⑪小説家という者は

 いつぶりだろうか。久々に筆を執った。自分のものだと思っていた彼女が結婚してしまってからというもの、万年筆が重くなった。

「作家先生なら、それすらネタにしろ」と、編集から言われたのは記憶に新しい。が、書けないものは書けないのである。


 愛用していた「万年筆」は彼女がくれたものだった。

今持っている「これ」は師匠からもらったものだ。世間からすれば、こちらは千金に値するだろう。


紙との引っかかり方が違う。

持った重みも、何もかもが違う。


小説家という生き物は、女々しいものが多い。師匠もそうであったように思う。

そうでなければ、こんな風に筆を執ることはない。


彼女との日々は、とても楽しいものだった。僕はその思い出を1つ、小説にしてみようと思う。

彼女の心を推し量るのはいささか難しいものではあったが、もう一度あの日々を体験できて、とても嬉しかった。


願わくは、来世というものがあるのなら、彼女と結ばれる人生を送りたい。

















以上が、先生の遺稿であり、本作は完結したと思われる状態で発見されました。

先生のご冥福を編集部一同、お祈りいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る