いラインの話をしたんだ。で、もっと大物の魔物が出て来た時のために、待機を始めているところだよ」


 そうだ、あの青いライン!

 寝ぼけてすっかり忘れていた。


「青のラインは、今どんな状況なんですか?」


 これに答えてくれたのはユリアスさんだ。


「もうすぐ一周するわ」


「わわっ!」


 私も慌てて配置についた。決められていたわけじゃないけど、錬金士の配置などおおよそ決まってる。

 投げた物が、敵に当たるくらいの後方だ。


「あと何分ぐらいの予想ですか?」


「10分ですよ。そろそろ黒ずきんさんも起こそうかって話をしていたところだったんです」


 山姥さんが親切に教えてくれた。良かった。私セーフ!

 そうして10分。

 じりじりとしながら待った。

 一体何が起こるのか。出てくるとしたら、ダンジョンの5階に出て来る悪魔じゃないのか……なんて話をしていた時だった。


 ダンジョンに変化が訪れる。


「え、閉まってく……!?」


 キラキラと朝の光が集まるように、ダンジョンの入り口が真っ白な光に覆われていった。

 そのまま白い石に塞がれたようになる。


「嘘だろ?」


「もう戦闘しなくていいのか!?」


「ちょっと待て、確認する!」


 走って行ったのはガントだ。ダンジョンの側まで行って、その白い石を触ってみる。

 ガントが叩くと、コンコンといい音がした。


「ふさがってる……な」


「あ、ほらそこのマンホール石!」


 私は魔物出現の目安になる石を指さした。


「光がなくなってる。魔物が出た後も、出発点はいつも光ってたのに」


 ただの妙な模様がついた灰色の石にしか見えない。そして青いラインが、ぽつんと小さな点になっていた。たぶん、また最初から始まると言うことなのだろうけど。


「……とりあえず終わった?」


「推測からすると、この青いラインがまた一周する頃に、ダンジョンが開くとか?」


「だとしたら……おおよそ10時間後ぐらい?」


 昨日の8時ごろから6時までダンジョンが開いていたことを思えば、たぶん10時間後にまた変化が起こるのだろう。


「周りに警察とか来てるんだし、ずっと見張っているのも無理だわ。一時撤退しない?」


 そう言ったのはユリアスさんだ。ちょっとあくびをかみ殺している。

 見れば誰もがみんな、眠そうな顔をしていた。睡眠をとったけど、交代で四時間か三時間眠っただけなので、辛いものがある。


 それから私達は、赤と青の髪のプレイヤー二人組に警察が少なそうな場所を教えてもらって移動することになったんだけど。


「大丈夫? 黒ずきんさん、送って行こうか?」


 なにせこの状況。

 地下鉄も動いていないのは確認済みなので、脱出後のことに苦悩する人が多かった。


「俺新札まで歩きたくないんだけどおおおお」


 叫んでいる人がいる。

 私も同意だ、と心のなかでつぶやいていたのだけど、それを察したようにライゼルさんが誘いかけてくれたのだ。


「僕とガントは車があるところまで行けば、そのまま帰れるから」


 ありがたい申し出だけど、一つ問題がある。

 私は身バレしたくない!

 しかもライゼルさんもガントも、リアルであったことがあるか、すれ違っている人なのだ。


「無理すんなよ。どうせ社用車だから燃料代は会社持ちだ。気にしないで乗ればいい」


 的外れなことを言い出すガント。


「あ、大丈夫。会社の名前は書いてないから」


 よくわからないフォローをするライゼルさん。

 ていうか、どうしてそこまで私を乗せたがるんだ……。


「私のところに泊まって行ってもいいわよ? ここから遠くないから」


 そんな魅惑的なお誘いをしてくれたのは、ユリアスさんだ。

 ……心がぐらついた。

 でも正気に返らせたのは、ガントのつぶやきだ。


「どうせ死んだように寝るなら自宅の方がいいだろ。途中で眠ってもかついで家に放り込んでやるから安心しろ」


「さすがにそれは、黒ずきんさんに決めさせなよマキ」


 ん? マキ?

 なんか聞いたことがあるぞその単語。


「本名で呼ぶんじゃねぇよ。俺はガントだっての御陵(みささぎ)」


「あ……」


 珍しすぎる苗字。めったにないそれは、聞き覚えがありすぎる。しかもよくよく考えると、声にも聞き覚えがあった。

 ということは。


(ちょっ、出入りの会社の御陵悠人さん!?)


 どこぞの御曹司なのに、なぜかIT企業に入って、遠い札幌に転勤したという噂の人。いや、彼が噂になったのはそのせいじゃない。顔だ。

 きりっとしながらも微笑むと柔和になる、イケメン。


 こんな人はめったにいない、目の保養に見るだけ見ておけ、楽しいぞと女子社員の中で噂になったのだ。


 そして私が昨日、いじめの的になった原因!

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