第6話 後ろの正面

予約公開をミスってたことに、次の日気づきました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふぅむ。二人が降りてくるまでまだ時間があるな」


 おっちゃんは髭をしごく。


「そういやおめえ、職業ギルドの講習受けてないんだったよな」


 講習というと、チュートリアルのことかな。

 おれは「はい」と頷いた。


「よっしゃ。昔取った杵柄って奴だ。俺が冒険のイロハってやつを教えてやるよ」


 そういやさっき、昔エインヘリアルだったとか言ってたな。となると壁に飾ってある細剣と銃はおっちゃんが使ってたって事に……。

 似合わねえな。


 おっちゃんは俺の視線をめざとく見つけた。


「あん、なんだ? ああ、あの武器か。あれは爺さんが使ってた武器だな。俺はどうもああいうこまっちいのは性に合わなくてな。やっぱ力isジャスティス、力isパワーだぜ。お前も食うもん食って力つけろよ」


 おっちゃんはがははと大きく笑う。


 そうしておっちゃんはソロで活動するときの注意点や、知ってるとちょっと得する情報なんかを教えてくれた。

 その図体に似合わず意外と細かくてびっくりする。

 みんなが職業ギルドで受けたチュートリアルを、今まさに受けてる感じなんだろうか。

 そんなことを考えながらおっちゃんの話を聞いていると、奥から声をかけられた。


「おとーさん、お部屋の準備終わったよー」


 そちらを見ると階段の降り口で、ユエちゃんが俺たちに手を振っていた。


「あーー、おとーさんお酒飲んでるー。今日は飲まないって言ってたのに! おかーさーん、おとーさんがお酒飲んでるよー」


 そう階上に向かって呼びかけたユエちゃんを見て、途端におっちゃんが慌てはじめた。


「やっべえ。あいつらが降りてくる前に片そうと思ってたのに、話に夢中になって忘れてたじゃねえか。ようやく禁酒令が解かれたばっかだって言うのに、下手したらまた酒が飲めなくなっちまう。おめえのせいだぞ」


 おっちゃんは、慌てて残ったビールを喉に流し込み証拠隠滅を図る。


「いやいや、俺のせいじゃないでしょう。だいたいこっそり片付けるくらいなら、最初から飲まなかったらよかったじゃないですか」


 そう反論する俺に、おっちゃんはさらなる理不尽をたたみかけた。


「いーや違うね。大体おめえがあんなにうまそうに飯を食わなかったら、俺も酒を持ってこなかったんだ。だからやっぱりおめえが悪い」

「ええー。たとえそうだとしても、二杯目以降はおっちゃん一人で飲んでたじゃないですか」


 不合理だ!

 俺だって飲みたかったのに、おっちゃんはあおるように飲んで見せびらかしてたじゃないか。


「あっほ、おめえ……。酒飲んだから口の滑りもよくなったんだよ。そのおかげでおめえも冒険のイロハが聞けたっつー訳だ。男だったらそれくらい広い心で受け止めろって。いや、まてよ……」


 おっちゃんは何かに気づいたのか、息をのんだ。


「そういやおめえ、俺の分も飲みたそうな顔してたな。よし、このジョッキは両方ともおめえが飲み干したことにしよう。それなら俺も怒られねぇ」

「いや、さすがにそれは……」


 俺はおっちゃの背後を見ながら、なんとかそれだけ口にする。

 おっちゃんはそんな俺の両肩をがっしとつかんだ。


「な。英雄目指してんだろ? 俺を助けると思って、頼むわ」


 俺に頼み込むおっちゃんの後に、一人の女性が現れた。

 にこやかに微笑むその顔に、なぜか空恐ろしさを感じる。

 おっちゃんに必死にアイコンタクトをするも、気づかない。おっちゃん、終わったな。……南無。


「なるほど、そうすれば私たちにはばれないと思ったわけですか……」


 女性が語りかける。


「そういうこったな。なに、こいつもいろんな事を知れたんだ。対価だと思って勘弁して……く……れ……る……」


 ギ、リ、ギ、リ。

 後ろを振り向いたおっちゃんの前にいるのは、その女性。おそらく奥さんな訳で……。


「冒険についてコダマ君に教えてたんだから、多少のお酒は許してあげようと思ってたんだけど……。隠そうとするどころか、まさか罪をなすりつけようとしていたなんて。……これはお仕置きが必要かしら」


