第3話 とにかく戦闘続行です
「繋がった?」
話をしつつ、私もいつのまにか持っていた、斜めがけの茶色のカバンの中から、小さな赤いガラスの瓶を二つ取り出す。
現実だと思わなければ、やるべきことが見えてくる。
まずは、モンスターを倒さなければ、安全を確保できない。
「そうとしか思えない。周囲の風景は、元の公園に似てるよ」
「あ……」
そういえば、さっき座ろうと思っていたベンチもあるし、近くの街灯も、白い光を地面に投げかけている。
ただ急に木が増えた。
うっそうと木が茂る、森の中にいるみたいだ。
「中島公園が……森になっちゃった。でもなんで……」
「分からない。僕もたまさか近くを歩いていただけで……っと!」
滑空してきたデモンバットを、剣で切り裂く。
二つに別れたコウモリの姿は、地面に落ちる前に白い光に変わって空気に溶けていった。そしてころんと、地面に白い宝石が落ちる。
「とにかく倒すしかない」
「そうですね」
現実かゲームなのかよくわからないけれど、そうするしかない。
うかつに逃げると、あっという間に追いつかれて攻撃されてしまう。アバターのように痛みを感じなければいいけど、体の感覚がリアルだったら……考えたくもない。
焦りを感じる私だったけど、近くから焦りとは別方向にベクトルが向いた会話が聞こえた。
「へっへっへ……リアルで売れば大儲け……」
振り向けば、少し離れた場所に、何匹分かの白い宝石を手の平に載せ、笑っている長い黒髪の魔法使いがいた。
「マイドさん! 正気に戻って!」
その肩をゆすっているのは、茶のボブにした髪の女の子剣士だ。
「へいまいどっ! リリー君、買ってくれるって? 身内価格で、相場の9割でもいいぜ。へっへっへ」
「何言ってるんですか! お兄ちゃんにばらしますよ!」
商売をしようとした魔法使いマイドさんは、リリーさんに叱られる。
「おふっ、まて、リリー話し合おう。お前の兄貴はスピーカーなんだよ……」
その会話に、私はなんだか肩の力が抜ける気がした。
そうだ。とにかく戦う方法はあるし、勝てるんだ。
恐怖で縮こまると動けなくなって、ろくに戦えないんだってことは、ゲームを始めた時にも経験してたのに。
「でもモンスターが出現する大元って、どこなんでしょう?」
「大元?」
「リアル世界のまま、どこかからモンスターが出てきたのだとしたら、出現ポイントがあるのではないでしょうか? もしくは一定の範囲にポップアップしているか」
「そうだね」
うなずいてくれたことで、私は胸がすっとする。自分の言葉が相手に届いた感覚が、 とても心地良い。
その時だった。
「やだ、血が!」
少し離れた場所で、戦っていたプレイヤーが叫んだ。声からすると、二人とも女の子らしい。
「えええ、どうしようどうしよう」
剣士の姿のプレイヤーが、おろおろとしている。
その側では、膝をついた魔術士のローブを着たピンク髪の子が腕を押さえていた。
怪我をしたらしい。様子からすると、痛みを強く感じたりはしていないみたいだけど。
「薬! 回復薬使って!」
「ありがと」
はっと薬のこと思い出した剣士の子から、魔術士はガラスの瓶を一本受け取る。
中身をキズにふりかけると、回復したようだ。
「ああよかった……え!」
そこへ再びコウモリが複数襲ってくる。
急いでライゼルさんが助けに入り、私も手に持った瓶を投げつけた。
でも投げてから気づく。
「あ、私ってリアルじゃノーコンだった!」
バスケをやってもゴールにボールが入ったことがない、そのレベルのノーコンなのに、投げてしまった。
ゲームみたいに当たらなかったら二次被害が!
悲鳴を上げかけたけど、うまいこと木に一度止まったデモンバッドに当たった。
「よし」
やった! と思ったのもつかの間、私の投げた瓶が割れたとたんに、コウモリが火球に包まれた。
その火球は一気に大きくなる。
「ひぎゃああ!」
近くにいた人が、恐怖で飛びのいた。
「なんでぇええええ!?」
叫ぶ私の声が響く中、火球はどんどん膨れ上がって人を三人飲み込みそうな大きさになった後、ふっと消えた。
ゴゴッと音がして、幹の半ばが焼け落ちた木の上がその場に倒れた。
地響きの中、その場にいた全員が呆然としている。
「あの、なんかごめん……」
とりあえず謝った私に、剣士と魔術士はひきつった表情ながらも「いいよいいよ」と言ってくれた。
ほっとした私は、ふと木の側に宝石が落ちているのを見つける。たぶん私が倒したコウモリの分だろう。
拾ってみた。
白い宝石は、楕円形をしていた。
「ゲームと同じ……」
魔物を倒すと出てくる宝石そのままだ。一個あたり100アルジェ。宿に一泊できる金額だ。一応鞄に放り込んでおいた。
一方、ライゼルさんが助けに入ったあの二人組は、また怪我をしてしまったみたいだ。
「もう薬がなかった!」
「アイテムボックスは?」
「どうやって呼び出せばいいかわからないよ! 服のポケットに入るだけしかないみたい」
「…………」
薬がないと聞いて、次に怪我をした剣士が、膝下を押さえたままがっくりとうなだれた。
「それ聞いて、さっきよりも痛くなった気がしてきた」
「しっかり!」
魔術士が励ます。
「本当だ。アイテムボックスが使えない。というか呼び出し方がわからないな」
ライゼルさんが同じことを言う。
「鞄の中に手を突っ込んでも駄目ですか?」
「鞄がないんだ。ていうか、このアバターの姿って鞄を持ってない格好だから」
「だからかな……」
私は鞄を持っている状態だったから、中に手を突っ込めば欲しいものが見えるのかもしれない。
考えてみれば、アイテムボックスに収納されてる大量のアイテムが、この小さなカバンに全部入るわけもなかった。なのに、自然と探せる。
「とにかくこれ使って」
大きな怪我ではないから、小回復の回復薬を剣士に渡した。
「ありがとう!」
剣士は早速怪我を治す。
「薬がないなら急いでここから逃げたほうがいいかもしれない。どこからモンスターが出てくるのかも分からないし、すぐに解決できる気がしない」
「でもどこに逃げたら……」
戸惑う魔術士に、ライゼルさんも答えあぐねていた。
――と。
「おいここにいたか!」
ガチャガチャと鎧のこすれ合う音を立てながら、森の奥から人が走ってきた。
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