第4話 ふぁいといっとあうと?

 さて、開拓使庁舎のある町――母体となった遺跡にちなみオールドーという――の西側は入り江に接している。最初に演説が行われた港の方角だ。

 ではその他の方角はというと、平原に接している。それぞれ東にアナトリ平野、北にヴォラス草原、南にノトス平原と言った名前だ。

 そして、今俺がたっているのは南のノトス平原。町を出てすぐ、城壁のそばだ。門番さんに一番弱いモンスターの場所を聞いたらここを紹介されたのだ。

 周りを見ても人はまばら。町のすぐそばは敵も少ないし、皆遠くに行っているのだろう。まぁ、普通に畑とかもあるしな。仕方ない。

 それに、本格的な開拓場所はさらに一つ向こうのマップになるらしいしね。


 実は町の外以外にも戦闘経験を積む場所はある。オールドーの町の地下に広がる遺跡だ。ただそこは入場に貢献度が必要らしく、今の俺には入れない。

 まぁ、もし入れたところで敵に刈られるか罠にかかるのがオチだろう。


 さて、外に出てきた俺の装備はというと、初期の野暮ったい服にオリゴナイフという出で立ちだ。

 アビリティの関係上、防具は服しか装備できないし、武器も初期装備のオリゴナイフしか装備できない。

 外に出る前に軽く商店を冷やかしてきたんだけれども、武器はどれも装備不可だった。

 まぁ、そんなにお金があるわけじゃなし、大事に使わないといけないから、買えないなら買えないでもかまわないんだが……。

 それに一応、このオリゴナイフがあるしな。ただこれはなぁ……。

 俺は改めてオリゴナイフの能力を表示した。



 ―――――――――――――――――――――

 オリゴナイフ


 狩猟の神ラマルカウスが狩りに使用したナイフのレプリカ。

 ただしただのレプリカではない。戦乙女シグルドリーヴァの手で作られている

 故にその形状、付与された能力は一部の違いも無く同質。いわばすべてのオリゴナイフが同一のものといえよう。

 すべてのエインヘリヤルに下賜され、またエインヘイリアルであれば誰でも装備できる。

 なお、戦乙女に返納することも可能。その際GPを取得できる。


 攻撃力:1

 装備条件:無し

 能力:不壊

 ―――――――――――――――――――――


 期待をふくらませるフレーバーテキスト。そしてその能力は不壊。

 だがその間に燦然と輝く、攻撃力1の文字。


 思わずはぁとため息が出る。


 いや理屈はわかるんだよ。初期からすごいものを持たされるわけもないし、壊れない能力というのはそれはそれで有能だと言うことも。

 おそらくそもそもの用途は、戦闘ではないんじゃないだろうか。例えば解体用とかさ。

 それで、より有用なものを手に入れたら返納してGPを取得、がおそらく想定されている流れだろう。

 だがまあ、俺にはその道をとることはできない。頼みの綱はこのオリゴナイフだけなのだ。


 俺はオリゴナイフを構えた。相手は目の前のマーモット――20センチくらいのネズミ――だ。オールドー周辺では最弱クラスの魔物だが、薬草等を食い荒らすため害獣扱いされている。ちなみに一般人でも難なく倒せる程度の魔物である。


 穴を掘り草の根をかじるマーモット。俺には気づいていない、もしくは気にしていないのだろうか。少なくともアクティブモンスターではないのだろう。こちらを気にする様子はない。


