第3話 眼鏡いんカウンター
「コダマ様、あなた様が受注できるクエストはありません」
受付の女性は眼鏡を冷たく光らせて言った。
三人と別れてやってきた開拓使庁舎。
最初は個別で説明を受けなければならないらしく、長い列を待たされてようやく受付カウンターたどり着いた。
だが、俺の目の前にいる受付の女性は、チラリとこちらを見た後、手元の書類に視線を落としそう言ったのである。
うむむ。これなら他の列に並んだ方がよかったか。
隣のゆるふわお姉さんは優しそうだし、反対隣のおっさんの列とも一緒で、列の処理が早い。
何も考えずにこの列に並んだが、俺の前にいるめがねの受付お姉さん、列の処理が遅いんだよな。
その冷たく切り捨てそうな見た目と相まって、この列のハズレ感が強まる。
ちなみにカネティスやフジノキ達は、開拓使庁舎の列を見て、先に職業ギルドの方へ行った。
そちらの方は職業毎である程度別れている分、こちらみたいに並んでいないしな。
そっちはそっちで、装備を受け取ったり職毎のチュートリアルで時間をとられそうではあるのだが……。
え? 俺? 対応するクラスについてないとのことで、門前払いされましたよ。
職業ギルドの方も忙しそうだったし、仕方なかったかもしれないけど、悲しいね……。
「……聞いていますか?」
気がつくと受付さんが、こちらを射抜くようにのぞき込んでいる。
「あ、はい」
ちょっと聞いてなかったとはいえない雰囲気に気圧され、曖昧に頷く。
「……まあいいでしょう。先ほどもいいましたとおり、コダマ様はクエストを受けられる状況にありません。理由も説明いたしますが、よろしいでしょうか」
受付さんは、めがねをくいっとあげる。
ちなみに、めがねをあげる仕草にはいくつかある。代表的なものでも、ツルをつまんであげるもの。ブリッジを指で押し上げるもの。両方のジョイントをおさえて押し上げるもの。両手でしたから押し上げるもの等、様々である。また使う指によって……。いやこれ以上はいいか。
ちなみに、受付さんはツルをつまんで親指で押し上げるタイプだった。
そこは実に、実に俺の好みである。よき……。
気づくと、受付さんがレンズ越しの冷たい目でこちらを見ていた。
あ、はい。大丈夫です聞いてます。
そうして説明された点をまとめるとこうだ。
・クエストは大きく分けると、討伐系、生産系、採取収集系、探索系といったものになる。
・基本的に、討伐系には戦闘クラス、生産系には対応した生産スキル、採取収集系、探索系も対応した能力の所持が求められる。
・レベルが満たなかったり未所持の場合、クエストは受けられない。
・なおPTを組んでる場合はPT単位でクエストを受けることが可能。その場合条件はパーティ単位でクラス、能力の所持やレベルが判別され、またその条件も緩和されることがある。
・俺の場合は戦闘クラス、生産クラスについていないこと。あわせて採取収集や探索に対応した能力も持っていないことから、クエストを受けられないらしい。
「――以上がコダマ様はクエストを受注できない理由になります。無論この場で対応するスキルやアビリティを習得すれば、クエストの受注も可能ですが……」
受付さんは手元の書類に視線を落とした。
ああうん、そうだよね。今俺が取得できるもので、すぐクエストに役立つものはないよね……。
俺もメニューを表示し、改めて自身のクラスを確認する。
―――――――――――――――――――――
ウェポンマスター(補助):Lv1
あらゆる武器の取り扱いに長けたクラス。
このクラスを取得した場合、武器のアビリティやアーツ等の取得ポイント、キャップレベル等にボーナスがつく。
また同じ武器を使い続けることで、その取り扱いにボーナスがつく。
取得可能アビリティ:武器習熟
取得可能スキル:無し
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
妖精使い(補助):Lv1
妖精が手助けをしてくれるクラス。
生産アビリティやスキル、アーツ等に様々な補正や追加効果を与える。
取得可能アビリティ:ホワイトレディ
取得可能スキル:無し
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
エッグマスター(補助):Lv1
