第67話 決着
「ははっ うまくいったぞ。ざまあ見ろ……」
爆発を見とどけた後、三成は輿の上で倒れ込んだ。体内にある殆ど全ての霊力を一気に使った。多分2〜3日は、立ち上がることもままならないだろう。
十二天将を倒す方法。自分が扱える軍配術の中では行爆陣しかない。これは会津で勾陣と戦って確信したことだ。ただし勾陣のときは、事前に周到な準備をしていたにも関わらず、完璧に息の根を止めるには至らなかった。
やるならばもっと五行の循環を濃密にして、出力を上げねばならない。そんな状況をいかにして戦場に作り出すか、そこが鍵だった。
太陰が3隊のうち左近を狙ったのは、三成の目論見通りだ。【木】の神である左近は、【金】の太陰が最も制しやすい間であること。そして、見知らぬゴーレムや清姫とは違い、互いの実力もよく理解している600年前からの付き合いであること。そこからまず狙うのは左近だと読んだ。
だから三成は、水虎が集結する3地点のうち真ん中を左近に任せた。これによって【火】を持つ清姫と【土】のゴーレムが、左右に位置することなる。
あとは、太陰が左近に襲いかかってきた後、【水】と【木】を配し、太陰の足元に【金】をおけば陣は完成する。ゴーレムの放つ強弓の先に、それぞれの属性を持つ霊力を付与し、また左近の持っていた太刀をも利用することで、それらを実現した。
即席だが、我ながらうまくいったと思う。規模は会津でやったものよりも小さいが、清姫やゴーレム隊、それに左近の力を利用したことで発動時の霊気の圧力は、会津よりもはるかに高いものとなった。
* * *
「く……そ……」
太陰はのっそりと起き上がる。目の前に発生した霊気の爆発をもろに喰らい、身体中が悲鳴をあげている。殺してやる……あの軍配師……必ず殺してやる……
(そこまでだ太陰。今は退け)
頭の中に自分のものでない声が流れ込んできた。
「な!何言ってるのシメオン! わたしはまだまだ……」
(私と視野を共有し、私の戦術を使っても勝てないのだ。今のお前に三成や左近は倒せん。退け)
「馬鹿言わないでよ! この先には天后様がいる。奴らを彼女に会わすわけに……」
殺気。太陰は身を捻らせてそれをやり過ごそうとしたが、行爆陣を真っ向から受けた身体は言うことを聞かない。
「ひっ! 青龍……!?」
「よくもやってくれたのう? このクソガキが……!」
太刀を失い徒手空拳となった青龍は、獣の様な俊敏さで太陰を組み伏せた。いつのまに……? タツクチナワはどうした? いや、対青龍に特化させた特別育成の物の怪とはいえ、もともとは低級な妖怪だ。あの行爆陣に耐えられたとは思えない。
「喰らってやる!」
青龍もあの爆発を受けている。身体中に傷を作り、ボロボロになった髪と狩衣を振り乱している様は、この女も無事ではないことを物語っていた。とはいえ、太陰に比べれば軽傷だ。組み伏せる力も太陰のものに比べればはるかに強い。
「ぐふっ……?」
青龍はその爪を太陰の胸に突き立て、そのまま体重をかけてきた。指が食い込み、心臓を鷲掴みにされる。その指から、全身に霊力を吸われていくのを感じた。喰われている……青龍にわたしの力を喰われている……
(だから退けと申した)
頭の中で主人の声が聞こえる。と思ったら、ブツンという音と共に全身の感覚が消えた。
* * *
「逃がすかあ!!」
左近は叫ぶ。死にかけていた騰蛇が突如動き、太陰の首を噛みちぎった。かと思うと南蛮の怪物は猛然と走り去る。翼に傷を負ったのか、飛翔はしない。そのまま森の奥へと消えていった。
一瞬の出来事。満身創痍の左近には為す術もなかった。騰蛇を逃した。いや、太陰にもだ! 首に意識が残っていれば、それも潰さなければ神を殺したことにはならない。勾陣がそうだった。
「くそお!!」
左近は仰向けに倒れ込んだ。殺しきれなかった。それはつまり、奴に復讐の機会を与えたと言うことだ。伊達政宗の飼い犬となっている勾陣とは違い、奴は貴人復活という目的を持って動いている。遠からず再戦することになるだろう。
「くくくっ、まあいいか」
すぐにそう思い直した。太陰の霊力のほとんどを喰らってやったことに変わりはない。これでわらわはまた強くなったし、奴はその分弱体化した。来るなら来てみろ。今度は確実に仕留めてやる。
また雨が降り始める。左近は仰向けのまま目を瞑り、それを浴びた。天から降る【水】の作用によって、今喰らったばかりの霊力が、【木】の力として根付いていくのを感じた。
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