第4話 まずは集合しよう

 鉛色の全身鎧だけど、ヨーロッパ中世時代の教科書に載ってるような完全に覆うタイプの鎧ではない。

 ゲームでよく見る騎士の鎧だ。


 背丈はライゼルさんよりも高い。肩幅も広くて、アバターの状態の私を軽々と肩に乗せられそうだ。ライオンの鬣みたいな赤い髪。

 この人の事も私は知っている。


「げ、血みどろガント……」


 あだ名の由来は、視覚効果のバグだった。

 もっと悪かったのは、プレイヤー同士の闘技場での戦闘だったことだ。

 プレイヤー同士だと、流血の視覚効果がある。ただしすぐに消えるものだ。


 けれどバグが出るぐらいに、この男は一番血が飛び散りやすいハンマーで相手を滅多打ちにしたわけで。

 見物客も蒼白になり、このプレイヤーは変な方向に伝説を作ってしまったのだ。


「お前、今血みどろっつったか?」


「ぃぃぃ、ぃぇ、言ってません」


 ぷるぷると首を横に振って言い訳する。小声だったから、ハッキリ聞こえなかったはずだ。

 そういえばこの人は、青のライゼルさんの仲間だった。

 って言うか二人とも札幌の人だったのね……。絶対東京とか、そういうところに住んでると思っていた。


 そしてこの人の声も、ネットの動画やゲーム内で見ていた時と違うような?

 首をかしげている間にも、二人は話を始めた。


「ライゼル、あっちだ。池の横にダンジョンの入り口がある」


「あそこに?」


「ダンジョン!?」


 聞き捨てならない言葉に思わず復唱してしまったら、またガントに睨まれた。怖い。


「とにかくそこから、デモンバットが出ているみたいだ。だが、今はどうやら魔物が出て来なくなったみたいなんだよな」


「それなら今のうちに、目印に明かりを灯して、周囲にいるプレイヤーを集めた方がいいかもしれない。とはいっても、魔法剣の灯りで大丈夫かな?」


「その辺にいる魔術師に頼んでみるか?」


 二人は周囲の人を一か所に集めるつもりのようだ。


「あの」


 私はそんな二人に話しかけた。


「人の目を集めるだけなら、花火を持ってますけどどうします? ぼーって光の柱を作るやつです。それを使った上で叫んだら、近くにいる人には届くと思うんです」


 ライゼルさんはすぐにうなずいてくれた。


「助かるよ。提案してくれてありがとう黒ずきんさん」


「いいえ、何が何だかわかりませんし、ここにいるらしいプレイヤーがみんな集まったら、もうちょっと状況がよく分かるんじゃないかって気がするので」


 そう、欲しいのは情報だ。

 結局これは何なのか?

 様変わりした公園は、どうなってしまうのか?

 いろんな人の口からたくさんの角度から見た情報が欲しかった。

 それに怪我をした人を逃がすためにも、人手が必要だし。

 私は鞄から、三角錐に赤い色紙を貼ったようなものを取り出して、ガントに渡す。


「これは火をつけるのか?」


「てっぺんを地面にこすりつけて、その場に立てたらすぐに十メートルほど離れてください。普通の花火と同じように、数秒で火花が散り始めます」


「あいよ」


 短く答えたガントは、早速花火を点火する。

 シュッと空を斬るような音に続いて、すぐにキラキラとした黄色の火花が高く吹き出し、光の柱を作る。


「普通の花火……いや、ちょっとこれは」


 眺めていたライゼルさんの頬がひきつった。

 最初は綺麗だった。

 光の滝ができたみたいだったのに、どんどんその高さが上がっていく。


「おい、もう消せよ黒ずきん!」


「わわわわ」


 私も慌てて消そうと努力する。

 急いで氷の魔法がこもった瓶を取り出した。

 なんでリアルで使うとこんなにひどいことになるの!?


「消さなきゃ消さなきゃ!」


 瓶を投げつける。

 火元の花火さえ凍らせればいいかと思ったけど……。


「ぎゃああ!」


「ひっ!」


 隣にいたライゼルさんでさえ悲鳴を飲み込んだ。

 火柱が一気に凍り付いたからだ。


「なんでこんなことに……」


 どうしてリアルで使うと、過剰になるんだろう。


「まぁいい。目印にはなるだろ」


 ガントはとりあえずやるべきことを優先することにしたようだ。


「誰か! 近くに人がいたらみんな集まれ! 怪我人もいたらそいつもだ。動けないやつを見かけたら、運べるやつは運べ! そうでないなら拾いに行く」


 思わず飛び跳ねそうな大音声だった。

 実はちょっと、「ひいぃっ!」と小さく言ってしまったけれど、誰にも聞こえなかったと思う。ガントの声が大きすぎて。


 でもそのおかげか、目印にいい物体が存在するからか、パラパラと人が集まり始めた。

 全部で二十人ちょっとくらいか。


「人がいる……」


 たった一人で巻き込まれたらしい人は、そうつぶやいて地面にへたり込んだ。


「これ、なんかの催し物か?」


「こんな怪我する催し物があってたまるかよ」


「だってろくに痛くないだろ」


「もう疲れた、帰りたい」


「誰か回復薬余ってませんかー?」


 最初の一人以外は、ゲームの催し物だと思っている人が多いようだ。意外と悲壮感はない。


(まあ、ゲームだと思ってないとやってられないわよね)

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