自分専用のペットが産まれる卵を持ったクラス。
卵が孵るには長い時を要するが、各使い魔系のギルドでは即座に卵をかえすことができる。その場合それぞれのクラスに応じたペットが産まれる。
取得可能アビリティ:共感
取得可能スキル:無し
―――――――――――――――――――――
さて、今取得できるのは〔武器習熟〕〔ホワイトレディ〕〔共感〕の三つのアビリティだが……。
まず〔武器習熟〕。これは例えば〔弓装備:Ⅰ〕といった装備アビリティや、弓で言うと〈ダブル・シュート〉のようなアーツに対し、いろいろな補正を与えるアビリティだ。
これだけみると、戦闘クラスにとって有用に見えるが、俺は該当するアビリティやスキルを覚えられないから意味がない。
次に〔ホワイトレディ〕。これも〔武器習熟〕と同じだな。生産系のアビリティなんか無いから意味がない。
最後に〔共感〕。フレーバーテキストによると、これは他人の感情を漠然と読み取ることのできるアビリティらしい。ゲーム的にはテイマー、サモナー系のアビリティ等に補正。後は商人盗賊系の一部のアビリティ等に補正がかかるようだ。
当然これもアウトである。そんなスキル持ってないものな。せめて卵がかえっていれば違うんだろうが、ギルドで門前払いされたからなぁ。この卵が孵るのはいつになることやら……。
まぁ現状意味の無いこれらのアビリティ群も、レベルを上げていけば何かしらの変化が見られるかもしれない。
アビリティやクラスのレベルを上げることで覚えることができるスキルやアーツなんかもあるようだしね。
ちなみに、アビリティやスキルの取得やレベルアップには
ちなみに俺の初期GPは1。上記のアビリティの取得にそれぞれGPが5必要。
だからそもそもアビリティの取得ができないんだけどな!
理由? それは初期アビリティ二つのうちの一方がこれであるからだ。
―――――――――――――――――――――
戦乙女エルルーンの冥助:Lv1
あなたは戦乙女エルルーンの加護を得てエインヘリヤルとなった。
効果
クエスト報酬GP上昇 クエスト経験値上昇
初期GP減少 討伐、生産等の経験値減少
―――――――――――――――――――――
この初期GPの減少が原因だよな。元々の初期GPがどれくらいあるかは知らないけど、結構減らされてそうだ。
となると、経験値減少の方もちょっと怖い結果が待ってるかもしれない……。
とはいえなぁ。このアビリティしかり、取得したクラスしかり、それ単体で悪いことはない。むしろクラスの組み合わせによっては、結構なシナジーがあるだろう。
だけど俺の場合は組み合わせがひどい、ひどすぎる。それぞれのメリットを打ち消しているどころかマイナスにまでなってるからな。
そんなわけで、レベルを上げるのも難しそうなんだが……。
このクエスト経験値上昇の効果を生かすためにも、できればクエストで経験値を得たい。でも前提条件を満たしてないというジレンマ。
……いや、ちょっと待て。
そうだよ、定番のあれがあるじゃないか。
「ちょっと思いついたことがあるんだけどさ」
俺は受付さんに話しかけた。
「…………。聞きましょう」
受付さんは軽くため息をつき、話を促す。
「いや、俺が対応するクラスやスキルを持ってないからクエストを受けられないのはわかった。だけど、そういった前提条件がないクエストってないの? 例えば町の清掃とか迷い猫探しとか、そういうの」
自分の思いつきを話すと、受付さんはこめかみに指を当て目を閉じた。
「四度目ですね……」
「ん?」
「いえ、何でもありません」
俺が受付さんのつぶやきに反応する間もあらばこそ、彼女は理由を説明しはじめた。
「そのようなクエストはありません。……そもそもコダマ様は何をしにこの大陸に来られたのでしょうか。またここをどこだと考えられてるのでしょうか。ちなみに私はここが開拓使庁舎であり、コダマ様たちはこの大陸を開拓するために集められたと理解しています。決して町の掃除をしたり迷子の猫を探したりするために集められたわけではないと考えているのですが……。そこのところコダマ様はどうお考えですか?」
「い、いえ。しごくもっともなことだと思いますが……」
「……『が』?」
「いえ、なんでもありません。おっしゃるとおりでございます」
