第12話 ダンジョンの時間を止める?

「せめてやり過ごす方法ぐらいは、誰か見つけてたりしないかな」


 誰もが残り時間いっぱいを、情報を検索することに振り分けることにした。

 そんな中、私は一応、SNSに自分の気付いたことを書いておく。

 ソロばっかりやってる私の発言なんて誰も見ないかもしれないけれど。初めてリアルに戦うシェルバイパーは厄介だ。


 みんな回復薬で困っているみたいだし、節約する助けになるかもしれない。

 検索すれば、ちらりとは目に入るだろうから。


「その辺にある木を倒して、堤防みたいに使う方法っ……と」


 SNSに投稿した途端に、ピヨピヨとと音が鳴った。

 次々に拡散されていく。

 え、と思ったら、拡散主はライゼルさんやガント、ユリアスさん……ここにいる人達だった。山姥さんもいる。


 ついでに私のアカウントもフォローされていく。


「これ、黒ずきんちゃんのアカウントかどうか確信がなかったのよね。黒ずきんちゃんたら、ゲームのプロフィールにSNSアカウント書いてないから」


「あ……」


 そういえばそうだった。

 うっかり日常のことを呟いてしまって、そこから自分の正体を類推されるのが嫌だったので。


 だからほんの三人ぐらい、 ゲームで関わっていて、どんな口調で何を喋っているのかよく知っている人だけがフォローしてくれていたのだ。

 みんなに見つかっていたことが、なんだか気恥ずかしい。


「それにしてもよく思いついたね。アパターの姿はしていても、ダンジョンが実際に目の前にあってゲームみたいに感じるけど、木は実在しているんだものね」


 ライゼルさんの褒める言葉に恐縮してしまいそうになったけど、そこでふっと思いついた。


 実在している。

 元々生えていた木も、元からあった池も、ダンジョンも魔物も……。

 その使い方は、 特に制限されていないから、木を倒して魔物を阻害するような真似ができた。


 なら、今私が持っている錬金術の品はどうなんだろう。

 もし使えるなら、 このままエンドレスで戦闘を続けて、死ぬのかどうかを試すような極限状態に置かれてしまうのを、避けられるかもしれない。


「何か、魔物の出現遅らせる方法でもあればいいんだけどな」


 近くにいた魔法剣士がそんなことを呟いた。

 おかげで私の頭の中で、もやもやとしていたものが形になる。


「そうだ」


 私は自分の鞄の中にあるものを探った。

 手を突っ込むと、何が入っているのかリストが頭の中に思い浮かぶ。


 時間を止めるもの。

 魔物の動きでも構わない。最悪でもシェルバイパーを止めておけるのなら、次のコウモリの出現を止められるかもしれない。もしくは、怪我をせずに倒せる。

 そうでなくとも、魔物以外にも使えるかもしれない。


 考えて、私は金色の砂時計を取り出した。


「ちょっと試してみたいんですけれど」


 私が言うと、周囲の人たちがどれどれと寄ってくる。その他の人達は、情報収集を継続している。


「これで、あのダンジョンのタイマーみたいなのを伸ばせませんかね?」


「アイテム自体の時を止めるってことかい?」


 ライゼルさんの質問にうなずく。


「もしそれができれば、シェルバイパーもデモンバットも出てこなくなります」


「…………」


 一瞬みんなが黙り込む。

 この提案に戸惑ったのだと思う。何より、アイテムにアイテムを使うとなんて荒唐無稽だと思ったのかもしれない。


「……なんでも試してみたほうがいい。それでうまくいくなら、こんなにいいことはないんだから」


 最初に背中を押してくれたのはライゼルさんだった。

 ガントも頷く。


「そうだな。とにかくやれそうならやってくれ。何時間でもいい、とにかく眠れる隙がねぇとこんなん持つかよ」


「どうせ戦うのだから、これだけじゃなく合間に色々試していきましょう」


 ユリアスさんの言葉にかぶるように、他の人たちからも同意の言葉が返ってきた。


「そうだな」


「やれるだけやってみてもいいと思う」


「何が正解かわからないし」


「じゃあ、やってみます!」


 私は光るマンホール石の上に、砂時計を置いた。


「最大使用時間が四時間。それで設定します。多分あと15分ぐらいで魔物の出現時間です。そこから最初の三十分は警戒。上手くいけばそのまま出てこないと思います。なので30分が経過したら、その後交代で眠りましょう」


 とにかくみんな休みが必要だ。

 休めばヒットポイントも回復のするのだから、回復薬がない今、そういったことも積み重ねて行きたい。


「戦闘前に、交代要員を決めよう。怪我人で、治しきれない人がいたら後方で休んで。それを守る人間も配置。回復薬は保存できるだけ保存」


 ライゼルさんが、指示をしていく。


「はいはい、麻痺薬で痛みを消しておけば、HP回復するまで、多少間をもたせられるって情報が!」


 情報を収集していた人が手を挙げて発言する。


「後で麻痺毒を持つ生物が出ないとは限らないけど、もしこれ以上まずい状況になったらその方法も使おうぜ」


 ガントが自分の麻痺薬を取り出しておいていた。

 そしてみんなで、体勢を整えていく。

 私はその様子に温かい気持ちになっていた。

 自分の提案が受け入れられていく光景に、感動で涙が浮かびそうだ。


(でもきっと、ライゼルさんやユリアスさん達が、名のある高レベルプレイヤーで、さっきまで一番前線に立っていた人だからこそ、だと思うんだ)


 自信のない声で不安そうにしか発言できない私では、意見を聞いてくれる人など半減するのが目に見えている。

 そんな自分でもやれることはある。


 私は金の砂時計を置き、手を当てて念じる。

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