第39話 潜入捜査(2)アジト

 荷台のあまね達9人と助手席の男をフェンスで囲まれた建物の前で下ろすと、トラックはどこかに走り去って行った。

「こっちだ」

 男に言われ、ほかのメンバーについて行く形で中に入る。

 マンションか何かを建てている最中のようだった。

「ここはホテルの建設途中に資金が無くなってそのままになってるところだ。この部屋には電気も水も来てる」

 キョロキョロしていると、助手席の男がそう言った。

「俺の事はBと呼べ」

「ビー?蜂?」

「いや、ABCのB。このグループがB班で、俺が班長だからだよ」

 男はクスッと笑い、続けた。

「ここで全員が集団生活をする。仕事がない時は基本自由だが、外へ行くのと、大きい音を出すのは禁止。飯は毎食届く。

 窓ガラスはないけど、個室はある。2人で一室。

 ようし、紹介しよう」

 奥のテーブルのある大きい部屋へ来ると全員が立ち止まり、そこでBが言った。それで皆がBとあまねを見る。

「魔術士のサンだ。イチ、面倒を見てやれ。

 あとはイチに訊け。今日の初仕事は悪くなかったぜ」

 Bはそう言うと、あまねの肩を叩いて、出て行った。

「イチだ。取り敢えず今日はおしまいだ。部屋へ行くか」

「はい。サンです。よろしくお願いします」

 あまねは一応皆に頭を下げておいたが、皆「ああ」とか何とかもごもごと言うだけで、何となく頷いて、部屋を出て行く。

 イチは肩を竦め、

「まっとうな仕事じゃないのはわかってるだろ。笑顔でよろしくも歓迎もしない」

と言うと、踵を返して歩き出した。

 それを慌ててあまねは追う。

 暗い建物の中には所々に弱々しい光しか出さないランプが置いてあり、辿り着いたのは、コンクリートが打ちっぱなしの小部屋だった。2つの寝袋とイチの物と思われるリュック以外は何も無い。

「ここ?」

「ああ。青い方がお前な」

「イチさんは今まで1人だったんですか」

「イチでいい。

 最近まではもう1人いたよ。逃げだそうとして捕まって、どこかに連れて行かれた」

「……」

「大人しくすることだな」

 それでイチは、赤い寝袋に入った。

「あのぉ」

「トイレは階段のところに簡易トイレが並んでる。明日の朝飯は8時にさっきの部屋へ行って食う」

「イチ、えっと」

「何だ。寂しいから添い寝でもしろってか?ごめんだぞ」

「いえ。おやすみなさい」

「おう」

 あまねは寝袋に潜り込みながら、えらいところに来てしまった、と思った。


 眩しい朝日が差し込む中、あまねは目を覚ました。

 寝袋から起き上がると、ちょうどイチも起き上がった所だった。

「眠れたか?」

「はい!キャンプみたいでしたね」

「意外と図太いな」

 起きて寝袋をたたみ、洗顔を済ませ、食堂で朝食を摂る。菓子パンとペットボトルの飲み物を貰うのだが、この飲み物を適当に今日1日に飲めという事だった。

 その後は手洗いでの洗濯で、各人の部屋にロープを張って乾かすのだ。

 昼食はカップめんとおにぎり。カップめんは数種類から選べるという。

 夕食は弁当やレトルトのもので、弁当も早い者勝ちで選べるそうだ。

「選べると言っても、飽きないのか?」

「食えるだけましだろ」

「まあ」

「タバコやビールや菓子類や着替えの追加とか、欲しい物があれば、週に1回即売会があるからそれで買え。

 仕事をすれば報酬がある。仕事の翌日の昼以降に、Bから手渡しだ」

 イチは色々と説明してくれる。

「入浴とかは?」

「週に2回、近くの山の中にある日帰り温泉に営業時間が終わった後に入らせてもらえる」

「温泉!」

「まあ、時間制限とかもあるしゆっくりもできないし暗いけど、一番楽しみにはしてるな、皆」

 あまねは少し楽しみになって来た。

「でも、週に2回かぁ」

「……お前、本当に意外と大物かもな。もしくは、切羽詰まったのってつい最近になってからか」

 イチの呆れたような顔と声に、内心ギクリとしたあまねだった。





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