第24話 佐崎京助と生徒会長
菫との会話から数日が経ち、世間は間もなくゴールデンウィークの大型連休を迎えようとしていた。
当然、教室内の会話もそれで持ち切りになる。
どこに遊びに行くかを計画し合ったり、家族旅行について自慢したり……毎年、特に連休というものを感じず、変わらぬ日々を過ごす晶からすれば、まるで異次元の会話に思えた。
(こういう時、友人がいないのは気楽でいいな)
1人、ポツンと自席でぼーっと過ごしながら、手持無沙汰を紛らわすため、汐里に勧められたライトノベルを読む。
そんな行動がさらにクラスメイトを遠ざけ、彼を1人にしているのだが、晶本人はまったく気が付いていない。
「一姫はゴールデンウィークどうするんだ?」
「……え?」
不意に佐崎に声を掛けられ、晶の方から目の前の少年に視線を戻す。
佐崎に美空といういつもの2人だ。一姫は内心、彼らと懇意にしつつも他のクラスにいる残り2人が羨ましく思うくらい、彼らに絡まれることが多かった。一応友達なのだから当たり前ではあるが。
「ゴールデンウィーク……特にまだ決めていないわね」
「じゃあさ、みんなでカラオケ行こうよー!」
元気よく言う美空。この3人の中ではアグレッシブな彼女が主導権を握ることが多い。
人懐っこい性格で、一姫としても好ましいと思う少女だが、多くの男子から好意を寄せられる彼女は、その明るさ故に視線を集めることも多く、結果彼女達のグループを目立たせていた。
「カラオケ……いいなっ! そういえば、すみれとかゴールデンウィークはどうなんだろう」
すみれ――現役アイドルでもある隣のクラスの明星すみれだと、一姫は頭に浮かべる。
いつも笑顔で、ちょっと天然で、ガーリィな可愛さのある少女。悪く言えばぶりっ子。
女子からは敵視されそうな少女であるが、彼女に関しても一姫は特に嫌いな印象を抱いていない。話したのも数度で、佐崎を通じた知り合いという程度に留まっているのが一番の理由だが。
「京助、さすがに明星さんは来ないんじゃない? こんぷら、とかあると思うし」
「そうかなぁ。でも聞くだけならタダだろ。な、一姫」
「私に振らないで。別に彼女のマネージャーじゃないのだから」
「でも今日明星さん休みだよ。収録だって言ってたから……って、これじゃああたしがマネージャーみたいじゃん!」
そう一人でケラケラ笑う美空に、一姫も、佐崎さえも苦笑する。
基本的に佐崎たちの会話は刹那的で生産性のない会話が多い。
しかし、それは特別空虚なわけでもなく、高校生ならば当たり前のものだ。
向こう見ずに楽しいを追求する彼らの姿勢も、世間一般にいう青春の在り方の一つなのは間違いない。
かくいう一姫も中学の頃はこんな会話を楽しんでいた筈だ。
監視者を志しつつも、それはまだ先の未来として夢見ていただけの頃は、彼女も佐崎達と変わらない、普通の子どもだったのだ。
しかし、ここ1ヶ月ほどの体験が、当たり前の日常に虚しさを感じさせる程度に、彼女を変容させていた。
(ゴールデンウイークか……)
というよりも、たった1人の少年を意識するあまり、他のことに気が回っていないとも言えるが。
「佐崎君たち、なんか先輩が呼んでるよ」
「え?」
クラスメートの言葉に佐崎が反応し、一姫の意識もそちらに向く。
見れば廊下から、女子生徒が1人軽く手を振ってきていた。
「あっ」
佐崎が咄嗟に立ち上がり、駆け足で廊下に出る。流れで美空と一姫も。
「やあ、佐崎君。それに美空君に御堂君も」
「わ、わざわざどうしたんですか、生徒会長?」
すらっとした長身と怜悧な顔立ち。一部女子からは『王子様』というあだ名で慕われているこの女子生徒の名前は
この神夜高校の生徒会長を勤める3年生の生徒だ。
「ゴールデンウイーク中の生徒会活動日について、伝えられたら思ってね。私は君達を勧誘している身だ。ぜひ一度活動を見に来てもらえたらと思っているんだ。メモに書いてきたから、都合がつく日があれば一報くれると嬉しいな」
二鶴は3人を見渡しつつ、そう微笑む。
メモには活動のある日時と、二鶴の携帯番号が記載されていた。しっかり3人分用意してある。
なんとも絵になる美人だが、一姫はこの女性が苦手だった。
上級生だからだろうか、まるで頭の中まで見透かしているかのような鋭さを感じることがある。
それに笑顔を浮かべながら、その瞳の底はどこか冷たく——佐崎達は気がついていないようなので、一姫の考えすぎと言われてしまえばそれまでだが。
「御堂君」
「っ 」
そんなことを考えていると、やはりまた見透かしたようなタイミングで二鶴が声を掛けた。
「君もぜひ。御堂君とは一度ゆっくり話してみたいと思っていたんだ」
「……検討します」
「ふふっ、よろしく頼むよ」
二鶴は軽く肩を叩き、そのまま去っていった。
美空が緊張した旨を口にし、佐崎も頷きつつ教室に戻る。
そんな中、一姫は二鶴の背から目を離せなかった。彼女がわざわざ一姫にだけ名指しで念押しをしたことに、何か意味があるように思えたからだ。
当然、歓迎できる意味では無いと思いつつ。
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