第14話 睡眠は大事です
「そしてこれはそのままなのね……」
やっぱり青い線は伸びてる。
「おう、なんか問題でもあったのか?」
爽快な目覚めを迎えたらしいガントが、すっきりした顔で近寄って来た。
「小さな声でお願いします。あと、これ見てください」
「ああん?」
ガントは近寄って、私が指さしたマンホール石の横を見た。
「なんだこりゃ」
「これも時間が経つごとに、増えていっているんです。三時間前よりも長くなって、もう半周してます。たぶん何かの減少と関連してると思うんですけど……」
「なるほどな」
ガントは喉奥でうなるように言って、渋面になった。
「しかし魔物の出現とはあまり関連がわからないな。面の光だけで、十分に魔物の出現時間が左右されているのはわかっているわけだしな」
「だから、もっと強い魔物が出て来るのかと思って……。これ、どう他の人に話したらいいでしょう」
みんな疲労困憊の上、眠気とも戦わなくてはならない状態になっている。
ようやく休めたことで、少し元気になってはいるだろうけど、さらに戦闘が待っているかもしれないことや、砂時計じゃ止められないと話したら……びっくりしないだろうか。
「かといって、隠しておくわけにはいかないな。交代で休んだやつらが起きたら、全員に俺が話す」
「あ、ありがとう……」
さらりと引き受けると言われて、私は目を見開いてしまったけど、なんとかお礼を口にした。
「ん? 礼の必要なんてないだろ。俺だって必要だからな」
そう言ってガントは離れていく。
私はガントの背中を見送って、首をかしげた。
「めずらしい人だ」
普通、旗振り役になんてなりたくないものだ。ガントはこう、すんなりとそれを引き受けてしまえるところがすごい。
入れ替わりで、起きて来たユリアスさんがやって来る。
「あの青い線はどう?」
「まだ増えてます。砂時計はやっぱり関係ないみたいで……。ガントが後で、他の人達に話してくれるって言ってました」
「そう。それなら大丈夫ね」
ユリアスさんの言葉に首をかしげる。
ガントの説明がすんなり通ると思っているからだろうか?
「そういえば、他に情報がないかネットで探ったりしたんだけど……」
そこでユリアスさんがため息をついた。
「どうかしたんですか?」
「公園の外にね、野次馬が来ていて」
予想されていたことだ。むしろ遅かったぐらいで、公園の中に入り込んで面倒なことになったらどうしようとか考えてた。
たぶんこんなに遅くなったのは、今の状況が幻覚扱いされたことや、ゲーム人口が少なかったせいで話題が広まるのに時間がかかったこと。そして夜遅い時間だったからというのがあると思う。
「問題はそのせいで、駆けつけようとしたプレイヤーもみんな、警察に止められてるみたいなの」
「十把一絡げになったんですね」
多少は、そうなるのではないかという可能性は考えていた。
地下鉄もバスも止まっている中では、徒歩か車しか移動手段がない。警察が規制するにはとてもやりやすかったはずだ。
「別の地方だと、プレイヤーの通行だけ許可が出たみたい」
「え、そんなのありです!?」
うらやましい! と思えば、ユリアスさんも苦笑いした。
「霧の範囲が広くて、触れてアバターになった人だけ通したみたい。どういう話がどう通ったのかはわからないんだけど」
「でも、ここはますます私達でなんとかするしかないとは……」
これは失敗できないぞと思いつつ、私はあくびをかみころした。
さすがにもう限界だ。
「すみませんユリアスさん、これ、万が一のために預けていいでしょうか」
もう一つあった砂時計を、万が一のために先に休んでいたユリアスさんに預けた。
「これ私にも使えるのかしら?」
「大丈夫です。もし私が起きなかったら、二つ目の砂時計の効果が切れる前に、魔力を込めて設置してもらえれば大丈夫です」
万が一のことを考えておかないと、他の人にも多大な迷惑がかかってしまう。
ユリアスさんは快くうなずいてくれた。
「わかったわ。できるだけ私の方で交換しておくから、黒ずきんちゃんはもっと眠っていて」
「え、でも私に出来ることなんて、そうないので」
ユリアスさんは3時間ちょっとしか寝てない。なのに任せるだなんて、ちょっと鬼畜だと思うのでできない。
だけどユリアスさんは微笑んだ。
「回復役だってただでもらってるし、このまま極限まで戦闘を続けるしかないかと思ってたけど、黒ずきんちゃんのアイテムのおかげでしっかり眠れたから。あなたは十分活躍してる。そのお返しよ」
ね? と念を押されて、私はうなずかされてしまう 。
それから私は自分のテントを出し、さらに鞄の中から取り出した毛布にくるまって、転がって眠った。
スマホの目覚ましを3時間後にセットした上で。
ユリアスさんはああ言ってくれたけど、他の人が同じように思ってくれるとは限らない。それに朝日が昇ったら、警察なんかの動きも変わってくるんじゃないかと思う。
「なるべく……状況を……把握して……」
つぶやいているところで、スコーンと私は眠りに落ちてしまった。
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