⑨片恋
僕の人生において、恋というのは麻薬であったし、なければならないものでもあった。
僕の書いていた小説の都合上、取材のような意味で必要であったことも否定はしない。
編集に言われて変えたスマートフォンとやらに入っている連絡先には、たくさんの女性の名前があることも事実だ。時折メッセージが来て、艶っぽい誘いをされることもある。
彼女と出会ってからは適当に受けていた誘いを断っていた。それを受けることを浮気だと思っていたからだ。
彼女と過ごしていた時間はそれだけに集中したくて、それ以外のつまみ食いをすることはいけないことであると、勝手に思っていた。その癖は今も直っていないらしく、というよりは、単純に性欲というものが失せてしまった。
色も味覚も性欲も失われて、残ったのは少しの言葉と過剰な愛と後悔だった。片想いは片想いでしかなく、一方的なこの愛は暴力にも等しい。失ったのと同時に僕の心を粉々に砕き、人間としての生活を奪っていった。
医者に処方された薬を飲んで良くなってきているということは、恋の穴を埋める材料として役に立っているということだろう。
味覚は戻り、食事はある程度美味しいと感じるようになったが、やはり2人で食べていた頃と比べるとそれほど美味しくもない。
恋は人生のスパイスであった。
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