第11話 石と時間と
「いや、そんなことより戦闘のことを考えないと」
「そうだったな」
近くにいたガントが、私に同意した。
「おい光はどうなった?」
マンホールの石の近くにいた騎士に、ガントが尋ねる。
「今半分ぐらいだ」
それなら少し余裕があるんじゃないだろうか。安全みたいなので、私もちょっと見に行くことにした。
石は、ダンジョンの真ん前にあった。
と言っても入り口の前ではなく、少し横の方にあるので、私たちは魔物が住む恐れはないみたいだ。
「本当にマンホール……」
真ん中が少し凹んでいて、鉄のようにてらてらと光る黒い石だ。
不可思議な模様は唐草模様にも似ていて、それがぐるりと中心に向かって渦巻きを描いている。
光はその模様の端から中心に向かって広がっているようだった。
時間を表していると、誰でもすぐに思いつけるのは、親切だといえば親切だけど。
「これはゲームになかったような……」
「そうね」
一緒に見に来ていたユリアスさんも同意する。
「そもそもこれは何なんでしょうね。ゲームで使っている姿と技能を持っているけど、確かに生きている私自身が動いている……」
「VRとはちょっと感覚が違いますよね」
ゲーム世界で感じるのは、ある種の全能感だ。
決して死なないからこそ、思いっきり動ける。
想像以上のことができると知っているから、普段の自分ができる理由のない動作ができる。
レベルさえ上げれば強くなると分かっているので、戦闘を何度でも繰り返すことができる。
「今はゲームと違って、こう、重力を感じると言うか。自分の体を動かしている感覚があるから、ノーコンな自分じゃ当てられるわけがないって思いながら物を投げるし、飛び上がって避けようにも、そんなに高くジャンプできないって思うから、予想以上に飛び上がるとびっくりしちゃうんですよね」
「そうなのよね。ようやく少し慣れてきた気がするけれど、ゲームのように体が軽い感じがしないのよ。技を使うのは、ゲーム内でもモーションでやっていたからそれほど違和感はないんだけど」
考え込んだユリアスさんだったが、苦笑いする。
「考えてもわかるわけないわね。誰も答えを知らないんだから」
「少なくとも私たちの中には、この現象の理由を知っている人がいないですもんね」
悩むだけ無駄なのだけど、どうしても疑問が心から消えなかった。
そうこうしているうちに、再びシェルバイパーがで現れた。
今度はすでに倒木があるのと、戦力が増えたので、前回よりも危なげなく倒すことができた。むしろその後に出てくるデモンバットの方が面倒くさい。
無数にたかってくるので、一撃は重くないけれど、不意をつかれてあちこち怪我をするのだ。
もう一度魔物の出現が途切れたところで、誰もがため息をついた。
「合間に1時間休みがあるって言ったって、MPの回復量がせいぜい20。 すずめの涙だろこれ」
「使用量の方が多いですからね。あと何回もつか……というか、治療士さんはどうなんです?」
みんなが頼みの綱である治療士の山姥さんを振り向いた。
「あんまり……。たぶん2回ぐらい戦闘をしたら、回復できなくなると思います」
彼女の答えに誰もが落ち込む。
それを見た山姥さんが、俯いてしまった。?
「お友達の座敷童さんがいれば……」
涙ながらのその言葉に、周囲の人がちょっと苦笑いする。座敷童が治療士ってどういうこと?
すごいネーミングセンスだが、きっと本人は受けを狙ったに違いない。
しかしこの状況で笑うのはいかがなものか。?
だから耐えていたのに。
「山姥よりは、座敷童のほうが治療士っぽいかもな」
ライゼルさんのその言葉に噴き出しそうになる。手を口で塞いで私はしばらく苦しむことになった。
「なんにせよ他の方法を考えたいけど……」
「あ、結構情報が上がってきてるみたいだよ! 日本の数箇所でダンジョンが出てるみたいだけど、戦闘に参加してる人がようやくスマホが見れることを思い出したみたいだ」
弓術士がそう言い、みんな一斉に自分のスマホを取り出す。
「本当だ」
私はほとんどゲーム上の人とも交流がないけれど、検索すれば情報がいろいろ流れてくる。
――リアルダンジョン発生。
リアルでアバターになる方法。
救急車の数がすごい。
俺の会社が森に埋まった件について。
VR 以外での戦い方。
動画デモンバット。
そんなタグがSNS上を流れていく。
「ここ以外にも5箇所、ダンジョンが出来ているところがあるんだね」
「全部で6箇所ってこと? 外国ではダンジョンが出現していないみたい」
誰かの会話が聞こえてくる。
そうか、ダンジョンが出現したのちょっと考えた方がいいだろうなと思ったけどは札幌だけじゃないんだ。
「どこもここと同じように、定期的に魔物が湧いて出るから手こずってるみたいだ」
あちこちのダンジョンで戦っている人も、合間に SNS で発信しているらしい。
「どこも同じ……」
やっぱり出現リズムがあって、それは不変のものみたいだ。
そしてどこのダンジョンでも、回復薬に困っていた。
タグができていて『回復薬求む』『回復薬節約法』という文字が見える。
他に目に付いたものは、『ダンジョンとか夢でも見てるんじゃない?』とか『集団幻覚』だ。
中にいる人や、遭遇した人じゃないと、そう思ってもおかしくない。
「しかも特定のゲームだからなぁ」
共通点があるのは『ゲート・IA』だけだ。そのプレイヤーだけが VR のしすぎで頭がおかしくなったのだと思われたのかもしれない。
渋滞多発という単語もあった。
「野次馬だなこりゃ」
ガントの呆れたような声に、なるほどと思う。
ダンジョンが現れたなんて聞いたら、『ゲート・IA』のプレイヤーじゃなくたって興味を持つ。
見れるものなら見てみたい。
多分私だってそう思う。
戦っているとそれどころじゃないけど。
「渋滞のせいで、近づけないようにするために警察があまり集ってきていない……とか?」
私の推測に、ユリアスさんがうなずいてくれた。
「そうかもしれないわ。何にしよう打開策はあまり見つからないわね……」
「まだ誰もダンジョンを攻略していないみたいだ」
「てゆうかダンジョンを攻略したら、これって消えるの?」
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