第二章 ○新天地
第*話 移り変わりを
絶え間ない悲鳴と雄叫び。そして武器のぶつかり合う音が戦独特の喧騒を生み出している。
頭の片隅でこれは何処で聞いても変わらないなと思いながら、ムステトは目の前の男に剣を振るった。
防具の隙間を狙った剣先は男の喉元に吸い込まれ、生首が驚愕の表情のまま宙を舞う。焦茶の頭髪が血を吹き出して地面に落ちていくのを横目に見ながら、ムステトは残っている身体を蹴倒した。立ったままだった首なし死体は簡単に倒れ、ムステトは次の獲物へと狙いを定める。
「こ、こんなのがいるだなんて聞いてない…!」
一番近くにいた敵兵は武器を震わせながら泣いていた。パッと見、己と同じぐらいの歳だろうか。
ムステトが一歩踏み出せば逃げ出そうとしたのか背中を向けたために、ムステトは魔法を使ってその敵兵の足を凍らせた。
「えっ…。」
身体がつんのめって不思議そうな声を上げる青年の首に、ムステトは容赦なく刃を差し込む。前のめりの身体はそのまま地面へと崩れ落ち、顔だけが空を仰いだ状態となる。首は完全に断ち切れずに、皮一枚で繋がっていた。
逃げても無駄だということを行動で示したからだろうか。周りの敵兵が距離をとった上で、同じように魔法を使われるのを警戒しているのが分かる。
敵は皆及び腰で、何とも居心地が悪い。
せっかくの“狩り”なのに、これでは思う存分に楽しめないとムステトは思考する。
ムステトがこの者たちの命を狩り取ろうとまた一歩と踏み込んだ時、遠方より撤退の合図が鳴り響いた。
自軍側ではない。相手側の撤退の音だった。
「はぁ…。」
それに思わず、ムステトは落胆の溜息を吐いた。
昨日より撤退の命令が早くなっている。
頭上を仰いでみるとそこには澄んだ色の空と、流れるようなすじ雲が視界いっぱいに広がっていた。そこだけを切り取れば地上の転がる肉塊も血溜まりも、嘘のような長閑さである。
…長閑といえば、木陰でカラーナと語りあった時間も己に似合わぬくらい穏やかだった。
今頃あの子はどうしているだろうか。
ムステトは遠く離れた地より、ローシンシャにいる彼女のことを想った。
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