第9話 倒したその後の問題
「いいよ」
ライゼルさんはすぐに頷いてくれた。
「木を倒す! アウェルさん、レステンシアさんはよけて!」
彼は木が倒れる方向にいる弓術士や魔法剣士に呼びかけて、一期に側の木に駆け寄る。
「はぁっ!」
水の魔法かけた剣を一閃。
一気に二本が倒れた。
「ライゼル何してる!?」
「次はそっちだ。ガントとユリアスさんは三歩後ろに!」
目を丸くするガントに指示して、ライゼルさんが再び木を切り倒した。
それでシェルバイパーの前に、小規模な木の堤防ができる。
シェルバイパーからは二十歩の間合い。
「騎士は倒木の前へ! 魔法剣士も入ってください。魔法剣士は適時その倒木を使って敵の攻撃を避けて、弓術士と魔術士は、倒木より後方に下がって攻撃をしてください!」
「なるほど壁を作ったのね、黒ずきんちゃん」
ユリアスさんが笑う。
壁は低くても構わない。
ほんのちょっとの違いがあるだけで、敵の攻撃が届きにくくなる。それだけで十分に、みんなはシェルバイパーの攻撃を避けられるだろう。
ゲームの時はこんな芸当できなかった。
そうではないからこそ困っているのだから、それを逆手にとれたら……と思ったのだ。
再び攻撃が始まる。
騎士達もカバーリングをする回数が減ったせいなのか、彼ら自身の攻撃も増えてきた。
魔法剣士たちは避ける手間が増えたものの、素早さがある職種なのでそれほどひどいタイムラグを生む結果にはならなかったようだ。
結果的にダメージが減り、山姥さんの魔法を何回か飛ばすだけで戦闘は継続。
「おらよっ!」
「沈めええぇぇぇっ!」
ガントの一撃の後、後方の弓術士の放った雨のように炎の矢が降りそそぐ攻撃で、シェルバイパーは倒れ、黒い煙になって消え失せた。
「やった!」
「良かった!」
「ナイスファイトぉ!」
みんな口々に喜び合い、私も釣られるように仲間に入って手を叩き合った。
実はこういう事ってゲームではしたことがない。なにせNPCとばかり冒険しているソロだから。
内心ではちょっと恥ずかしかったんだけど、何食わぬ顔をして手を叩いた。
のだけど。
「ちょっ、またなの!?」
叫び声が上がる。
真っ暗な闇が凝ったような洞窟の中から、デモンバットが次々と飛び出してきたからだ。
「とにかく倒せ!」
今度は木の堤防が邪魔になるので、騎士達も後方に下がって各々の戦闘が始まった。
「ええいっ!」
私は持っていた杖で大きなコウモリを叩き落とし、左手に持っていた火薬を投げつけた。
ゲームでしているように、少しの魔力を込めて投げつけるとデモンバットに当たった火薬が爆発して、デモンバットが四散する。
正直言うとこの戦闘の方がちょっと厄介だった。
敵の数が多すぎて連携がうまく取れない。乱戦状態の中では、庇いあうのも難しいし、回復薬を渡すこともなかなかできない。
けれどそれに気づいてくれたユリアスさんが、私に攻撃してきたデモンバットを倒してくれる。
「黒ずきんちゃん、悪いんだけど回復薬を一本くれるかしら?」
「もちろんです!」
私をカバーしながら戦ってくれるユリアスさんに、回復薬を渡す。
「あと何本ある?」
「10本です」
「きついわね……」
ユリアスさんが険しい表情になった。
私はそれを、この戦闘が終わった後、わずかな量しか回復薬が残らないことを、彼女が危惧しているのだと思ったのだけど。
一通り戦闘が終わった後で、一息つくプレイヤー等にユリアスさんが言った。
「多分、私シェルバイパーみたいな魔物が出てくると思う。ある程度休んだら、次の戦闘に備えた方が良いのではないかしら」
「なぜ?」
さすがに疲れて座り込んでいたライゼルさんがユリアスさんを見上げる。
「あのシェルバイパーを倒せば、ダンジョンの中に入れるのではないかと思ったの。だけど次々にデモンバットが出てきた。そして疲れ果てて休むしかなくなった……。これ、ダンジョンの入り口に来る前の私たちの状態と同じよね? デモンバットが繰り返し出てくるのなら、シェルバイパーも同じタイミングで出てくるのではないかと思ったの」
「あれはたまたまだろう? 休んだらダンジョンに入れるかもしれないだろう? 薔薇の騎士さんよ」
聞いていた魔法剣士がそう言った。
「たまたまかもしれない。でも、一度繰り返したのならその可能性はあるはず」
ユリアスさんは譲らなかった。
「何か確信があるのかよ?」
ガントの問いに、ユリアスさんは首を横に振る。
「いいえ。でもすごく気になるの。あと、万が一にも失敗をしないようにしたいから、出来る限りすべての可能性を考慮しておいたほうがいいと思って」
「不意打ちをされないためか」
うなずける意見ではある。
なにせ怪我をした場合のリスクがわからないのだから。全てに備えておきたいと思うのは、当然のことだった。
ユリアスさんの意見を聞いたプレイヤーたちは、表情を引き締める。
「……今のうちに調べられないかな」
ぽつりと呟いたのは、魔法剣士の獣人プレイヤーだ。
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