第13話 砂時計の効果確認
「四時間に設定」
金色の砂がさらさらと逆流していく。
きっちりと全部。それで四時間になる。
「対象、半径二十メートル範囲」
最大値に設定。ダンジョンも難なく入る。あとは効果を発揮することを願いつつ、MPを渡す。
「始動!」
声とともに、ぐっと何かが体の中から引き抜かれるような感覚があった。
疲労感が急に増し、
でも本当に四時間稼げれば、その間に回復できる……ダンジョン周辺の環境がゲームと同じだと仮定するのなら、だ。
MPがぐっと減る感覚と同時に、砂時計が光り輝き始める。
まぶしさに目を閉じた数瞬間後、その光はふっと消え失せた。
ふわりと、ダンジョンやその周辺の地面、近くにいた私やライゼルさん達の表面で燐光が残り、それも消える。
「ゲームのエフェクトと同じ……」
効果が発揮されるかはわからないけど、発動はしたらしい。
それから私達は、三十分待った。
次のダンジョンから魔物が出てくる時。私達は戦闘ができる配置になり、唾を飲み込みながらダンジョンを凝視していた。
一番素早いからと、前に出てマンホール石を確認してくれているプレイヤーが、時間計る。
「時間だ」
それから一秒、二秒……十秒。
「何も起こらない……な?」
誰かがつぶやく。
「もう少し待とう」
緊張が滲むライゼルさんの声に、誰もが押し黙る。
油断して、突然襲われる恐怖はもうごめんだ、と思ったのだろう。
さらに三十分、緊張感をもってダンジョンを見つめ続けた。
でも一向にダンジョンから何かが出て来る気配はない。ようやく全員が方の力を抜いた。
「さっきまでは、正確に十五分だったわよね?」
「間違いないです。せいぜい誤差があっても、一分程度」
「じゃあ、発動したんだな!?」
とたんにガントが、怪我人のいる少し離れた場所へ行き、転がろうとした。
「俺は眠るからな! あとで起こしてくれライゼル……っと」
ふと思いついたように、ガントは自分のポケットを探る。
「お、これは管轄外なのか?」
ぽんとガントの手のひらから何かが飛び出し、すぐ側に小さな三角テントが現れた。
「あ、テント」
持っているだけで、フィールドを歩く時に一定時間ごとにHPとMPが回復するアイテムだ。これは回復薬とは違い、誰もが所持できているみたいだ。
ガントはさっそくテントに潜り込んだ。
「俺は三時間眠れればなんとかなる! ライゼル、三時間後に起こしてくれ!」
「いいよ。僕はその後にするさ。途中で起こされるのは嫌いなんだ」
ライゼルが苦笑しつつ、ガントのテントの前に座った。
他の休息をとる人達もテントを出したので、ダンジョンから少し離れた場所がキャンプ場のようになったのだった。
一方の私は、もう一つ気になったことがあって、マンホール石を見る。
「うーん」
「どうかしたの黒ずきんちゃん?」
ユリアスさんが寄ってきたので、私は指さした。
「この端っこにも青い線があるんですけど、ちょっとずつ増えていっているみたいで」
暗い中なので、光っていないから目立たないけれど、縁の断面に青い線があるのだ。
よく見れば、わずかに光っている。だから色が見分けられるのだ。
「何の線なんでしょう。今おおよそ三分の一ぐらいなんですけど」
じっと見つめたユリアスさんは、難しい顔のまま言った。
「この石にあるということは、たぶん時間を表しているのでしょうけど……。何の時間かというのが問題ね。また魔物が……それももっと強い魔物が出て来る時間を表しているのかもしれない」
「またですかぁ」
回復薬も乏しいのに、それは困る。
「万が一にも砂時計の効果がなかったら、私、マズイです」
「そうよねぇ。でも結局は、時間が絶ってみないとわからないわ。一度休んだ方がいいわよ」
ユリアスさんに勧められて、私もひと眠りすることにした。
それから三時間後。タイマーの音で起きて、周囲を見回す。
魔物は出現しなかった。
「黒ずきんさん、あの砂時計はもう一個ないんですか?」
私の側に来た山姥さんに、そう尋ねられた。
「あります。最初に設置した砂時計が4時間近く経過したところで、新しい方を設置しようかと。今待機してる方は一度眠った方がいいかもしれません」
「良かった。まだあるなら少し安心できますね」
考えているうちに、一個目を設置してから4時間目が迫っていた。
ガントが起き出し、まだ起きていた人達が念のためダンジョン前で身構える。
そんな中、少し早めに私は新しい砂時計を設置しなおした。
古い方を一度捨て、新しいものを設置する。
その間にじわっと光の範囲が増えたけれど、爪の先ほどのものだ。
設置後も確認し、五分経ってから私は配置についていたプレイヤー達に知らせた。
「無事に発動してます。光の線も動いていません」
全員が「はー」と息をついて、休みにかかる。
「あーよかった。これで少しでも眠れるよ。夜更かしはお肌に悪いったら」
あくびをしながら伸びをする赤髪の魔術士に、近くにいた知り合いの騎士が笑う。
「お前中身は女なのか?」
「いや? でも最近はさ、男でも化粧するって言うじゃん? そのせいなのか、寝不足のボロボロの状態で出勤すると、女ウケが悪いんだよね」
赤髪の魔術士は、絶賛婚活中なのかもしれない。
私はいつそれを諦めたっけな……。
転職を二回繰り返して、諸行無常を感じた時だったか。
そもそも派手に明るくっていうのが自分には向かない。ゲームですら、どうせなら理想通りの可愛い姿になろうと思ったけど、堂々と大手を振って歩くことすらできない。
また誰かに笑われたらどうしようとか、そんなことばかり考えてしまう。
そんな状態の私に、彼氏なんてできようはずもなかった。
ダメ元であっても挑戦しないのに、相手ができるはずもない。
「今の会社で相手を探すなんて不可能もいいところだし。転職するあてもスキルもないし」
ぼそっとつぶやいてしまう。
このままお一人様の生活を続けるにしても、もう少しお給料が必要だ。
もはや副業をするしかないかな。時間がないから、ゲームを卒業するしかなくなるのがつらいけど……。
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