冷たい受付さんの声に押されるように、俺はこくこくと頷いた。
圧がすごい。逆らえない。
さっきの四度目って、もしかして似たようなことを、もう何回も聞いてたのだろうか……。
だとしたらこの態度もむべなるかな。全くもって申し訳ない。
そんな俺の殊勝な態度を見たからだろうか。受付さんが「よろしい」とつぶやく。
「コダマ様がおっしゃったようなクエストがない理由も、ご理解いただけたようですね。パーティを組む、もしくは転職をして再度こちらに来ていただければ、斡旋できるクエストもあろうかと思います。とはいえ……」
受付さんは改めて手元の書類に目を落とす。
「……私としましては、速やかな転職をおすすめします」
断言されてしまった。
とはいうものの、パーティを組むのはなぁ……。フジノキ達なら、改めて頼めば笑いながら組んでくれそうだけど、それだと迷惑かけることになるし、なによりおんぶに抱っこになる可能性もある。それは嫌だ。
かといって転職も……。エルやフジノキに見得を切った以上、挑戦する前に諦めるってのも嫌な話だ。
……ま、仕方ないよな。
ガリガリと頭をかく。
「クエストを受けられない理由についてはわかった」
「はい、ですのでこちらの資料を――」
受付さんが渡そうとしてきた書類を手で遮る。転職用の書類か何かだろう。
「いや、転職やパーティを組む予定も今のところないんだ。ありがとう」
断りを入れ、その場を立ち去ろうとした俺を、受付さんが引き留める。
「少々お待ちください」
振り向くと、受付さんは先ほどの書類とは別に、小さな袋を用意していた。
「こちら、支度金と回復薬類になりますのでお持ちください」
「支度金?」
「はい、当面の衣食住についてはこちらでおまかないください。本来であれば開拓使で管理している宿舎や食堂が基本無料でご利用できます。ですがその利用には開拓使への貢献度が必要であり、貢献度はクエストの達成で得られますので……」
受付さんは眉をひそめた。
なるほど。本来であれば最低限の衣食住が保証されているんだが、クエストを受けられない俺はその権利がないのか……。
「わかった。このお金を使い切るまでに、なんとか軌道に乗せろって事ね」
「……はい」
まあ、もしくはお金がつきる前に、転職なり何なりしろって事だろうけど……。
俺は受付さんからその小袋を受け取り、腰のポーチに入れる。
「ちなみに――」
受付さんが息をつく。
「――そちらのお金はコダマ様のような奇特な方たちのためにコルネリウス長官が自費で用意したものです。心してお遣いください」
コルネリウス長官というと、港で演説していた人か。
俺みたいなのが、そう何人もいるとは思えないけど、わざわざ用意してくれるとは……。
よく気のつく人なんだろうな。しかも身銭を削ってとはね。
俺は小袋を入れたポーチを軽くたたき頷く。
「わかった。開拓に貢献できるよう頑張るさ。ありがとう。それじゃあね」
軽く手を振ると、受付さんは深くお辞儀を返してくれた。
「はい、よろしくお願いいたします」
受付の人。最初の印象は冷たい感じだったけど、なんだかんだで丁寧に対応してくれたよな。そのせいもあって列の処理が遅かったんだろうか。
後ろの人には申し訳ないが、個人的にはすごくありがたかった。
そんなことを考えながら、未だ混み合う開拓使庁舎を出る。
外に出るとそこは中央広場。中央には大きな時計塔があった。その短針はまだ頂点に遠い。見上げる時計塔の奥にはみそらが広がっている……。
うん、いい天気だ。早速町の外に向かうとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
エルのひとりごと
さて今回はフジノキ君の加護、ランドグリーズについてだよ。
これって結構強力なんだけど、好き嫌いがものすっごく分かれるんだよねー。
内容? スキルやアーツ、マジックで確率が作用するものはその確率が言い方向にアップする代わりに、そのほかの確率、例えばドロップ率とかが下がるんだよね。
個人的にはうーんって感じかな。
あと、エルルーンの加護に関してはごめんね。
嬉しかったし時間もなかったから、相性に関してはスルーしちゃってた。
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