第54話 戦場離脱
大蛇と大蛇のぶつかり合いは圧倒的に清姫が優勢だった。タツクチナワの【水】を、清姫の【火】が圧倒している。牙より注入された炎は、タツクチナワが暴れる隙もあたえずにその体内を焼き尽くす。
タツクチナワも、多少は抵抗のそぶりを見せてはいるが、まもなく絶命するだろう。
「あー!失敗したー!!やっぱ青龍から殺っとけばよかったかー」
死に体の大蛇の上では、二人の天将が対峙している。タツクチナワの動きを清姫が押さえたのと同時に、左近が太陰に斬りかかった。太陰はそれを避けて、銀髪の剣客と距離を取ると、頭に刺したかんざしを数本抜いて応戦する。が、すでに形勢は逆転していた。
「式神さえいなければ、わらわの方が強い。観念して喰われるがよい」
「そんなの嫌に決まってんじゃん」
少女の形をした天将はニヤリと笑うと、タツクチナワの体表を蹴った。鱗に覆われた体表がすぱっと割れる。いつのまにか太陰のつま先に、かんざしが一本仕込まれていた。
太陰はその傷口に自分の身体をねじ込む。しまった!
「させるかよ!!」
左近は傷口に飛びつく。が、太陰の体を飲み込んだ後、鱗に生じた亀裂は綺麗に消えてしまった。やられた。
太陰は式神を使役するだけではない。それと一体化して自身の肉体のように動かすことができる。その特性を知っていたからこそ、初撃でタツクチナワの喉を切り開いたのだ。が、元に戻られてしまった。
「うわ、中
太陰は、大蛇の体内から肉を先再び姿を表す。しかしそれはさっきまで左近と睨み合っていた場所ではない。そこは……
「うわっ!?」
タツクチナワの身体にしがみついていた秀久は、思わず握っていた刀の柄を手放しそうになる。目の前に天将が現れたのだ。
「仙石サン……だっけ? アタシの主人からウワサは聞いてる。ちょっと付き合ってもらうよ?」
「権サマ!?」
清姫はタツクチナワの喉元から口を離した。
「清姫サン、周りのものに目が見えなくなるの、悪い癖だねえ。あなたの旦那は人質にするよ」
太陰の腕が伸び、秀久の身体に癒着していた。式神との同化の応用か、秀久の身体は抵抗することなくだらりと手足を垂らして動かない。
「面目ねえ! 清姫!!」
秀久は叫ぶ。
「ふふっ!アタマまでは奪ってないから、安心していーよ。まあ、奪う価値のえるアタマではなさそうだけど」
「権サマを返しなさいこのガキィィ!!」
清姫は炎を吐きながら怒り狂うが、その権サマを盾にとられてはなす術もない。
「とうだ〜!でーばーん〜!!」
太陰が間延びした声で、それを呼ぶ。すかさず空中に巨大な翼が現れた。
「あれは!?」
左近はすぐに気づく。見間違えるはずもない。利休や天空の一件の際に現れた奴。騰蛇。十二天将の名を騙る南蛮の怪物だ。
「前哨戦、なかなか楽しかったよ。先に島で待ってるね」
太陰は秀久の身体とともに騰蛇の背中に飛び移った。
「待ていっ!」
左近も後を追うように跳躍し、有翼の怪物の脚を捕まえた。今度は逃がさん!
「あっ! ちょっと青龍、やめてよね!! 騰蛇、振り落として!!」
騰蛇は高速で飛び始めた。急上昇、急降下、錐揉み、宙返り……不規則な軌道を描きながら、遠ざかっていく。
「清姫ー! 権兵衛殿はなんとかする! お前はうちの主や水夫たちを頼むぞ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます