第62話 ゴーレム隊進軍

「突撃じゃあ!!」


 土くれから生まれた100の軍勢は密集体系のまま森の中を突き進む。

 ゴーレムには疲労も痛覚もない。人間の足軽とは違い、平然と藪の中を走り抜ける事ができる。地響きを上げ、草木を薙ぎ倒しながら一直線に、天后のいる社に向かう。

 途中、何度も水虎に遭遇した。が、皆3〜4体程度の集団でしかない。100体が一丸となって進軍するゴーレムを前に成す術もなかった。


「はっはー! どけどけい!!」


 左近は軍勢の先頭で太刀を振るう。やはり戦は先駆けに限る。


「雑魚が、その程度の数集まったとて、わらわには勝てんぞ!!」


 雷剣。切先に集中した電光が爆ぜ、青紫色の火花とともに水虎が弾け飛ぶ。その様子に恐れを抱いた他の水虎たちがすくみ上がる。動きが止まった敵部隊はあっという間に土くれのつわものに蹂躙されていく。


「むっ!?」


 頭上から殺気。木によじ登って待ち構えていた水虎がいたらしい。四方からぱあんっぱぱあんっと連続して砲声が響いた。


「小癪なカッパ野郎どもが!!」


 軽やかに身体を離させて、射撃を回避する。全ての矢を払い落とす。低級水妖が火縄銃とはいい根性してるじゃねえか。第二射を放つ隙など与えん。樹上の敵全てわらわが殺してやる!


 が、その直後真横から木々に向かって何十本もの矢が射掛けられた。左近の意気込みとは裏腹に、火縄銃をもった水虎たちが、ぼとぼとと枝から落ちてくる。


「後ろは任せろ。左近殿はただひたすら真っ直ぐ進め!」


 即席の輿に乗り、ゴーレムたちに担がれた秀久だった。手には例の金の団扇が握られ、それを振って周りにいるゴーレムの弓兵たちを指揮しているようだ。


「ったく羨ましいぜ。先駆けはオレの大好きな仕事だってのによ」

「権兵衛殿に先頭任せたら、釣り野伏で全滅しそうじゃからなあ。怪我人は大人しく輿ソレに乗っとけ!」

「たはっ、言うじゃねえか」


 釣り野伏は薩摩の島津が得意とする戦法だ。秀久はこの戦術に見事に引っかかって、人生最大の失態を演じている。


「まあいい。今この場で、軍を動かせるのはオレだけだ。ゴーレムこいつらの指揮はオレに任せておけ!」

「左近殿、次の山を抜ければ少し道が開けます。お気をつけて!」


 三左衛門も秀久の隣の輿に乗っていた。こちらは100体からのゴーレムを生成するのにかねりの霊力を使って、半病人状態だ。


「道はが開ける…か、ならば仕掛けてくるかもしれんな」


 敵も騒ぎを聞きつけて集団戦に切り替えてくる頃合いだ。島中の水虎を全て集結はせるにはまだまだ時間がかかる。が、このゴーレム隊を引き止めるくらいのまとまった兵力なら動かせるだろう。

 そいつらに手をこまねけば、後詰めの本体が集結し、天后の社への道は閉ざされる。


「考えてる暇はなし! 全軍で蹴散らすぞ!!」

「うおおおーーー!!」


 左近の号令と、秀久の鬨の声。


「やめろやめろ馬鹿野郎」


そこに冷や水を浴びせるように、落ち着き払った、けどよく通る声が割り込んだ。


「せっかく軍勢らしいものが揃えられたのに、猪戦法で無駄にするじゃあない!」


 草木をかき分けて、石田三成が現れた。さらにその後ろから何かが飛び出し、三成の頭を越えて輿の上の秀久に飛びついた。


「権サマあっ!! ご無事で何よりですわ!!」

「おお、清姫! 見ての通りオレは息災じゃ……あだだー!」


 秀久の首に絡み付いた清姫の腕が、包帯を巻いた肩を圧迫した。


「まあ! 権サマ!? そのお傷はどう言う事ですの!? まさか……?」


 清姫は般若の形相で左近を睨みつけた。


「ちがうわ! ……いや、下手人はわらわだが、そうでもしなければ……」

「そういう程度の低い喧嘩は後にしろ。これから合戦だ」


 三成は黄金の軍配をかざした。


「これより、石田流軍配術の真髄を見せよう……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る