20.本当の別れ
「今日の月もとてもきれいですね」
「ああ。さすが、スーパームーンだ」
月見団子を供えて、食べる分もとっておいて、それを食べながらの会話だった。
「先生、私、この前和菓子屋の若旦那に結婚を申し込まれたんです」
「知っているよ」
「それで、親にも相談して、受けることにしたんです。そのお話」
「そうかい。良かったじゃないか」
嘘だった。お互いに嘘を吐いていた。先生の顔は歪んでいたし、私の話は半分嘘だった。
実は大騒ぎになったのだ。許嫁であることを明かさずに通っていたために、よその娘に求婚したと思った和菓子屋の夫婦から家に連絡が行ったのである。
誤解は無事に解けたが、私は親から今までにない叱責を受け、別邸の着物たちも捨てられてしまった。
「今日は月末ですし、今日限りで辞めさせていただけますか。勝手な話なのはわかっています。申し訳ありません」
「いいとも。僕のところで働き続けるのは君のためにも良くないし、色々準備もあるだろう」
「ありがとうございます」
「給金も今日渡してしまうから、少し待っていてくれるかい」
給金なんてどうでも良かったが、先生は逃げ出したいのだ。この場から。大人しく待っていることにした。
「ご祝儀と言っては少ないかもしれないが、最後の給金だからね。良いように使ってくれよ」
「・・・・・・はい」
雇ってくれた時と同じ笑顔で、だいぶ分厚い封筒を受け取った。
そうして、深く一礼して、この浪漫の詰まった家から、輝いていた思い出から、私は去った。
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