第17話 言葉の毒
小屋の上から、メリルとルークは見えなくなった。
元々メリルをここに連れてくる予定ではなかったのに、どういう手違いでルークは彼女をこの場に連れてきてしまったのだろう、とカラーナは不思議に思った。
そしてすぐに、まぁ別にいいかと思い直す。
大体策は上手くいった。本番はここからなのである。
「大変だねぇ、噛まれちゃって。」
カラーナはわざとバカにしたような声を下にいる少年たちに向けた。
「だから『逃げないの?』ってわざわざ聞いてあげたのに。」
嘲るように笑うのは慣れていない。
楽しくないし、仕事でもない。けれど、彼らがカラーナの“仕事”を邪魔するからしょうがないのである。嘲り笑いは目の前の彼らを参考にしてみた。
カラーナは「大変だねぇ。」と繰り返す。
「毒蛇かもしれないのに。」
少年たちはびくりと肩を震わせた。
そして乱雑に散らばった危険地帯から既に距離をとっているためか、少年たちの一人が強がったような笑みを浮かべ始める。その顔は口の端が引き攣っていて、少し歪だった。よく見れば鼻が赤い。
「へん、知らねぇのか。ここらには毒蛇も、毒蛇で死んだやつもいないんだぜ。」
「ふーん、そうなんだね。」
うんうんと頷いて、「じゃあ君たちの誰が一人目になるのかな。」とカラーナは続けた。
「だっ、だから、ここに毒蛇はいねえって…!」
「それがいるんだよね、私が混ぜたから。」
ヒッ、と四人の誰かが喉を鳴らす。
「ツテを使ってさ、集めた蛇たちの中に一匹だけ混ぜておいたんだよね。どうせなら四匹の毒蛇を用意できたらよかったんだけど、流石に難しくて。一匹だけなの。」
ごめんね、とカラーナは笑顔で謝った。
少年たちが顔を白くさせ、こちらを注目しているのがよくわかる。
「でも大丈夫だよ。その毒蛇は聖教会のツテを使って集めたものだから、悪い子じゃなかったら噛まれたりしないもの。」
「…え?」
「ねぇ、知ってる? リモデウス教じゃね、蛇は神様のお使いって言われてるんだよ。」
この話は結構有名である。
少年たちももちろんそのことは知っているようで、すごく驚いたような反応はしていない。様子を見るに、彼らはカラーナのツテの部分に驚いている。
『白玖聖術に毒は効かない。』
つまり身体に毒を取り込んでしまうと、いかに怪我も病気も治せようとも白玖聖術は役に立たないのだ。
リモデウス教にはそれ故にか、元々なのか。蛇を使った刑罰がある。
それは証拠不十分な罪人の前に毒蛇を放って、その者が噛まれるかどうかで有罪であるかを量るというもの。やむ終えない理由などがあって、酌量の判断が難しい場合も行われることがあったらしい。
今では廃れ気味となっている方法であるが、やる処ではやっているだろうというのが通説であった。
そして、リモデウス教では自然に生活しているうちに毒蛇に噛まれた者が出た場合、この刑罰が神によってなされたのだろうと捉えるのだ。その者は罪を犯して、気づけぬ周りの代わりに神が天誅を下してくださったのだと。
だからリモデウス教では、蛇は神よりもたらされた使者とされる。
「その毒蛇に噛まれると大変なんだってさ。噛まれたとこがすぐに赤くなって、ジクジク腫れて、翌日のうちには死んじゃうんだって。それで死ぬまでの間に、噛まれたところは釘を打ち付けられてるみたいに酷く痛むんだとか。
普通じゃない特別な毒蛇だから、もしかしたら私が知らない間に増えてるかもしれないね。」
カラーナはつらつらと言葉を重ね、眼下にいる少年たちを見やった。
「で、噛まれたとこは赤くなってる?」
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