第7話 今後の方針、決定しよう

 アバターのままで死んだ場合、蘇生薬が使えないと……リアルの姿に戻って死んでしまう?


(それは避けたい)


 それにさっきから気になっているんだけど、なんだかライゼルさん&ガントの声、やっぱり聞いたことがあるんだよね。

 てことはリアルの知り合いの可能性が高い。

 そんな人に、ゲームでやたら可愛い服着てるキャラ使ってるなんて、知られたくないんですけど!


「復活のアイテムは?」


「……聖霊の手を持っていたはずなのに、今は所持してないわ」


 苦い表情でそういったのはユリアスさんだ。聖霊の手は、上級の蘇生薬。HPを1000まで回復してくれる 。


「あ、でも聖霊の涙はあります」


 私も鞄をガサゴソやったら、それを手に掴むことができた。

 使うと、HP0になって死んだプレイヤーを蘇生させ、HPを10まで回復させるアイテム、聖女の涙。


 ちょっとほっとした。

 死亡せずに、復活できる可能性が高くなったから。使えないなら蘇生薬なんてアイテムとして存在しない気がするもの。


「ある程度はゲーム準拠だとしても、都合のいいものは排除されてるのかな。痛みに関してもそうだし」


 ライゼルさんは真剣に考えている様子だ。


「でも10ポイント程度回復したところで、逃げるのがやっとでは? しかもそのままで本当に大丈夫なのかどうか」


 ライゼルさんの言葉に、ガントが笑う。


「確かめたいか? HP10のまま、アバターの解除される場所まで逃げてどうなるかを。上手くいけばすぐに発見されて救急車を呼ばれる。倒れても誰も通りがからなかったら、病院にも行けずにそのままヤバいことになるだろうな」


 ガントの言葉に、近くで聞いていた誰もが苦い表情になった。

 痛みが薄いこと、リアルみたいに動けるゲームで戦闘に慣れていたことで、今いち現実感が薄いけれど、みんな死ぬことに関しては不安を感じているのだ。


「それなら、回復薬が尽きたら俺たち、身元がバレるのも覚悟して逃げるしかないのか?」


「どこまで逃げたら解除されるのかもわからないのに……」


 不安げに話し合う人達の言葉に、ライゼルさんが言う。


「いや。まず回復薬が尽きかけたプレイヤーから、脱出させよう。その時にある程度余裕がある人間が、一人は付き添う。付添人は逃げるプレイヤーを護衛しつつ、どこでアバターが解除されるのかを確認して戻ってくる。それでどうかな?」


「戦力が減りすぎないかしら?」


 人数が減ることに不安を覚えるユリアスさんの言葉に、ライゼルさんはきっぱりと言う。


「死の不安がある状態では、100%の力で戦えない。ほとんど戦力にならないと思う」


「う……」


 言いたいことはわかる。死ぬかもしれないという状況で、ゲームの時みたいに戦えるわけがない。怖くて萎縮してしまうに決まってる。


「それぐらいなら一度脱出して、家が近場にある人間は、ゲームにログインした後で道具の減りを確認してもらいたい。ここで使った分が減っていれば、補充して戻ってくることができる。あと、HPの確認。今確認できるのと同じ数字が減っていたら、ゲームの中で回復したら、ここでも反映されるはず」