 顎に指を当て思案するような女性。

 だがその言葉は冷たい。


「いや、待て。これには深いわけが……」


 おっちゃんはしどろもどろになりながらも、言い訳しようとしてるが、まぁ無理だろう。


「話はゆっくり聞きますよ」

「いててて」


 女性はおっちゃんの耳を引っ張っていく



「さ、ユエはコダマさんをお部屋に案内してあげて」

「はーい」


 ユエちゃんは元気よく答えると、俺の手を引いて階段へと向かった。

 おっちゃん、強く生きろ。





 ◆





 案内された屋根裏部屋。

 何もないかと思っていたが、簡素ではあるがベッドに机、それにクローゼットが置いてあった。泊まるにも十分な広さがある

 何よりさっき片付けてくれたせいか、ほこりっぽさもない。

 一階と同じように崩れかけた壁を補完するかのように大樹がせり出してきているが、これまた趣があっていい。控えめに言って最高である。


「どう? いいお部屋でしょー」


 ユエちゃんが大きく手を広げアピールする。


「頑張っておかーさんと片付けたんだよー。ほめてほめて」


 そんなユエちゃんの頭をくしゃくしゃとなでてあげると、彼女は満面の笑みで見上げてきた。


「んひひー。おかーさんがね、好きに使っていいって言ってたよ」

「そっか。それはお礼を言っとかないとな」

「んーー。それはいいってー。なんかせきぜんーって言ってた」


 ユエちゃんが小首をかしげながら言う。

 せきぜん……? はて。


 まぁ奥さんには奥さんの思惑があるだろうが助かったことは事実。

 ここの三人に感謝するのはやぶさかではない。

 特にユエちゃんはそうだ。


 俺は身をかがめた。


「たとえそうでも、ユエちゃん達と会わなかったら、ご飯も食べられなかったし、泊まる場所にも困ってたんだ。だから、ありがとう」


 そう言うとユエちゃんはキョトンとした後、


「んひひー」


 笑顔を見せた。


「さ、そろそろユエちゃんもお父さんとお母さんのところに戻らないと……」

「あ、そうだった。ユエもおとーさんにお仕置きしないと」


 そんなことを言い出したユエちゃんを慌てて止める。


「いや、それは勘弁してあげて。十分に反省してると思うし。それに、お父さんからいろんな話が聞けて助かったんだよ」

「むーー。それなら許してあげる」


 ユエちゃんは胸を張り、うんうんと頷く。


「それじゃあ、おやすみ。ユエちゃん」

「うん、おやすみなさい。おにーちゃん、また明日ね」


 ユエちゃんは小さく手を振って部屋から出て行った。





 さて、俺ももう休むか……。

 っと、その前に心のToDoリストを片付けないとな。

 そう考えている俺に通信が入った。フジノキからだ。相変わらずタイミングのいいやつである。


『もしもしコダマ? 今大丈夫回かい 』

『大丈夫だよ、どうした?』

『いやどうしたも何も、君今宿舎にいないでしょ。どうしたのかなって思って』


 ああ、そういえば開拓使の一件、話してなかったな。

 まぁそこら辺の事情は省いて説明しておくか。


『いや、実は町外れの食堂に泊めてもらうことになったんだ』


 そう言っておっちゃんの店に泊めてもらうことになった経緯を説明した。


『なるほどね。それはよかった。色々と気になる点はあるけど、それは今度聞くよ」


 む、相変わらず勘のいいやつだ。

 こりゃ開拓使でクエストが受けられなかったことも、こいつにはばれてるな。


『ただ、宿舎に泊まってないことは説明してくれないと……。僕たちはともかくカネティスちゃん、すごく心配してたよ。昼の一件もあってこっちから連絡はできないみたいだけどね』


 そうだな。確かにカネティスのことも考えると連絡を入れるべきだった。すっかり失念してた。


『どうせ忘れてたんだろ、まったく……。カネティスちゃんのフォローはしておくから、後で必ず連絡しておくんだよ』

『ああ、わかった』


 念をさしてくるフジノキに頷く。

 チャットか何かでもいいから後で連絡を入れておこう。

 とりあえず心のToDoリストにメモっておくか。


『そういや話は変わるけどこのゲーム、内部で時間は2年間の予定なんだって』


 俺は、エルとの会話で気になっていた点を聞いた。


『そうだよ、これだけの高加速のゲームは初めてらしいね。最初の規約みたいなのに書いてあったと思うんだけど。どうせ読み飛ばしたんでしょ』


 フジノキは軽く笑った。

 でも、確かにその通りだ。時間が無かったから、そこら辺適当にYESを押したんだよな。


『軽く説明すると、内部時間は最大二年だね。二年たつかゲーム終了条件を満たすと終わり。おのおのの得点を計算してランキング。再度最初からゲームが始まる形になってる。その性質上一回ログアウトしたら――外部要因、内部要因問わず――再ログインは不可だから気をつけてね』

『その点は大丈夫。トイレも済ましてるし、アラームが鳴ることはないはずだ。とはいえそんなに現実時間と差があって大丈夫なものなん? 心配になるんだが』

『国の認可もとってあるみたいだし、何よりレーテメモリアの件もあるからね。大丈夫じゃないかな。そもそも高加速で精神に影響の出る人は最初のVR登録の段階ではじかれるしね』

『ふむ。それなら安心だ』

『あ、そうそう。βテストとはいえランキング上位には報酬があるらしいよ。まだ正式な内容は出てないけど、引き継ぎ要素みたいなのがあるんじゃないかって言われてる。そのうちゲーム内で発表があると思うから、気にしておくといいよ』


 なるほどね。

 このヴァルホルサーガVRはストラテジー系のゲームみたいな感じで、同じステージを何度も繰り返すタイプな訳か。

 そういや確か、スコアアタックRPGみたいなことも書いてたしな。


『おっけー。そこら辺も後でちゃんと見ておくよ』

『はは、それだけじゃなくて、カネティスちゃんへの連絡も忘れないようにね』

『わかったよ』


 再度念を押すフジノキに笑って答える。


『うん、それじゃあもう大分遅くなってきたし、おやすみかな』

『ああ、おやすみ』


 フジノキとの通信を切った。

 確かに夜も深くなっている。

 カネティスへの連絡は明日にするか……。さすがにこの時間から連絡するのは迷惑だろう。


 俺はベッドへと潜り込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


エルのひとりごと



エインヘリヤルだけど、実はNPCもそうだったりするよ。

この街の主要NPCは実はそうだったりするね。

あと、ガンツさんとソレイユさんも過去にエインヘリヤルだったという設定なのさ。

で、なんでエインヘリヤルをやめたかって言うと、結婚したからなんだよねー。

エインヘリヤルって、死んでも復活したり不老だったりするかわりに子供ができないの。

だから結婚して子供が欲しかった二人は、エインヘリヤルの辞した訳なのさ。

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