第63話 軍配師の兵法

「三左衛門と申したな? この島の地勢はわかっているか?」


 三成は輿に担がれている若者に尋ねた。


「はい、そのために潜伏しておりましたので」

「よし。できるだけ詳細に島の全容を申せ。ただし手短に、だ」

「はっ。では島全体の形からから……」


 三左衛門はゴーレムを使い、雨で柔らかくなった地面の上に島の絵図面を描き始めた。島は山が多く、海岸線は複雑な形状をしている。この形の島は肥後国のこの地方には珍しくない。山はそれほど高くはないが深い森と藪に包まれている。

 その森や藪の中を水虎たちがうろついているわけだが……三成は頭の中で算盤を弾く。ここにくるまでの距離と、やり過ごしてきた水虎の数。さらに地形から島全体にいる水虎の数を割り出す。


 三成は奉行として、接収した寺社領や、服属した諸大名の検地を指導してきた。検地とは大まかに言ってしまえば、地図から計算で収穫高を割り出す行為だ。三成の場合、そこに軍配の技術も応用し、より精緻な数字を割り出すことが出来た。デキる軍師は、計算する。

 その要領で、水虎の数も導き出せるはずだ。


「1100……いや1200弱と言ったところだな」

「そんなに!? 私が考えていたより2倍近い数字です」

「島のどこかに大きな水の流れがないか?」

「あ! あります。社の裏山に滝と泉が」

「そこが力の源泉だろう。霊力の強い水質ならば、そのくらいの数の水虎を養うのも可能だ」

「天后は【水】を拠り所としてある。その泉が奴の神域だとすれば……」


 左近が言った。恐らくはそうであろう。となればその泉を制すれば、この戦いは終わりだ。


「この先に敵がまとまっていると言ったな?」

「あくまで可能性、ですが。それだけの広さがあります」

「ならそこは避ける。全軍散開して下山せよ。沢まで降りたところで迂回して泉に向かう」


 泥の上に描かれた島の絵図を指しながら、行軍路を説明する。


らないのか!?」

らないんですの!?」


 秀久と清姫は声をそろえる。引くくらい息があってるなこいつら……。頭の中は暴れる事でいっぱいか。


らないとは言っておらん。だがこんな手前で釘付けにされるのは御免だ。会敵するのはこちらが狙う時と場所で、だ」

「それはいつのどこだと?」

「地形を見るに、この沢は天后の泉より流れている。この流れそのものが【水】の気の地脈となっているだろう」


 三成は沢として引かれた一本の線の上に3箇所、丸を描く。


「ならば、水虎どもが集結するのもこの沢の上となる。特にこの3箇所は道との交差や、他の沢との合流がある。百や二百程度の部隊を編成できるような平地になっているはずだ」


 さらに言えば、敵の先遣隊が待ち受けていると思われる地点へ、道一本で急行出来る場所でもある。この3箇所で隊を編成して後詰めに向かうことは容易に想像できた。


「先にこの3地点の上流を押さえろ! そこでこの土人形を使って【水】の気を断つ。霊力の供給が無ければ、水虎の寄せ集めなどものの数には入らん。そうだろう清姫?」

「おっしゃる通り。全て私の炎で蒸発させてやりましょう」


 清姫は上唇に舌を這わせながら、妖艶な笑みを浮かべた。清姫と秀久に1箇所を、左近に1箇所を、そしてゴーレム部隊に残りの1箇所を。3地点同時攻撃でカタがつくはずだ。


「さあ行動開始だ!この島は複雑な地形で軍の集結には時間を要す。とはいえ一刻もすれば敵の再編は完了するだろう。その前に沢を断ち切るぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る