「それなら、一度離脱してから戻れるか……?」


「近くにいる人に呼びかけて、戦力も増やせるかも?」


 剣士の女の子が、手を叩いて思いついたことを口にした。


「それが可能ならいいんだけど」


 そしてライゼルさんはスマホをつついて、画面を表示する。


「一応ネットにも繋がるけど、ニュースになっているみたいなんだ」


「え、ニュース!?」


 私は慌てて自分のスマホをポケットから出す。表示してみれば確かにニュースが出ていた。


「地殻変動!?」


「局所的地震?」


 ニュースサイトにはそんな文字が躍っていた。ざっと目を通してみると、この札幌以外の場所でも複数箇所で、地震のような振動を感じたみたいだ。

 私は霧で寒かったとか、そんな程度にしか感じなかったんだけど。


「変な生き物を目撃したって情報が、SNSに流れてるな」


 ガントがうなるように言う。


「じゃあ、魔物の姿を見た人はそんなにたくさんいない?」


「みたいだが、一応画像を撮ったやつがいたみたいで、動きが素早くてボケてるが、普通の動物じゃないってことで拡散されてるみたいだ」


「プレイヤーじゃない人がたまたま公園にいて、遭遇して逃げたのかな」


 誰かがつぶやいた。

 そこで私はふと思う。


「プレイヤー以外の人って、今は公園にいないの?」


「見かけなかったわね。不思議と」


 ユリアスさんがそう答えてくれた。私も見かけなかったので、たぶんいないんだとは思う。みんな逃げてくれていることを祈ろう。


「どっちにしろそういった通報があって、警察が周囲に来ているみたいなんだ」


 ライゼルさんの言葉に、自分のスマホに目を通していた人たちが一斉に悲鳴を上げた。


「げ、本当だ!」


「これじゃ戻ってきた時に、ダンジョンの近くに行けなくない?」


「入るの難しいかも」


「出る時だって大変じゃない!」


 慌てる人達の中、ユリアスさんは冷静に分析しようとしていた。


「まだ事件が起こった直後だから、包囲網は完璧ではないと思うんだけど……」


 ガントが腕を組む。


「それでも時間が経てばたつほど、逃げにくくなるかもしれない。逆に状況がわからなくて、あまり人員を裂かない可能性もあるが……。脱出する人間は戻らないものと考えるべきだな。あと脱出時のために、一応警察の監視が緩い場所も探してもらわないといけねぇから、付き添いも必要だろ」


「じゃあ、回復薬を持っていない人、手を上げて」


 ユリアスさんの呼びかけに、その場にいた5人ほどが手を挙げた。

 そのうちの一人が怪我をしたままだったので、時間がたつとMPが回復する獣人の治療士、山姥さんが魔法をかけた。


「ついていく人はどうする?」


「体力のあるやつの方が良くないか? あとあまりレベルが低くない方がいい。それでも単独行動は危険だから、最低二人な。レベルは30以上?」


 このゲームは30レベルでも相当に強くなれる。レベルで強化されるもののほかに、自分でスキルの訓練をしていくと、筋力やすばやさ、魔力を増やせるからだ。ゲームの上限が60レベルなので、40もあればかなりの上位ダンジョンにも挑める力がある。


 本当ならデモンバット相手にそんなレベルは必要ないのだけど、リアルでの戦闘はゲームとは感覚が違う。

 VRで三次元戦闘には慣れていたけれど、デモンバットの変則的な動きも早い。自分がそれを視界に収める動作がリアルでは慣れていないせいで、対応が遅くなるのだ。

 これぐらいの備えがあってもいいと思う。


 ちなみに私は40レベル。

 材料が欲しくてダンジョンに潜るぐらいの、しかもソロなので、レベルカンストを目指すようなゲームの仕方をしていないからだ。


「それなら俺と、こいつの二人で行くよ」


 立候補したのは、騎士と魔術士の二人組だ。

 それぞれ赤と青の髪を、一筋だけ白くしている。お揃いにしているのだから、友達同士なのだろう。


「引き受けてくれるならありがたい。頼む」


 ライゼルさんがそう言うと、2人は恐縮したように手を振り、脱出組が「私たちのせいでごめんね」と頭を下げ、ライゼルさんが「脱出後に情報を集めてくれることも大事だから。むしろそれを頼むよ」と頭を下げ、全員でペコペコとし合うことになってしまった。


「ああ、日本人だなぁー」


 とりあえず謝っておいて、人間関係を円滑に保つのは、日本人らしい行動だ。

 ゲーム内でも見ていることなので、アバター姿でそれをしている所を見て、なんとなくゲームの延長線上にいるような気分になってきた。


 とりあえず全員が、お互いのSNSに登録し合う。

 グループチャットも作っておいて、いざ行動だ。

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