 その後ろにそろりと近づき――。


「やあっ」


 オリゴナイフを突き出した。

 狙い違わず命中し、マーモットの上に数字がポップする。


【1】


 たった一点というなかれ。これは他のエインヘリヤルにとっては小さな一点だが、俺にとっては大きな飛躍なのだ。

 その証拠に見てみろ、あのマーモットのHPバーを。一割近く減っているじゃないか。

 同じ事を後10回やれば倒せるんだから簡単なものだ。


 気づくと、マーモットが振り返り、にらむようにこちらを見上げている。

 なにしよるんじゃわれぇ、とでも言いそうだ。


 いやまぁ、食事中に尻の穴にナイフさされたんだ。そりゃ怒るわな。

 と、そんなことを思っていると、マーモットは強く地面を踏みしめ――。


「Dii」


 ――俺に向かって飛びかかってきた。


「なっ」


 倒れ込むようにしてその攻撃をよける。

 あっぶねぇ、油断してた。だけどこれはチャンスだ。攻撃をよけられたマーモットはこちらに背を向けている。

 急いで振り向き、崩れた体勢のままにオリゴナイフを振るう。


「せいっ」


 今度もなんとか命中。もう一度マーモットの尻を切り裂いてやった。

 …………って、おいまて。そりゃないだろう。

 マーモットの頭上には『0』という文字がポップしている。HPゲージの方も変わりない。


 そしてマーモットはゆっくりと振り向き――、


「hepu」


 鼻で笑いおった。なんて腹立たしい奴。

 加えて、再度飛びかかろうというのだろうか、後ろ足を強く踏みしめている。


 だが、これはチャンスだ。

 さっきは体勢が崩れたまま攻撃したからダメージがなかったのだろう。

 今度は丁寧によけて、丁寧に攻撃する。


「Dii」


 マーモットが飛びかかってくる。だがその軌道はさっきと同じ。

 俺はその攻撃を身体を回転させるようにして避け、振り向きざまにナイフを一閃する。


「せやっ」


 よし、今度はきれいにマーモットの尻を縦に切り裂いた。なのに――


【0】


 無情にもダメージが与えられなかった。


「おいおい、それはないだろう」


 半ばやけになりナイフを振るう。その攻撃は幸運にも、振り返ろうとしていたマーモットに当たった。


【1】


 え!? どういうことだ?

 丁寧に攻撃したら0、雑な攻撃が1とか……。

 いや、考察は後だ。今はマーモットに集中しないと。


 マーモットはまたして後ろ足に力を込め、飛びかかろうとしている。

 よし、この攻撃なら大丈夫。もう一度避けて攻撃を――。


 ――いやまて、違う!


 マーモットは跳ねた。さっきまでと一緒だ。

 だがスピードが段違いだ。さっきまでだったら余裕で避けられたのにっ!


 ぐぬぅっ。


 無理矢理に身体を倒し避ける。が、完全にはかなわず、マーモットの攻撃が脇をかすめた。

 

「――ぐぁっ」


 いってぇ。

 すぐにHPを確認。げっ、半分近く減ってるじゃないか。ちょっとかすっただけなのに。

 やばい。早く回復薬を使わないと。追撃されたら死に戻りするかもしれん。いやでもどうやって使うんだ? とりあえず取り出して……。


 そう思うのだが、焦りのせいか思考が空回りし、うまく回復薬を取り出すことができない。


 ええい、こうなったらいったん仕切り直しだ。

 俺は這々の体でマーモットから距離をとった。


 そんな俺を見てマーモットは興味を失ったのか、「hepu」と鼻で笑って草を食みに戻っていった。

 ……地味にへこむ。そして悔しすぎる。


 しかもあのマーモット、俺がある程度離れた段階でHPが全快しやがった。

 ちくしょう。逃げ撃ちをさせないという運営の確固たる意思を感じるな。


 いやまあ、とりあえずそれはいい。ひとまずは何であんなダメージを受けたか、それをはっきりさせないとな。

 腰を落とし、とりあえずログを確認する。


 ……ああ、なるほど。


 原因はすぐにわかった。

 ダメージログのすぐ上にある【critical】の文字。criticalだからダメージも高くて、しかもあんなに早く避けづらかったのか。納得だ。

 とはいえあのクリティカル攻撃、かすっただけでHPを半分近く持って行った。ダメージのブレを考えると、二回かすっただけでやばい。

 直撃なんて言わずもがなだ。

 となると、できるだけ効率的にマーモットにダメージを与えなきゃならないんだが……。

 こちらの攻撃も0だったり1だったりとぶれている。いくら攻撃力が低いとはいえ、一般人でも勝てる敵に半殺しにされるとか、何か原因があるはずだ。


 改めて己のステータスを見てみるか。


https://32334.mitemin.net/i513713/

〈文末に画像じゃない版記載〉


〔エルルーンの冥助〕の効果は、良くも悪くも戦闘に直接関係しない。

 となると〔戦乙女の祝福〕の方が何か悪さをしていると思うんだが……。

 詳細を開き、読んでみる。


「ああ、やっぱりそうか……」


 思わず声に出し頷いてしまった。


 ―――――――――――――――――――――

 戦乙女の祝福


 すべてのエインヘリヤルが持つアビリティ。

 魔物と戦うための能力を得る代わりに、日常生活は送りづらくなる。

 これに加えてエインヘリヤルは、自分を守護する戦乙女から個別の加護を得る。



 効果


 死亡からの復活

 クラス、アビリティ、スキル等のの取得による個体成長率の上昇

 非戦闘時の回復力上昇。

 対応したクラスやアビリティ、スキル等がないと行動にペナルティがかかる。

 

 ―――――――――――――――――――――


 この、『対応したクラスやスキル、アビリティ等がないと行動にペナルティがかかる』ってところが悪さをしているんだろう。

 オリゴナイフには、その特性上誰でも装備ができる。ただ俺は、ナイフ装備系のアビリティを持ってないし、クラスも戦闘職じゃない。

 そのペナルティがあるからこその、あのしょっぱいダメージだったんだろう。

 戦闘にならないわけだ。カネティスが怒るのも頷けるね。とはいえこれでなんとかしなきゃならない。

 っと、そうこうしているうちにHPが回復したな。これが『非戦闘時の回復力上昇』効果か。

 レベルが低いからだとしてもそこそこな量が回復している。これはありがたい。

 もらった回復薬は五つしかない。無駄遣いをするわけにはいかないからな。

 後は使用法だが……。飲むかかけるかするんだな。よし理解した。

 とっさの行動でパニクるときがあるから、しっかり準備をしておかないと……。


 さて、残るはどうやってマーモットに勝つかなんだが……。

 近距離が危ないんなら、次は遠距離からの攻撃だよな。


 俺はそばの小石を拾い壁に向かって投げてみた。


 カン。


 よしっ。ちゃんと当たった。

 もしかして投げられなかったりしたらとヒヤヒヤしたが、大丈夫なようだ。

 後は、ちゃんと命中させられるか。そして、うまいこと引き打ちできるか、だが……。

 学生時代水切り大会で優勝し、印字打ちの響と恐れられた俺だ。そこら辺はうまくできるだろう。きっとな。

 そんなわけで第一投!


「せい」


 よっし。狙い違わず命中。

 後は適度に退きながら投げ続けないと。離れすぎるとマーモットのHPが全快するだろうからな。そこらへんのさじ加減が……。


 と、そこまで考えたところで、はたと気づいた。

 マーモットがこちらに向かってこない。

 どころか、何かしたの? と言わんばかりの表情でこちらを見てる。

 そういえばダメージのポップもなかったように感じる。


 ……まさかな。


 不安を押し殺し、再度の投石。

 そう、さっきの命中は見間違い、外れてたんだ。だからしっかりと命中させれば……。


 ・・・

 ・・

 ・


 ――――投げること数十球。俺はがくりと膝をついた。

 投石はダメだ。当ててもダメージのポップが一切出なかった。マーモットもこっちを小馬鹿にして笑うし……。


 石を持って投げられる=装備できているわけじゃないんだろうか。攻撃力が低いだけだったら『0』がポップするだろうし。

 もしくは白河印字みたいなクラスとか〔装備:石〕みたいなアビリティとかがあったりするんだろうか。


 まぁ、どちらにしてもこの挑戦はダメだった。

 なら次はどうしようか。このままではいかんともしがたいわけだが。

 そう思いを巡らせながら天を仰ぎ見る。空が赤く染まっていた。もう夕方か……。おなかすいたな。


 …………まずい! 一つのことに思い当たり慌てて周りを見渡す。


 そこでは冒険帰りであろう人たちがこちらを見ていた。

 夕刻の、しかも町の門のそばなんだ。そりゃ人が増えるだろう。

 中にはこちらを見て笑ってる人もいる。

 も、もしかしなくても俺とマーモットの激闘を見られてたのか……。ぐぬぬ、穴があったら入りたい。


 思わず顔を覆い、町に向かって走り出した。

 見ず知らずの人はともかく、もしフジノキ達にもしみられたらと思うと恥ずかしすぎる。


「hepu」


 後ろからマーモットの笑い声が追いかけてきた。

 うるせぇ。勝負は明日にお預けだ。首を洗って待っていろ!


「hepupu」


 マーモットのやろう、また鼻で笑いやがった。

 ちくしょう、覚えてやがれ!


――――――――――――――――――――――――――――――――――

エルのひとりごと


主人公であるコダマのステータス、画像じゃない版~~。ぱふぱふ~。


 ―――――――――――――――――――――


 名前:コダマ・パサド

 種族:ヒューマン

 加護:エルルーン Lv3

 GP:0


 クラス:ウェポンマスター Lv1

     妖精使い     Lv1

     エッグマスター  Lv1


 能力値:肉体(10)

 能力値:感覚(13)

 能力値:精神(10)

 能力値:信仰(12)


アビリティ

 戦乙女の祝福      Lv1

 戦乙女エルルーンの冥助 Lv1



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